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「あれ、邪魔した?」

 走り去るにぃなちゃんを見ながら、ナナはつぶやいた。両手をブレザーのポケットに乱暴に突っ込んだ様は最初の試験と同様である。

「いや」なんと続けたものか逡巡し、「問題ないよ」

 それだけを言った。

「にぃな、引っ込み思案だからなあ。会話を聞かれたくなかったのかも」

「聞こえてたの?」

 だとすればどこからだろう、と考えたが、ナナはにへらと笑みを浮かべ、

「全然?」不敵に返す。「いい子なんだけどね、どうも照れ屋さんだから」

「だろうね」

 ナナは僕の横につくと、

「何見てんの?」

 言って、木のほうを見上げた。僕は視線を上げず、

「なんでもないよ」

 と返す。

 不服そうにしたが、構わない。

 ナナはスカートが汚れることも厭わず地べたに座り込むと、隣を叩いた。躊躇したが、あぐらの横に体育座りで腰を落ち着ける。

「ナガミネ大変?」

「どうかな、わかんない」

「まあみんな可愛いしなあ」誰かも、そうして周囲を褒めていた。「まあ残念ながら最後に残るのはあたしだけど」

「自信家だね」

「そのほうが楽だからね」

「楽? そうかな」

「そうだよ」その言い様が自信満々だった。「ネガティブに物事を考えて良いことなんてほとんどない」

「全く否定するわけでもないんだね」

「そりゃ、マイナスあってこそのプラスだからね。背中合わせなのか隣り合わせなのかはわからないけど、切っても切れない関係には違いないと思うよ。でもどっちかに偏りすぎるなんて疲れるじゃん」確かに、比較的ネガティブなにぃなちゃんもポジティブな面がまるでないわけではない。「要はバランスの問題なんだけど、どちらかに寄るなら、ポジティブに寄ったほうが良い。あたしは出来る子。問題ない子。可愛い子。そうやって思っているほうがよっぽど健全だと思うね」

「なんだか」地面の石ころを拾ってお絵かきを始めたナナのほうを見る。「自信家というか、大人なのかもね」

「大人? あたしが?」けらけらと笑った。「そんなことないよ。ウケウリってやつだよ基本的には。考えているようで考えていないがあたしのモットーだから」

「それでも十分、感ずるところはあるよ」

「褒めてんの? ナガミネそうやって勝ちへの布石を積んでおくつもりだな?」

 結婚は勝負、と言っていた彼女の言葉を思い出す。

 実際、人間関係というものは大抵勝負なのかもしれない。対等なつもりであっても、対人関係において優劣が存在しない場面はひとつも存在しない。それは友人であれ、家族であれ、必ずそうだと思う。負い目なのか劣情なのか、意識的なのか無意識なのかは問わず、結局はそこに勝ち負けがある。

 それに、このようにして「卒業試験」と言いつつも勝ち負けを決めるような仕組みが、世の中には溢れすぎている。誰かは負け、悔しい思いをする。勝者のための世界。優れた者のための順序なのだ。

「馬鹿だなあナガミネ」

 地面に犬だか猫だかの絵を描いたナナは、その筆となっていた小石を前方に放ってから、まるで世界の終わりでも眺めているかのような、感情のない顔でポツリと呟いた。

 着地した石は当然、波紋を起こしたりはしない。

「勝つのはあたしだから」相変わらずこちらには一瞥もくれず、「全部においてね」

 立ち上がるとスカートを叩いて、満面に笑みを湛える。

 僕はそれを見上げた。彼女もこちらを見た。

 スカートの隙間から、

「だから首洗って待っとけよ」

 彼女が惜しげもなく「布」と言い切った下着が、

「うん」

 ちらりと、

「さて、みんな考えることは同じだね。次の子が来たから退散するよ」

 見えた。

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