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 それから息をひとつ漏らすと、ベッドから立ち上がり、部屋の隅に視線を向けたまま、

「私、長嶺くんのこと本当に好きだよ。正直、情けないやつだなって思うし、だらしないやつだなとも思うけど、そういうのも含めて、私にしてみれば新鮮だったの。なんか、一緒に暮らしたら楽しいんだろうなあって思うし。だから最後にこんなママゴトセットみたいのをこしらえてみたりしたけど、結局、長嶺くんの中にはもう、私の入るスペースはないみたいだから。諦めることにした。両親や妹たちには悪いなって思うけど、私はここで終わり。ゲームオーバー。この育て方ではどうにもならなかったよって、せめて彼女たちが次に活かせれば良いなと思う。それで妹のうちの誰か一人でも、卒業できれば良いなと思う」

 彼女のその言い草が気に入らなかった。

 と言えば、それだけなのだろうと思う。

「卒業出来るとか出来ないとか、それがそんなに大事なことなのか?」追うように、ベッドから立ち上がる。「それが出来なかったからってなんなんだ。何でみんなそんなにこんなことに必死になるんだ。何で泣くんだ。何で僕にそうさせるような大役を押し付けるんだ。良いじゃないか。出来なくたって。卒業出来なくたって、それでも良いじゃないか。重いんだよ。いちいちいちいち、みんな、重いんだ。何で僕にそんな話をするんだ。何でこんな試験をするんだ。全然わからない、みんなが何を考えているのか全然わからない!」

 勝手に悲観ぶって、勝手に話を進める。

 みんなそうだ。

「何で諦めるんだよ。まだわかんないだろ。時間だって全然ある。何がそうさせるんだ。にぃなちゃんの何が、そんなことを言わせるんだ」

「長嶺くんにもいつかわかる」

「いつかってなんだよ」

「なんだろうね。でもそのうち、全てを理解する」

 しきさんの言葉が思い返される。「長嶺さんはわからなくてもいいんです。そのうち、あなたの今の疑問は、全て解消される。今は悩んでも悩んでも出てこない答えが、すっきりと解決される。あなたは今、流されるままに、身を任せればいいのです」それは、いつだ?

「じゃあヒントを上げる」振り返った作り笑顔。「なぜ、みんなは試験が終わるまでここに留まるのか?」

 言われて、激情が静まる。

 それは、僕が今まで散々考えてきた「違和感」であると、思い当たった。

 最初、又野さんと小路さんは「家庭がある身だからその都度家に帰る」という話をしていた。

 そうだ。

 つまり、街に帰ること自体はそれほどの苦難ではないのに、御子野瀬さんは「なかなか街までは遠い場所だからね。一辺に運ぶことになっている」と言った。

 なぜか? 一辺に運ぶことにそこまでの利点があるのか?

 なんなら、又野さんたちが送ることだって出来るはずだ。それなのにどうして一度に運ぶのか。

 いちかちゃんは不敵な笑みを浮かべると、顔を近付けてきた。

 そして耳元で、

「不合格者は家には帰らないの」

 囁くと、それを咥えるように、キスをした。

 短いものだった。

「どうせ読めないから、お勧めの作家さんはもういいや。今までありがとうね。本当に大好きでした」

 顔を離すと振り返り、部屋のどこかへ向けて声を上げる。

 女の子たちは知っていた。自分の部屋が見られていることを。

「御子野瀬さん、私失格でしょ? そうじゃなくても、棄権でいい。もうこれで試験はおしまい。ご苦労様」

 数分もしないうちに、御子野瀬さんが部屋にやってきた。

 そして彼女の腕を取り、

「長嶺くん、彼女から聞いたことは深く考えなくて良い。少しの間待っていてくれ。すぐに戻ってくる」

 出て行く。

 一人残されたまま、彼女の言葉を考えていた。

「不合格者は家には帰らない」?

 でも、御子野瀬さんは確かに、「不合格者は、最終的にかえることになる」と、そう言ったのに。

 帰るって。

 かえる。

 かえる?

 

 ――還る?

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