33
「決まりました」
先程の教室に戻り御子野瀬さんに声を掛けると、彼はもう何本目の煙草なのか、吸っていたものを携帯灰皿に押し込んで、少し悲しげな顔のまま、
「うん」
と言った。
決断までに要した時間は比較的短かったと思う。こういうものは延ばせば延ばすだけ判断力が鈍くなるし、後悔になると、そう思って、直感を大事にする。
「じゃあ、合格用の封筒七通と」右手に重ねている。そして左手の方に視線を向け、「不合格用が二通。決して間違えることのないようにね」
「はい。あの」と声を掛け、「いつみちゃんは、どんな顔をしていましたか?」
続けると、御子野瀬さんは一層悲しそうになる。
「まあ」そして言いよどみ、「君に隠しても仕方ないと思う。泣いていたよ」
僕は、当たり前のことなのに、わかっていたことなのに、胸がきゅうっと締め付けられるような感触を味わう。
「そう、ですよね」
「でも彼女に関しては、彼女の不手際だ。最後にはちゃんと納得したよ」それに、と言う。「みんな、覚悟して、ここに来ている。君は試験官であって親じゃない。彼女らに親身になりすぎて合否が下せなくなるなら、悪いが降りてもらうことも辞さない。最後の一人、つまり妻として迎える人間以外には、不合格を言い渡した時点で情は不要。意味は、わかるね?」
「……はい」
「うん」封筒を渡してくる。「不合格者は、最終的にかえることになる。そうしたら君との関わりは今後一切ない。君は君の好みだけで選んでいいんだよ。彼女たちの内情は大事にすべきだが、君は君の気に入った子を選ぶ。それだけの話だよ」
「わかりました」
「それじゃあ名前を書いたら最初の教室に来てくれ。又野さんと待ってるよ」
そう残して教室を去る。
一通一通、なるべく丁寧に名前を記入していく。少しでも誠意が伝わればいいと思う。
書き終え、それを託す。今日はもう部屋へ戻って休むよう伝えられる。封筒は夜の二十二時に各部屋へ配るとのことだった。
「明日、朝九時にここへ来るように」
教室を出かけた僕へそのような声が来る。
明日には、七人へと減っているわけだ。
部屋は簡素で、入ったことなどないが、独房を想起させる。ベッドと、トイレと、机しかない。窓ははめ殺しで、換気口は天井付近に細長く設置されている。
出入り口の鍵は二種類あり、内側から掛けるもののほかに、外側からも掛けられるようだった。不合格者の部屋は外側から施錠されるのだろう。
扉には開閉式の小窓があり、夕食はそこから差し入れられた。なるほどまさしく独房だ。今日のメニューはパンとシチューだった。うまくもまずくもない。いや、味の判別も頭が許さず、口に入れるとすぐに吐きそうになった、が正確である。
もう、三人とは会わない。いつみちゃんはともかくとして、あとの二人は僕の意思でそうした。一人につきたった五分。それでもつらかった。
明朝。配布されたパンを一口だけ齧り、まだ時間には半時間ほど早かったが、教室に向かった。
「あら、早いのね」又野さんは書類にペンを走らせていたが、僕に気づくとそう言った。「よく眠れたかしら?」
「いや、ほとんど寝ていません」
返すと、彼女は不敵に笑う。
「そうでなくちゃ困るわ。私の生徒を落としたんですもの。あなた個人に対して恨みを持つのはお門違いだけど、やっぱりあなたは好きになれないかもしれない。でも、許してくれるよね?」
彼女の物言いは仰々しく、畏怖を覚える。女性からすればやはりこんな試験、理不尽に違いないだろう。
僕は軽く頭を下げ、自分の席に座りその時を待った。




