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残った手札は五枚だった。ババはない。
ゲストは優遇されるべきとまとまったらしく、僕から時計回りの順番となる。
ナナから一枚カードを抜く。揃わない。
いちかちゃんが僕から抜く。揃う。
そんなことをぐるぐると回しているうちに、一番が決まる。
「やった」
くるみちゃんだった。
罰ゲームを用意しているわけではないので、そこで勝負が終わる。
「げー、くるみかよぉ」ナナが不服そうに背凭れに身を預けた。「私だと思ったのになあ」
そうやって付け加えるから、個人に対する悪意がないことがわかる。
「良いじゃないたまには。ね?」そしてこちらに視線を向けてくる。「ほらほら」
右手を伸ばしてくる。
おずおずと手を差し伸べると、向こうから、ぎゅっと、握られた。
そこで、自分が尋常じゃない程度の手汗を掻いていることに気付き、僕は慌てて手を離そうとした。
しかし彼女は離さなかった。まるで隠れるところのないその両の目をこちらに向けて、にこり。
吸い込まれそうな、変な心地だった。
手を握っただけなのに。
「こらこら、長いぞー」隣からいちかちゃんが声を掛けてくる。「いいかげんにしろー」
あえて平坦を装ったような声音の、芝居のような台詞だった。
くるみちゃんはパッと手を離す。
「満足満足」
何事もなかったかのように腰を下ろす。
僕だけがぼんやりと突っ立っていた。
ふむ。
おなごの手は柔らかい。
そうして勝負はその後四回続き、いちかちゃん、ナナとそれぞれ一回ずつ、くるみちゃんとは合計三回手を握った。しきさんとにぃなちゃんは勝てず、また、僕が勝つこともなかったので救済することも出来なかった。
時計は七時半を少し回ったところを指している。
「あっという間だねえ」
いちかちゃんがカードを整えながら言った。
「そろそろご飯かー」
「今日はなんだろうね」
「夕食からは自室に篭もりっきりだから暇だよねー」
「抜け出しちゃう?」
「みんなで示し合わせてナガミネの部屋行ったらどうなんだろうね、全員失格?」
「それならそれでいいかもねー」
などというガールズトークを聞きながら、僕はどきどきすることもなく、全く別のことを考えていた。
楽しい時間はあっという間で、ご飯を食べて眠れば、また明日は試験だ。
場を囲んだ内何人かとは、また、会わなくなる。
心臓が、掴まれたようだった。
誰に、だろう。




