表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か彼方へ続く道 ~AlmeCatolica Online旅日記~  作者: じゅくちょー
5thEp "歩みは止まらず、でもちょっと休憩"
80/81

#68 そうだ、お祓いに行こう(切実)

 開いていたウィンドウを消し、溜息を一つ。

 勢い天を仰ぎたくなったけど、解説役として映っているので何とか堪えた。


「……そろそろいい加減、一つ聞いてもいい?」

「あら、何かしら」


 まだ近くでも遠くでも派手な爆音激音が轟く中、ようやく落ち着いたので現実逃避というかそんな感じで目を逸らしていたことを直視してみることにする。

 テーブルには私とリリシア――些か扇情的を越えて破廉恥と言わざるを得ない恰好をした自称姉その2――が対面していた。なおルヴィと姫翠は庭園の端から身を乗り出して観戦中なので、あれは放っておこう。


 できればスルーしたかったのだけどねー……。


 つい先ほどフレンドから、地味に無視できない内容のメッセージが届いていることに気が付いたのだ。

 送り主は副部長さんこと相川先輩、ゲームでは中々会う事のない"とぉね"さんから。学校にいるときはクールキャラなのに、芸能活動(本人曰くゲームもそれに含まれるとのこと)をしている際は際どい恰好で巨乳を揺らすエロ担当なお姉さんという、どこを目指しているのか若干不明な人ではある。

 ただ今回は内容的に部活の副部長として丁寧な文面で、程よくシリアス方面な仕上がりとなっていた。


 恐らく部長さんの応援としてあの会場内にいるのだろうけど、流石にウィンドウに映った大人数の中から探すのは無茶だなー。お礼を言うのは部活とかで直接になりそう……と思ったけどリアルは入院中だし、今は夏休みだから、どのみちゲーム内になりそうだ。


 相川先輩に心の中で感謝しつつ、考えていた問いを投げ――いや、いいか。どうせ固いのとか、カッコつけたのではネタにしかならないに違いない。ならざっくりさっくり聞いてしまった方がどう考えても早い。

 ……もうPVだの解説役だの、いらないっての。


「や、単純な話、何で私のランダム選択で出したアバターが揃ってカジノで働いてたり、クエストの受付嬢とかやってるのかと思って。――誰の趣味だ」

「広報担当ですわね」


 さらっと言われた後、『尋問対応中 by監査担当』と書かれたウィンドウが表示されたが無視する。

 ついで、勢い余ってこの庭園を飛び越えていったジュンさんらしき誰かも見なかったことにしておく。バックパック型ロケットエンジンってもう訳分からんな……。


「趣味は兎も角、あの子(ルヴィ)に関しては単にディーラー担当のNPCが足りていなかった為ですわ」

「作ればいいだけでは? わざわざランダム選択のを使わなくても――」


 す、と指さされた先を見れば、そこには新しく開いたウィンドウ群。

 文字だけのそれらは、


『何体も書いて書いて書いて……お前の趣味なんざ知らねえよぉ!? byデザイン担当』

『バランスが……肉付きが……ボーンが……ふふ、徹夜は3日目からが本番さ。 byモデリング担当』

『関節がね、回るのよ。曲がるのじゃなくて、回るのよ。 byテスト担当』


 何やら怨念がこもった様なホラー風字体で書かれているが、どうやらアバターを一体作るだけでも大変らしい。

 とりあえずそっとウィンドウを閉じ――ても復活してくるので、リリシアが何処からともなく取り出したお札を貼り付けて、横に避けておいた。なお、お札には『残業地獄』とか『クレーマー襲来』などと書かれているように見えたが、いやまあ効果は抜群なのは間違いない。考えた人は鬼か何かか。


「モデリングの素体・素材はあるとしても、やはり一から作るより既に完成しているのを使ってしまう方が、圧倒的にコストも時間も掛からないですもの」

「種族によっては体型とか構造とか、そもそも人間外になるのもあるけど、それとはまた別?」

『それはまず一度普通の人型を用意してから、そこに種族専用の変換処理を流してる感じなのよさ。 byプログラム担当』


 ベースを人型にしておくことで、手足が増えたり減ったり、そもそも不定形になったとしても、リアルとの齟齬を極力軽減させているのだとか。

 というか、次から次へと開発の人たちが湧いて出てない? 暇なの?


