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「おはよ〜」
どうやらねぼすけだったいちかちゃんが、あくびを漏らしながら入ってきた。無防備なそれに、思わずどきりとする。しきさんとの会話を聞かれたのではないかと思ったのか、彼女自身に高鳴ったのかは、判然としない。
「おはよう」
しきさんが微笑みを向ける。僕も続けた。
「お昼からだったんだー」呑気にそんなことを言っている。「まあ今日仮に試験に遅刻したんだとしても、連絡ミスのせいだよね」
依然眠そうにしながら窓辺に寄って、外ではしゃぐ三人を見た。
「まだ時間もあるし、いちかちゃんも遊んでくれば?」
「ううん」そちらを見たまま言った。「ここにいる」
寝起きで気分にならないのだ、と誰かに言い訳するように、思う。
いちかちゃんが席についたのとほとんど同時に御子野瀬さんが入ってくる。髭を触りながら、彼も眠そうな顔だ。黒板を見て、そうだったのかあ、などとすっとぼけたことを言っているのが可笑しい。あれは又野さんの字だったか。
外に視線を向け、
「若いねえ」そんなことを言って煙草を取り出し、くわえたところでしきさんの視線に気付いたらしく、「あ、ごめん」
しまおうとするが、
「別に、構いませんよ。御子野瀬さんがよいのなら」
しきさんに言われ、
「お気遣いどうも」
などと言いながら結局火をつけた。
女の子たちは御子野瀬さんの存在に萎縮したかのように黙りこくった。僕もあえて口を開こうとはしなかった。
そうしていると、小路さんが姿を見せ、
「おはようございます」
まずしきさんが挨拶を繰り出す。
「おはよう」小路さんは笑みを浮かべて返事をし、「長嶺さん」
予想外にこちらへ声を掛けた。
「はい?」
「ちょっとよろしい?」
御子野瀬さんに目配せをし、柔和な表情のまま僕の返事を待っている。
断れるはずもなかった。




