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 言いきり、目を逸らし、切り株から下りる。

「戻りましょうか。変に勘ぐられてもあれなので」

 校舎に戻りついたときには、仄かに日が翳り始め、にぃなちゃんと過ごす時間も残り僅かなのだと悟る。

「話ばかりして、これが最良のデートだったのかはわかりません」前で手を組み、やや顔を俯かせた形で、彼女が言う。「でも思い残すことはありません。話したいことを話せ、連れて行きたい場所に連れて行けた。ちゃんと言葉で、好きだと言えた。長嶺さんの考え方にも触れることが出来ました。だから、悔いはないです」

「そんな、最後みたいな」

「最後かも知れないですからね」一瞬の愛想笑いをくれる。「試験とは全く関係なく、今日の夜寝たら、明日には目が覚めないかもしれない。そんなことも、ありうると思うんです。生きている限り、ありえないと言うことはない。そんなこと起きるわけがない。そんなことをするはずがない。こんなものは自分の人生において絶対にあってはいけないんだって、そんなことを考えるのは愚かです。自分でも思いもよらないことが起こり、予測していなかった行動を強いられる可能性は十分に存在する。そういう全てを肯定してあげないと、ただ自分の首を絞めるだけですから」

「じゃあ、僕も、ひとつだけ言っておこうかなと思う」

「なんでしょう?」

 校内に入ろうかという歩みを止め、こちらを見たにぃなちゃんを視界に捉える。

 それが、まさしくそれが、

「とても美しい人だと思う」

 言うと、呆けた表情を作ってから、慌てて顔を背けた。

「何でそんなこと言うんですか。私は、汚い人間ですよ」

「そんなことないよ」それこそ、と続ける。「僕が否定しようと僕を優しい人間だと褒めてくれるように、僕はにぃなちゃんのことを美しい人だと思う。外面もそうだけど、それだけじゃなくて、内面から、全て。綺麗な人だと思うよ」

「よくもまあ……」小さく何かを呟いてから、「ロマンチストを相手にすると何を言われるかわかりませんね」

 茶化すように、照れているのを隠すように、一際大仰に溜息をついてみせる。

「うん。ロマンチストだからね。我慢してね」

「ずるいですよ」

「にぃなちゃんがそう言ったんだから、僕はずるくないよ」

「それが、ずるいです」

「あともうひとつ良いかな?」

「なんですか?」

「敬語、使わないで話して欲しい。最後になるのかもしれないのなら」

 少し考えるような間。

「うん。わかった」

 そして、たったそれだけの台詞なのに、新鮮味を重々帯びて見える。

「僕は一段高いところに居るのだとしても、それが偉そうに見えるのだとしても、やっぱり対等なつもりで居たいよ」

「うん」

「ありがとう」木々を振り返る。「今日は楽しかった。話ばかりというけれど、これが一番、僕たちの距離を縮める選択だったと思う。だから」

 これを言うのは正解だろうか?

 それとも卑怯な手だろうか?

「なに?」

「今度は僕の話を聞いてね」

 見つめ合い、彼女は笑った。

「機会があれば、いくらでも」

 そして外した視線は二度と合うことなく、彼女は校内へ入ると振り返らず、自分の部屋へと向かっていった。

 まだ、時間は残っていたが、やりきったと判断したのだろうか。

 僕も一人で、部屋に帰っていく。

 呆気ない別れ際に、胸が締め付けられるように感じるのは、恋か。

 それとも明日いちかちゃんと過ごして、にぃなちゃんを落としてしまう、つまり、本当にこれが最後の一日となってしまうかもしれないと、どこかで負い目のようなものを感じているからだろうか。

 味気ないパンを食べ、にぃなちゃんのハンバーグを思い出す。

 眠る前、浮かぶのは十人の女の子たちだった。

 その中で、しきさんは薄く、口元だけで笑っている。ような気がした。

 眠れば、明日を迎える。

 明日はいちかちゃんとの一日になる。

 それとも、明日を迎えず、死んでいるかもしれない。

 それはそれでも、悪くはないかな。

 ゆっくりと目を瞑り、思考を中断した。

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