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遥か彼方へ続く道 ~AlmeCatolica Online旅日記~  作者: じゅくちょー
5thEp "歩みは止まらず、でもちょっと休憩"
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#69 お祭りの勝者というか一番頭オカシイ人

「ふっ……」


 見た目スタイリッシュな着地を決めた彼女はどうしてかニヒルに笑い、流水の動きでポーズを変える。それはどこぞの改造人間の変身シーンか、もしくは某神拳の奥義を連想させた。

 まず初めに荒ぶる猛禽類を模り、奇妙な冒険をする人達のような姿勢になり、無意味に七回転スピンを決めた後、最後は思わず見惚れる程に美しいDOGEZAとなったのだ。

 そして、まるで敬虔な信徒のような声で願いを口にする。


「おたからください」

「…………………………………………」


 なんだろうね? こう、自分が真顔になってるって自覚できるのってそうないと思うのよ。

 ……とぉねさんが頭抱えてる姿が幻視できるねー。


「ねえリリシア……ここはこんな儀式が必須なの?」

「うふふ、まさか。――でもポイントは入りますわよ?」

「ハハハ正気ですか運営」 


 ちょっと趣味入り過ぎではなかろうかとは思うものの、妙な納得があるのも事実だ。

 基礎を作った人は"狂人"などと呼ばれているが、それを引き継いだ連中も大概というか実は類友の結果な気がしなくもない。


「で、その類が友を呼び続けた結果のジュンさんは一体何事でしょう」

「おおっとカナタ君、何気にゲーム内で初めて直接顔を合わせたというのにつれないね!?」

「だからその土下座からの名状しがたきポーズを止めてください。お宝を貰いに来たのか私の正気度を減らしに来たのかどちらですか」


 ……いや、キリッじゃなくてですね? ドヤァでもありませんて。

 そんなジュンさんの奇行を前にリリシアがウィンドウをサッと操作すると、PON!と軽いSEとエフェクトと共に、これぞまさしく『宝箱』というものが出現した。


「有難く頂戴っ!」

 

 シャキ――ンとポーズを取ってジュンさんが素早く宝箱に触れると、箱は一瞬で粒子となって吸い込まれていく。システムメッセージらしいウィンドウがジュンさんの横に表示されたところを見ると、アイテムボックスに自動で入ったようだ。


「ここにもお宝とやらはあったんだね」

「勿論ですわ。せっかくのお祭りですのに、何も無いのは寂しいでしょう?」


 確かにここは城の頂上付近でもある訳だし、お宝の一つや二つ、あってもおかしくはなかったか。

 しかし、となると他のプレイヤーの姿が見えないのは何故だろう? 今回はそういうルールな訳なので、ジュンさん以外にも常識が吹き飛んだ人たちが来ると思ったのだけれど。


「そもそも、その宝箱って何が入っているので?」

「この中身が気になるかい!?」


 やたらとジュンさんのテンションが上がっているが、そんなに良い物なのだろうか? しかし、ジュンさんの性格を考えると現金とか単に高価な代物とかではないと分かる。プレミアついてるような限定品とも考えられるが、ただそれも"ここ"に配置する理由としては弱いだろう。

 あれ、待てよ? そういえば前提を確認してなかったか。


「中身は"物"? それとも"権利"?」

「"権利"ですわね」

「権利の範囲はゲーム? リアル?」

「どちらかと言えばゲームの方だぜよ!」


 なるほど。リリシアとジュンさんの回答から考えれば、道理で人が来ないはずである。

 ジュンさんらしいと言うか、上手くいけば宝石やらが手に入る可能性があるというのに、全く興味がないようだ。


 ……うん、中身がさっぱり分からん。


 難易度の高い場所に配置したのは運営であり、それを気に入ったのはジュンさんだ。もっと深く考えれば分かる気がしなくもないけど、今はイベント中なので、そちらを放置する訳にはいかないか。


「と言う訳で、時間もないので答えをどうぞ」

「ふふふふ、聞いて驚くがいい! なんとこれは次回イベントの運営側参加権だっ!!!」

「次回イベントの……"運営側"参加権?」

「ざっつらいとぉ!」


 誰かが操作したのか、公式HPで公開されている説明文が載ったウィンドウがすぐ隣にぺっと表示された。

 その内容は単純で、


『開発運営と一緒に次回イベントを企画し、プレイヤーを弄――盛り上げてみてみませんか?(原文ママ)』


「……うわぁ」

「くっくっくっ、参加した連中の理性を悉くブレイクするようなイベントを用意してやるぜぇ……」

『うぇへっへっ、例え嫌な予感がしても限定アイテムを用意すれば入れ食いだぜぇ…… byイベント企画担当』

「実況と解説はお任せですわ♪」

「お任せぇー!」


 単なる地獄絵図な件。

 絶対関わりたくないね?


