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昼食はホットサンドだった。レタスにトマト、ツナが入ったものだ。一応食べはしたが、ほとんど苦行のようなもので通りは悪く、ふた切れ目は押し込むように処理した。
一番に食堂を出る。合格者といえど、ムミュールの台詞が効いているのか、浮かれた様子は余りなく、空気は重かった。
校庭の空気は打って変わって清々しく、空は高かった。隅の方まで歩いていき、鬱蒼とした林と対面する。まだ二日目。なのに見えないとなると街が、母の手料理が、恋しかった。
そのまま木々を見ていると、
「大丈夫ですか?」
声を掛けられた。
振り返ると、にぃなちゃんが居る。
「うん」
返事はそれだけで、彼女も何も言わなかった。
隣に肩を並べる。
僕の視線を追うようにして葉の一つを見ていた。
それは虫に食われ、穴だらけになったものだった。
「何かを失うことは、何かのためになっているんだよね」
茫漠とした思考を言葉にしてみたが、うまくいったかはわからない。
「ええ。誰しもが、なにかの上に立っているんだと、私は思います。私も」そしてこちらを向いた。「そこにちゃんと立ちますよ」
僕も、彼女のほうを見た。
まっすぐに視線がぶつかる。
「私もちゃんと、全ての上に立ちます。足を掴むモノがあるなら、私が取り払います。だから」少し言いよどむ。「だから、長嶺さんも私の足にすがるモノは、取り除いてください。私はそれが、結婚という事だと思います」
彼女はこちらを見つめたまま、真剣な表情を崩さない。
真正面からそれを受け続けることになにか抵抗があり、僕は視線を外す。それは照れだったのか、負い目だったのか、判然としない。
わざとらしく伸びをする。
「しっかし、わざわざこんな山奥で試験を行う必要ってなんなんですかね」
にぃなちゃんは微笑んだ。
「こうすれば長嶺さんは私たちを見る以外に何も出来なくなりますからね」それが本心からのものかどうか。「でも都会のごみごみした喧騒から離れて、ゆっくりと言えるかはわからないけど深呼吸をするのは、大事だと思いますよ」
「そういうものかなあ」おどけて大仰に息を吸い、それを吐きながら、「選ばれないと卒業できないってのも不可思議な話だよなあ」
「難しいコトですけど、ここは昔からそうですから」
そうしてプレハブを振り返る。
「昔から、ねえ」どうも御子野瀬さんの言い草と齟齬を感じたが、言及はしない。「ありがとう」
「何がですか?」
彼女はきょとんとして視線を合わせてくる。
「心配」
「ああ」と言って笑った。「本当は違うんです」
「違う?」
「不安で、押しつぶされそうで、覚悟が揺らいでいたのは私のほうなんです。みんなのように自信もないし、本当は苦しくて、泣きそうで、辛いんです」それでも彼女は笑みのままだった。「長嶺さんに選ばれるにはどうしたらいいのか、毎回考えて、夜も眠れなくて。それは、卒業したいと言うよりも……」
そうしてその視線がばっちりと僕の瞳を捉える。
目を離せなかった。
「ナガミネ〜」
呪縛を解いたのは、ナナの声だった。
まず、にぃなちゃんが視線を外し、僕もナナのほうを見た。
「じゃあ、私、行きますね。なんだか愚痴っぽくてごめんなさい」
淡く頬を染めながら、にぃなちゃんは小走りにプレハブのほうへ戻って行った。




