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「さて、まず始めに言っておく事がある」

 しきさんのいない教室で、それを不思議に思った女生徒二人に対し、御子野瀬さんは訥々と語る。深夜僕の部屋を訪れ、規約違反に当たる行為を行ったこと。そのため彼女は失格になったこと。そして彼女が抜けたことにより次の試験が最終審査になること。またそれも、昨日話したディスカッションではなくなるなど、まるで予め用意していた文章を読み上げているだけのように無感情に淡々と彼は説明した。

 二人は話を聞いてるうち、驚き、何か言葉を漏らし、僕のほうを見ることもあった。ただ僕は全てをシャットアウトし、それらに五感を向けなかった。ただ情報として受け取るに留める。

 しきさんの離脱は、確かに唐突なものであった。彼女が誰に勝てないと、どちらに勝てないと弾き出したのかはわからない。そして該当しうる二人にはそうさせた原因が自分である自覚など微塵もないように思われた。

 人は無意識に他人を傷付ける。貶めてしまう。僕もそうしたことがある。今回もそれだったのかもしれない。判然としないところだ。

 御子野瀬さんの説明は続く。

「最後の試験に、明確な題はない」

「どう言う意味ですか?」

「ただ二人にはそれぞれ一日ずつ与えられる。長嶺くんを占有できる。端的に言えばデートみたいなものさ。一日をともに過ごし、長嶺くんからの好感度を上げる。ただそれだけ。ようやく恋愛らしい試験になったよ。ああでももちろん、失格に当たる行為はないように」

 面白いわけでも無かろうに、疲れた顔が柔和な笑みを見せる。

「デート、ですか」

「占有……」

 二人はそれぞれに言葉を反芻する。

「失格に当たらなければ、何をしても、何を話しても構わない。よろしく頼むよ」懇願するようだった。「長嶺くんはその二日間で、どちらをより好んだか、どちらを妻に迎えたいと思ったか、その気持ちに従って判断を下すだけ。今までの試験を加味するのかどうかも君が決めていい。まあ必然、総合的に見るのだろうけど」

「わかりました」

 彼は僕の目を見た。

「それじゃあ順番は二人で決めてくれ。前者後者どちらを選んでも両日試験は正午からとする。相手の試験中、部屋から出るなとは言わないが、妨害するような行為があった場合は即失格、試験終了となることは了承しておいてくれ」

 御子野瀬さんが言い切ると、又野さんが軽く手を挙げた。それを認め、彼は彼女に場を譲る。

「二人とも、よくここまで残ったね。先生はそれが誇りです。もう、卒業ができないと決まってしまったほかのクラスメイトの分も、悔いの残らないように頑張ってね」それから、と言って彼女は矛先をこちらに向ける。「長嶺さん。あなたの判断を責めることはしない。でもやっぱり、許せそうにもないわ。ごめんなさい。最良の判断は世の中に存在しない。それでも、よりよい選択はほかにあったとも思う。こうならない、別の選択が、別のルートが、確かに存在したと私は思う。……いや、あなたを責めることは間違いよね。でも、それでも言わせて。最初から、ここに来たのがあなたでなければ良かった。それは、あなたが魅力的に映ってしまう人間であるという褒め言葉だと受け取っておいて」

 何を返す間も与えず、一度外した視線を誰にも合わせることもなく、彼女は教室を去った。

 その言葉は、試験に落ちてしまった八人の生徒のその後を見れる立場にあるから出たものなのだろうと考えた。泣き、辛みを吐き出す彼女たちと対面したのかもしれない。

 僕にはそんな魅力などない。又野さん自身も、僕に魅力を見出してはいない。それは仕方ないことだと思う。僕は普通の人間だからだ。

 ただ、彼女たちにとってそうなってしまったというそれが、彼女は許せないのだろう。不可抗力と言ってしまってもいい。それも彼女はわかっている。わかった上でも、愛を込めて、今までの日々をともにし、心身ともに成長させるべく努力してきた気持ちを、ぽっと出の僕なんかが握りつぶしてしまったことを、頭では仕方ないと言えても、心からは許すことが出来ない。

 それはよくわかった。

 僕もそうだからだ。

 何度も考えてきたことだからだ。

 でも、僕はそんなことを言ってはいけない。だから受け取るしかない。投げられた言葉を、ただ受け取るしかない。

 最後の試験。

「さあ、順番を決めてくれ」

 御子野瀬さんの声が、耳に届いた。

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