 いや盛り上がってるとこ悪いのだけど、まず問題になるであろう事が一つ。

 ……いや、この様子だと、もしかしなくとも満たしているのか?


「その条件だと、ジュンさんがこのイベントの上位に入っていないといけないと思うのだけど……ええと、現ランキングのウィンドウは――」

「こちらですわ」


 差し出されたウィンドウを見て、ジュンさんの名前を探そうとし、


「一番上にあれば、すぐに気が付くよねー……」

「ふっ……わたし自身の華麗な才能が怖いゼ」


 内訳を見れば、香ばしいポーズやセリフなどの加点以外にも、他プレイヤーの迎撃や宝箱の回収数がぶっちぎりだ。ここで話をしていてもまだ二位に追い付かれはしないという程である。


 つまりこれで次は阿鼻叫喚が確定ということだね?

 よし、絶対関わってやるものか。弟を生贄にしても逃げきってくれる!


「無駄な抵抗って言葉を知ってるかいカナタ君」

「画餅に帰す、とも言いますわね」


 ははは、いっそ今の姉をぶつけてみるか? あ、駄目だ。一番被害食うのが自分のイメージしか出てこないわ。弟を盾にしてもお釣りがくる。

 夢ぐらい見せてくれたら嬉しいのだけどなぁー……。


「それはそうとジュンさん、時間は大丈夫なので? もうそろそろ二位との差が大分縮まってきていますけど」

「無論! ――と言う訳で、よいしょっと」

「え?」


 ひょい、とジュンさんが何かを持ち上げた。

 同時、私の腰に手が回ったと思ったら、そのまま引っ張り上げられた。


「……………」

「……………」


 うん、持ち上げられてるのは私だね?

 こう小脇に抱えるような感じで。

 ……なんで?


「ではでは、そろそろわたしは戦場に帰っていくのであった! おっと、そこの妖精ちゃんも一緒に逝くかい!?」

『いくーっ!』

「いいなぁ、流石にボクはいっちゃダメだからねー。残念無念っ!」

「ふふ、どうやら次もお会いできそうですし、楽しみにしていますわ」


 私を置いてきぼりに、盛り上がる私以外全員。

 いやいやいや、なんでとんとん拍子に話が進んでいるのさ!?

 あ、こら姫翠、やっと帰ってきたのはいいけど、そんなに楽しそうにしてはいけません! ほら、その期待に応えようとジュンさんがウッキウキじゃないか! トリアートは……あ、いつの間にか私の服の裾を掴んでスタンバってましたか。

 あっれ、おかしくない?


『オカシクナイヨー、トッテモオイシイヨー byイベント撮影担当』

「だめだ本格的に味方が行方不明だ!」


 思わず顔を覆っている間にもジュンさんは気にせず庭園の端、柵の上に足を掛ける。――当然、私を抱えたまま。

 柵の先から見える奇怪な空飛ぶ街は、先程見た時よりも遥かに恐ろしい光景に見えた。頭の上、姫翠が歓声を上げているのが恨めしい事この上ない。


「ちょい待って下さい。待ちましょう。そこは待とうじゃないですか!?」

「ハハッ、わたしの辞書に待機の文字なぞありはせんぜよ」

「ドストレートに言いますと頭は大丈夫ですかね!?」

「……君も中々毒を吐くよのう」


 いや、そう言いたくなるのも当然だろう。この街の状況、このイベントの内容、そしてそのイベントエリアからの離脱条件。ジュンさんの性格を考えれば、もはや先は見えたも同然だろう。

 これでどこに安心する要素があるのか……!


「安心すると良い。わたしは何事にも全力を尽くすタイプだからなぁ!」

「その熱意をもっと別の方向に使っていただきたく――!」


 言葉が終わるか否かという間で。

 ひょいと、まるで家の玄関から外に出るような気軽さで。

 ついでに私を抱えたままで。 


「――ひぇ」


 ……ああ、すぐ前にも似たような事があったなあ。蹴り落されたか、抱えられたままかという違いはあるけど、どちらも私の意志に関係なくというところだけは同じという。

 あの時とは違い浮遊感は一瞬で、庭園より数段下の階に着地した。忍ぶ気が欠片もない、派手な音が城下町に轟く。

 こんな街全体が稼働している中で、しかしその中を突き抜けて行くかのような声で見栄を切った。


「ふははははははっ! 天よ地よ人よ、いざその眼に焼き付けると良い! この峻天八双影走之絢しゅんてんはっそうかげばしりのじゅん、貴様ら如きに止められると思うなよ!?」


 誰かが聞いているとかいないとか、ポイントが入るとか入らないとか、そんな些細な事(・・・・)は関係ない。それは正義のヒーローがポーズを取るのと同じく、漫画やアニメでキャラクタが必殺技の名前を叫ぶのと等しく、ジュンさんにとってはごく自然な事である。


 ……ふと思うけど。コレ、もはや厨二病というより単にあったまオカシイだけでは?


