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「十三とおこですわ」
試験が開始されると、大仰に足を組み、右手を口元に、その肘の辺りを左手の甲で支えるようなポーズを崩さないまま、その子は言った。
僕はそれを見て、これはまたまた、大変なやつが着てしまったぜ、などと考えている。
御子野瀬さんは隣で苦笑を漏らしている。
「さ、なんでもお聞きなさい」
ぐいと顎を上げ、読んで字の如く「上から目線」を実践し、とおこさんが言う。何人か「さん付け」をしていたが、ここまで言わされている感の強い人は初めてだ。
「あ、ええと、お嬢様?」
「そんなこと、いちいち教えて差し上げないとわからなくって?」
「これは、失礼……」
平謝りをすると、とおこさんは不機嫌さを微塵も隠さず、
「わたくし、あなたのような平凡な男性に選ばれる立場で居るなんて、耐えられないわ」
そんなことを言う。
「そう言われても、そういうものでして……」
御子野瀬さんが少し、会話に集中するように身を乗り出す気配があった。
なぜかはわからない。
僕はそれを横目に気にしつつ、
「なんでも聞いて良いんですか?」
「構いませんわ。ただし、仕方がないから答えてあげる、という姿勢をわたくしが取っていることは、お忘れにならないようになさい」
へい。
心のうちで気の抜けた返事をする。
御子野瀬さんはまた興味なさそうな顔をして背凭れに寄り掛かる。
「休日は何しているんですか?」
「まあ!」驚いたようにそう言ってから、嘲ったようにふんと鼻を鳴らす。「凡人はそんなこともわからないのですね」
「あー、はい」まあいいや。「凡人なのでそんなこともわからないんです。で、何しているんですか?」
「お茶会に決まっていましょう」
「お茶会?」
「良質な紅茶を近隣の方々と飲みながら、歓談いたすのよ」
「そうなんですの」あ、移った。「お紅茶ね」
やえさんが「和の人」だとすると、とおこさんは「洋の人」といったところで、方向は違うが、向き方には似たようなものを感じる。
「お紅茶なんて馬鹿にして、あなたに紅茶の何がわかると言うんですの?」
ちょっと怒ったようだ。
ええと。
「ごめんなさい」素直に限る。「わかりません」
これはまたクドクドと語られるパターンか、と思ったが、そうはならなかった。
全く、と呟きながら、髪を触っている。
「謝るくらいなら最初から言わなきゃいいんざます……」
そんなことを言うから、思わず吹き出してしまう。
御子野瀬さんは最初と同じような苦笑を浮かべている。
「なんですの?」とおこさんだけがわけもわからないという顔でこちらを見ている。「何を笑っているんですの」
「いや、ざますって……」堪えられなかった。「ざますって本当に言っている人、初めて見ました」
ぷぷーくすくす、と笑っていると、
「う、うるさい!」
顔を赤くしてつーんと背け、右手で顔を仰いでいる。
なるほどやえさんより未完成な感じがする。
「あと二分ね」
「あっと」それを聞いて、こちらを向かないとおこさんに声を掛ける。「あの」
「なんですの」
「とおこさんにはちょっとおこがましいと言うか、失礼な話かもしれないんですけど……、僕と結婚したら何してくれます?」
「何ってなんですのよ、ぼやぼやした質問ですこと」
「いやあ」これはまさかの返答。「ぼやぼやさせたほうが答えやすいかと、そういう配慮……」
ふん、とまた、鼻を鳴らす。
「まずはそのだらしない髪型をなんとかしなければなりませんわね。あとそのダサい服装も」制服です。「わたくしがあなたを立派な紳士にして差し上げますわ!」
赤い顔のまま、こちらを睨むようにして宣言する。
おかしくて、微笑むと、また顔を背けた。
「よし、それじゃあ終わり。お疲れさんでした、俺」
御子野瀬さんがストップウォッチを止め、とおこさんを教室の外へ連れて行く。
落ちた溜息が御子野瀬さんのものだったのか、とおこさんのものだったのか、判然としなかった。




