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「誰が悪いわけでもないなんて、生まれたときから知ってるんだぁ。こういう制度があることも、誰かは卒業できずに終わってしまうことも、全部、それこそ当たり前のように教えられてきたからね。いつかは自分にもそういう時期がやってきて、誰かと争って、醜いかもしれないけど誰かに気に入ってもらうために必死になる必要が出てくるんだって。小さいときから知ってるの。でもやっぱり、感情ってそういう知識で押さえ込めるものじゃないじゃない? どうしたって、誰かのことは貶めてやろうって思っちゃうし、そういう自分を止めることも出来ない。仕方ないってわかっていても、仕方ないってだけで全部を済ませられるほど小さな話じゃないからさ」言い終え、「って、いちからしくないかな?」

「わからない」と言ったのは、最後に対してじゃない。「なんだか、僕とみんなの中では、大きな齟齬があるような、そんな気がする」

「ないよ、そんなの」いちかちゃんもそれを理解した。「みんな、同じなんだ。本当のところは何もわからない。こうだよって説明されたから、そうなんだって従っているだけ。……って、つまらない話になっちゃったね。もっと別のこと話そうか」

「……そうしよう」

 いちかちゃんはテーブルの下にもぐらせるように足を伸ばした。

 健康的な四肢。

 制服から覗く四肢が、この部屋において、異質なものに思えたのは、なぜだろう。

「長嶺くんは、野球とサッカーだったらどっちが好き?」

 唐突な質問に、言いよどむ。

「えっと、サッカーかな」

「何で?」

「一人でも出来るから」

「出来ないよ」と言っていちかちゃんは笑った。「試合にならない」

「そうだけどね。壁相手にも出来るから。野球はほら、自分でフライを上げて自分で取りに走るってなるとスペースも必要だし、労力的にしんどいけど、サッカーは壁をゴールに見立てて蹴れば良いし、跳ね返ってくれるから」

「なんだか変な考え方」

「そうかな? 基本的に、余り大人数のスポーツってやったことないから」

「そっか」

「学校の友達とは、本の話とかが多かったかな?」

「読書、好きなんだもんね」

 会話を続けながら、いちかちゃんとにぃなちゃんの違いを考える。

 にぃなちゃんは「自分を知ってもらうための会話」をしたが、いちかちゃんは「僕を知るための会話」をしているように思えた。それのどちらが良いのかはわからない。僕を知ってもらうことも、相手を教えてもらうのも、今後結婚し生活をともにしていくのならば重要なことに変わりはない。

 でも、誰を知るにも、一日なんて短い間で、得られるものが全てではない。

 僕にも彼女にも、十八年の積み重ねがある。あくまでもここで語られるはかいつまんだものでしかない。

 それならば会話にどんな意味があるのか?

 声を聞き、声を出すことにどんな意味があるのか?

 この一日は「知りたい」と思う欲求をどの程度満たしてくれるのだろうか。

 彼女の満足いく程度のことを僕は話せるのだろうか?

 思考が散漫になっていたところに、

「聞いてた?」

 いちかちゃんの声が割り込む。

「ごめん」

「上の空だったよ~? いちかと居ても面白くない?」

「そういうことじゃないよ」慌てる。「そうじゃないんだ。色々考えてしまって」

「いちかだって考えているよ。例えば」間を取ってから、「しきちゃんと何をしたのか、とかね。ずっと、考えてる。失格になるってことは、何かがあったんだよね?」

 明言されなかった要因について、やはり直球を投げてくる。

 顔は、笑っていない。

 いや、形で言えば笑っているのかもしれないが、そこに無理があることが見て取れる。

 どうしてか、悲しくなる。

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