「ははっ、仕方がないなぁカナタ君! そこまで言うなら、それに応えるしかないではないか!」

「え、いや、そこは応えなくても―――ぉぉぉぉおお!?」

「さあ行くぞ、最初からクライマックス(トップスピード)だぁぁぁぁぁ!」




 ――結局ジュンさんは私を抱えてままで街を疾走し、無事に最端にある離脱ポイントに到達。その間にもポイントを稼ぎまくり、ぶっちぎりの一位でイベントを終えた。


 途中で立ちふさがったプレイヤーや障害物を蹴り飛ばしたり粉砕したりとしていたけど、どう見ても忍者の戦い方じゃないのはいいのだろうか。いやまあステルスするような趣旨のイベントでもないし、本人も相対した人達も物凄くノリノリだったからいいのだろう。


 ただし、最後の"イベントエリアからの離脱"は正直どうかと思ったけどね!?

 『空飛ぶ都市からの脱出』の方法なんて、ほぼほぼ相場は決まっている。加えて厨二全開なイベントから考えればロクなのではないと予想していたけど……長大なカタパルトデッキは遊びすぎではなかろうか。

 しかも運営の優しい心遣いなのか、射出路にはデカデカと『←現実』とまで書かれてある狂気の産物仕様である。……カタパルトにセットされている中で、一番のキワモノである戦車に乗り込もうとするジュンさんを止めるのは大変だったよ。何とか無事に脱出できたのは、いやほんと不思議。


 後はそのまま表彰式である。

 見事一位となったジュンさんは真っ先に『次回イベントの運営側参加権』を取得し、会場を沸かせていた。

 やっぱりイベントとしても金目の物を優先的に獲得されるより、ネタに走ってくれる方が盛り上がるのは当然だよねえ……。実際、イベントに参加しているプレイヤーの大半は高価な品目当てであり、ジュンさんのように"面白さ"を優先させる人は少数のはずだし。

 他には『サバイバル道具』と『パーティグッズ』なんてものを貰っていて、らしいと言えばそうなのだけど……ジュンさん、貴女は何部の長をやってるのですかね?


 なお、ここまで来ると私の出番は既に終わっていた。

 表彰式の司会進行はルヴィが行い、イベントの軽い解説もリリシアが片付けたのだ。『出る?』と聞かれたものの、即答で辞退する以外に選択肢はない。流石にジュンさんのように数万人の前で活舌良く話す自身は無いのである。

 なにやら掲示板が賑わっているとも聞こえたけど、見る訳がない。うん、見ると精神が病みそうなものなんて見てたまるかぁ!


 と言う訳で、イベントが終わって解放された後は早々にログアウト。今日はもう何もせず、頭を空っぽにして全力で寝ると決めたのだ。

 何しろ今日は、よく考えれば中々に濃い一日だったから。バイトと言う名の検査をした後、弟とシリアスな話をして、更にイベントに巻き込まれた。いくらなんでも、もう十分だろう。


 ……なので。

 さっきから携帯端末に分単位で姉から連絡が来ている気がするけど、きっと気のせいである。

 白凪さんが無罪を主張しようと病室に入ってこようとした瞬間、しかし夜勤の時間なので同僚にドナドナされていった気がするけど、きっと気のせいである。

 ついで、ログアウトする直前にルヴィとリリシアから『これから"向こう"でもヨロシク!』と言われ、何やら部屋にいた紗々沙さんから『これからリハビリも面白くなるぞ?』とめっさ不穏な事を言われた気がするけど、気のせいの筈なのである。


「私の平穏って何処にいったのかなぁー……」


 入院した時に自室に置き忘れたのかと思ったけど、よくよく考えたら家でもそんなものはなかったのが悲しいところ。そも持ってなかったのが正解かもしれない。超むなしい。


「早めに渓谷エリアに戻った方が良さそうかな」


 あまり街に長居すると、余計なトラブルに巻き込まれる気しかしない。

 元より飛行船に偶然乗ったから来てみただけ、用事も特にないのだ。消耗品とか、何か長期で歩き回るのに便利なアイテムとかがあれば買っておく程度でいいだろう。


「……これ以上、変なトラブルに巻き込まれませんよーに」


 どこかでフラグが立つ音が聞こえたような気がしたけど、しかし私の意識はゆっくりと閉じていくのであった。


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― 新着の感想 ―
当時楽しんでたのに評価入れ忘れてたのでついでに書き込み 出来れば復活祈願
[良い点] この世界で自分も旅をしているかのようで読んでいて没頭し、とても興奮しました。この世界を創り出していただき有難うございます。願わくばこの旅の終点が見られる事を。
[一言] ずっと待っていますので続きをお願いします。 これは消す気にはならない。
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