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それから一時間。もはや昼食と呼ぶには遅い。
五番手のにぃなちゃんは湯気のもうもうたる鉄板を運んできた。又野さんも一緒に教室内に入ってきて、控えめに御子野瀬さんのほうを見た、ような気がする。その表情に対し彼がどんな顔をしたのか、後ろにいるためわからなかった。御子野瀬さんは何も言わない。
湯気の中心部にはこぶりなハンバーグが三つ、余熱に悲鳴をあげている。
「お肉だ」
言うと、
「がんばりました」にぃなちゃんは笑った。「なかなか作らないものなんですけど、美味しくできていると思います」
付け合せにポテトとブロッコリーが添えられている。
なるほど先程の目配せは「五番手なのに重いものを作った」という憐憫なのかもしれない。ただ、今言ったように小さめに作られているため、このくらいなら難なく入るだろう。何よりお肉は久々だった。
「頂いてもいいですか?」
「うん」御子野瀬さんは低い声で答える。「存分に召し上がれ」
まるで彼がこさえたかのように言うので可笑しかった。にぃなちゃんは微笑んだまま、手で促した。
ナイフを通すと、肉汁が溢れ出る。それがまた鉄板に浸り、少しずつ気化していく。食欲をそそる音だった。
頬張ると、口腔内を火傷しそうになるほど、それは熱かった。鉄板を用いたのは良策だったと言える。食事は舌だけでなく鼻や目、皮膚でも行うものである。
小ぶりという配慮もまた、しきさんに通ずる。なおかつこの場合三つに分けられているため中断もしやすい。ただ結局は全てを食べた。
満腹極まり。この様子では夕食は入らないだろうが、あの味気ないパンをまた食べず幸せな状態のまま眠れるならその方がいい。
お腹をさすっていると、
「おそまつさまです」
にぃなちゃんが声を掛けてくる。
「おいしかった」思えばこればかり言っている。「ばっちりだったよ」
普段あまり自信のなさそうなにぃなちゃんであったが、僕が言いながら親指を立てると、控えめながらそれを真似して返してくれる。同じ場所に立つという彼女らしい仕草とも言える。
「これにて試験は終了。長嶺くんは夜までに合否を決めてくれ」
しきさんの野菜炒飯に始まり、涙を流したくるみちゃんのムニエル、大盛り過ぎたナナのナポリタン、甘い甘いいちかちゃんのフレンチトースト、そして意外に豪胆なにぃなちゃんのハンバーグと、多少の差異はあるにせよ全て美味しく食べたことは事実で、ここから三つ合格を、いや、二つ選んで切り捨てなければならないということが、心苦しい。
どれも家庭を想起させるには十分であったし、また、その端々に人柄も良く出たものに思われた。決めるのは難航しそうだが、悩んでばかりもいられない。慣れと言われようがなんだろうが、いずれは落とすのだ。待たせてネガティブな側面に頬ずりさせるより、早期決着が好ましかろう。
同情はいらない。
僕は、興味と下心で決めなければならない。
しこりはあるが、それは変わらない。
さて、誰に、どの料理にしようか。




