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下見を終えた一行が戻り、しきさんを残して自室に帰った。この間に食材集めを済ませれば効率的であろうに、これはあくまでも試験であり仕事ではなく、そこを求めるのはお門違いと言うやつか。
与えられた一時間で最低一品を仕上げる。全く不可能なところではない。ただし一番手においては何を作るのか、どれを使うのか、を考える猶予があまりなく、不利と言えばその点は不利にある。一方では、一番手は最も僕の空腹状況が芳しく、また現段階において被る心配をする必要もないし、食材も豊富で思うままに作ることが出来る。これが利点と言えよう。
「目安一時間というのはなにも時間いっぱい使えということではないから。早ければ早いだけ手際の良さで加算できるし、ギリギリまで凝ったものを作成してもそれはそれで加点対象になりうる。どう時間を使うか、長嶺くんの采配にもよるが、彼の妻となった気で、作ってみてくれ」
先ほど全員の前で御子野瀬さんはそんなことを言っていた。
つまりただ待ちただ食らうだけがこの試験の本質ではない。僕の方でもこの時間は有用せねばならない。
例えば結婚し、仕事を終えリビングでテレビを見て待つ。あるいはシャワーを浴びているとして、どのタイミングでご飯が提供されるのが好ましいのか、そういう想像を膨らませることも大事に違いない。
この場面において僕と彼女たちはそれぞれに夫婦と仮定される。愛し、慮ってくれるのが誰なのか、それはひとつの尺度としてあっても、いいだろう。
しかし、夫婦。
甘い言葉である。
「じゃあしきちゃん」又野さんが声を掛ける。「移動しましょうか」
頷き、教室を出ようとするので席を立つと、
「長嶺くんはここにステイで」
そう言われる。
てっきり、料理それ自体の手際も対象とした試験かと思っていた。
腰を戻し、
「なぜです?」
聞くと、
「焦らしも女の手だからね」
そんな気障なことをさらりと返された。




