2◇前世の記憶
今回はずっと説明だけをしているので、読むのが面倒だという人は後書きに要約を載せてますので、そちらを読んでください
前世の少女漫画の事を思い出して、侯爵を化け物とさえ思い始めた私ですが、なぜそこまで結婚を嫌がるのかわかりまして? もちろん悪魔との結婚は嫌だとは当然思いますが、というか相手が心読めるからという理由が大部分なのですが、実はここに侯爵様と結婚したくない他の理由があるのです。
この世界に“持ち人”と呼ばれる人々が存在しております。
“持ち人”というのは、この世界に生前の記憶を持って生まれてきた者達の事で、彼らの伝える文化や技術・学問は発展をもたらすと重宝され、国からの保護を受けることができますの。
前世での生が地球の者もいますが、他の惑星や世界で生を全うした者も多いのです。つまり、数多の文化や技術、学問の恩恵をこの世界は受けており、前世の日本での生活に負けず劣らずの快適な生活送ることできるのです。
そうは言っても、利権や費用などの理由によりこの世界においてそれらの超越したモノを利用できるのは、王族や貴族などといった権力者に集中しているのが現状ですが、私は貴族ですので十分にその快適な暮らしに身をゆだねていますわ。
“持ち人”の中には前世の縁に悩み悲しむ者も多いと聞ききますが、私は幼いころから少しずつはっきりとしていく頭の中のモノに多少の違和感はあれど、今ではすっかりその記憶に馴染み、いたって普通の貴族令嬢になっています。
私にとって前世の記憶とはわたしの記憶でありながら私の記憶ではなく、今を生きる自分には必要のないものという認識でした。言葉にするのは難しいですが、もう一人の自分の記憶とでもいいましょうか。
その“わたし”と私では周りの環境も所属する社会階級も価値観もほとんどの点において違います。もちろん、その記憶がずっと自分の中にあるのだから影響を多少は受けていますが、前世とは違う人格を私は今回の生で見事作り上げているのです。前世のわたしは過去の私であり、現在の私ではありません。みなさんも成長と共に考え方も変わるでしょう? それに似ていますわ。もちろん、いくら今世では前世と違う人格を作り上げているとは言え、前世の記憶がある以上、少し懐かしむ記憶はありますが、やはり今までに見た他の“持ち人”よりも前世への思い入れは浅いように感じますわ。
さて、私はこれといって不可思議な発言や奇妙な行動をしたこともないですので、誰にも“持ち人”であると気付かれたことはありません。
というよりも、人々も“持ち人”であることを隠す貴族がいるなど考えたこともなかったのですわ。
先ほど言ったように“持ち人”であれば、平民であろうと国から保護を受け、生活を保障してもらうことができますし、貴族ならばその前世というアドバンテージは名誉にもつながります。
それゆえ平民が今の生活が崩れるのを恐れて国に“持ち人”であることを報告しないことありますが、欲望の塊である貴族が己に有利な“持ち人”というステータスを使わないわけがないのです。
それではなぜ俗物の自覚もある私が“持ち人”であることを隠すのでしょうか。
まず、一つに女性の“持ち人”が少ないということがあります。詳しい理由は判明していませんが、“持ち人”は男性が多く、現在この国に登録されている女性の“持ち人”は誰一人いないのです。たったの一人もいないのです。そのような中で私は持ち人ですわ! とはさすがに言い出しにくいでしょう。
そして一番大きな理由は、前世のわたしの専攻が哲学であったということです。
え? それだけ? などと思わないでくださいませ。
確かに哲学の知識と言うのは思想の広がりにおいては大きな役割を持ちますが、生まれるが遅すぎました。哲学を専門として研究していた者や、歴史に哲学者として名を残している者が既にこちらに転生していたので、所詮大学で四年間学んでいただけの前世の知識などは書物に記してありますし、哲学を女だてらに語るのはこの世界において少々外聞が悪かったのですわ。
