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彼女は拒絶した。
両手で僕の肩を押し、
「だめだよ」
そう言った。
「ごめん」
「謝るなら、いちかのこと選んでね。なーんて」
明日にはどちらかは落ちる。
明日にはどちらかに決めなくてはならない。
辛い。
今までの試験でもそうだった。
なぜ僕は選ばなくてはならないのか。
なぜこんな試験が、政府公認でまかり通っているのか。
おかしい。
「疲れているんだね、ベッドに横になっていて良いよ」
いちかちゃんは僕の手を取ると、ベッドの上に導いた。
為されるがまま、そこに寝そべって、縁に座る彼女の背中を見ていた。
「私も疲れたよ」
声はそのままに、いつもとは違う調子で、いちかちゃんは呟いた。
「大丈夫?」
「じゃないかも」溜息をつき、「そのまま私の顔を見ないで聞いてね」
いちかちゃんは語り始める。
「私、別に自分のこと可愛いだなんて思ってないの。だってそうでしょ、世の中にはたくさんの女の子が居て、みんなお金を掛けて美を磨いている。うちは貧乏だし、無計画に子どもをたくさん産んじゃって、正直お金が全然ないの。両親も結婚できたことが嬉しかったんだね。自分たちが結婚できた証をたくさん作っておきたかったのかなんなのかは知らないけど。私は長女として生まれたから、家の中で最初にこの試験を受ける。両親としては私にこの試験で一位を取ってもらって、それで夫を手に入れて、安定してもらいたかったのかな。だから、男に好かれる女に育てられた。可愛い子ぶりっ子なんて言うくらいだから、所詮まがい物。私だってそれくらいの自覚はある」
「そんな」
「聞いてて」
彼女はこちらを向かないままだった。
にぃなちゃんも昨日自分のことを「代用品」だと言っていた。
どうしてみんな自分を卑下するのか?
「でも長嶺くんと出会って、そう育てられてきたことに感謝した。この人に好かれたいって思ったから。今考えれば馬鹿みたいな話だけど、何万回も練習してきた笑顔を見せて、長嶺くんの顔が綻んでくれるなら、その心に少しでも入り口を作れるなら、今までの苦労も報われているなら、私は自分が可愛くなくても、両親に感謝する。そういう気持ちで居た」
背中がどんどん丸くなっていくような、そんな気がした。
どんな顔をしている?