さまざまな世界から知識や技術がもたらされたとはいえ、それらはあくまで他の世界のもの。
その世界で少しずつ創りあげられてきたものならば少しずつ浸透していくでしょうが、急にもたらされたものはなかなか馴染みにくいものです。
特に学問の思想などにおいてそれは顕著でした。
先代達が少しずつ築き上げられたものがあちらこちらで試行錯誤しながらやっと、最近のものに至るのです。
たとえば政治などが良い例でしょう。昔の人々の起こした革命や戦争など、多くの犠牲を払ってやっと平等と言われる民主制に辿りつきましたが。それを王のもとで政治が行われているこの世界で、無理矢理持ち込んでも無駄に血が流れるだけです。
そして、それらの抽象的な思想というものは明確な答えがないために正しいと断言することもできず、すぐには人々に受け入れられません。また受け入れられたとしても表面上のものであり、価値観や考え方がそう簡単に変わることなどありませんもの。
つまりこの世界において女とは男に付き従うべきだという考え方も根強く、学園で学んだ者達の一部以外は地球でいう中世の貴族社会の人々とほとんど変わりないのですわ。とは言っても、貴族の女性としての尊厳は守られた上での男尊女卑ですから、そこまでは酷く虐げられることはありません。
そんな状況で珍しい女の“持ち人”、しかも古株の貴族達には理解されにくい哲学というものを学んでいたと知られたら、まず間違いなく貴族のなかでも敬遠されます。
もちろん中にはそれでも構わないと近寄ってくる人もいるでしょうが、そのような変わり者など私は遠慮させていただきたいものです。
女性で学園に入り学問を学ぶことはあまりなく、現代的な思想を前世の記憶の中に持ちながら私の考え方は旧いままなのです。けれど地球において最新とされる考え方はこの世界にまだ合わないのですから、私の時代に合わせた考え方は間違っておらず、私の中にあるような前衛的な思想を持った者と馴れ合うなど貴族令嬢としてふさわしくない行いだと思っておりますわ。
結婚が貴族令嬢の務めであり、それが女の幸せだと思っておりますし、実際生家で一生を過ごすというのは世間体もあり居心地が悪いだろうことは簡単に想像できます。このまま“持ち人”であることがばれさえしなければ、私は貴族令嬢として妥当な一生を終えるはずです。
そこに降って湧いてきた心読みの悪魔との見合い。もしここで心を読まれて“持ち人”であることが知られてしまったら、結婚相手は見つからないでしょう。いえ、それでも構わないと近寄ってくる方もいるかもしれませんが、そのような変わり者など私が(ry
もう見合いに夢を持つどころか、一生をかけた戦いの場になるかもしれないなどと考え始めると、侯爵が嫌で嫌でたまりません。なんであのような悪魔と会わなければならないのでしょう、もし“持ち人”だと人々に知られたらどう責任取ってくれるのでしょう。
何よりもあんな悪魔と見合いなんかしたくないわ!! 気持ち悪い!!
一番最後が最も本音に近い気がします。結局は面倒くさい背景よりも、悪魔であることも方が問題なのですわ。
女とはとても残酷なものだということで。
もっとも、私は都合の悪いことはすぐ忘れ、物事を深く考えないという貴族令嬢の特性により、こんな面倒くさいことなどすっかり忘れ、嫌悪と欲望と少しの好奇心を残して見合いに向かうことになりました。
――要約――
なんと、カトリ―ナの前世の大学での専攻は哲学だった!
そんな知識はすでに本に載ってるし、生前の記憶を持つ“持ち人”の中で女性はこの国にはいないし、こんなことが貴族に知られたら結婚相手の候補が減っちゃうから、“持ち人”であることは隠しとこっと☆
なのに、心が読める侯爵様とのお見合いだなんて、“持ち人”だとばれるかもしれないし、さっそくピンチになっちゃった!!
もう、なんで侯爵様は私を選んじゃったのよぉ! この悪魔め☆
こうなったら、そんな面倒くさいことは忘れてお見合いに行っちゃえ☆
――――――――――――――――
間違ったことは言ってないです☆