『裏話すると、仮想現実対応の病院がすぐ認可されたのも、その辺りが関わってるよね。 by渉外担当』

「ネタに走って下手なモノ作ると、リアルにまで影響するから?」

「そういうことですわね。自由度が高すぎる、と言うのも問題なのですわ。ダイヴタイプの普及に伴い法整備も行われましたが……この世界(ゲーム)が世に出るにあたり、何度も法改正が行われたとのことですし」


 むしろ何故ゲーム内のAIがそんなリアル事情に詳しいのかと聞きたい所ではあるのだけど、もはや何も言うまい。

 くっそ、本題はそこじゃないのに既にツッコミが追い付かなくなってきた……!


『ハハハ、本社の会議室に開発運営から大学教授、医師、弁護士、官僚やらまで集まったのは見ものでしたなあ。 by運営総括と言う名の肉壁』

『途中で海外の政治家まで関わって来たけど、何でウチで話するんだよって思ったね? by取締役と言う名の案山子』


 あかん、もっと突っ込みが必要なのが来た。


「…………いやほんとね? さらっと湧いて出てきてるけど、皆暇なの?」

「あらあら。お仕事が大変なのは分かりますが、現実逃避しても片付きませんわよ?」

『く、くそっ、ダメ人間を見るような冷えた目がツラい! そして仮想世界の住人なのに現実に厳しいAIとはコレ如何に!? by逃げてきた偉い人』


 直後、ぱっと表示が変わって『捕縛完了』の文字が流れてウィンドウごと消えていった。

 どことなく他の開発連中のウィンドウが引いている中、ふと出た疑問を口にする。


「ゲーム会社の上の人たちって、そんなに忙しいイメージないのだけど?」

「……流石にそれは偏見ですわ。場所にもよるのでしょうけど、あの方々はよく『辞められるのなら今すぐ辞めたい』と嘆いていますから」


 全世界から注目を集めるゲームを運営しているものの、その元データは故人が作成したものでブラックボックスも多数。しかしクオリティは従来のとは一線を画す代物で、今なおユーザ数を増やし続けているという。

 そんなゲームの人気にあやかりたい者、技術を奪いたい者、その内デスゲームになるなどと言い出す者など、厄介な人間の相手をし続けているのだとか。


(それに今忙しくなっているのは、貴女に関わりのあるお話ですのよ?)

(……なるほど、そういうこと)


 私が入院した原因である機人に隠されていたギミックは、幾つもの安全確認をすり抜けて発生した"事故"だ。各所への説明は美凪さん含めてスタッフ総出で行われているが、当然こんな時こそ矢面に立つのは偉い人なのである。


「偉い方々のお話は良いでしょう。『アレらは殺しても死なないようなメンタルだから大丈夫だ』、と紗々沙様の言ですし」

「むしろ紗々沙さんが何者だ」


 何が凄いって、それに違和感が無いのが一番凄いのだが。

 どうなってるんだここの運営のパワーバランスとは思うが、どうしてか納得できてしまうのが不思議である。


「さて、話が逸れましたので戻しましょうか」


 言って、幾つかの開発連中のウィンドウを引っ掴むと、いつの間にか足元に置かれてあったシュレッダーに流し込んでいく。

 『うぼぉあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ……』というゾンビの呻き声みたいな効果音で吸い込まれていくが、これ作ったのも今細切れにされている人達なんだよねぇ。

 遊び過ぎなのか、こんな気分転換でもしていないとやってられないのか……うん、どっちでも怖いな。


 そして半分以上現実にお帰りいただいたところで、ようやく本題だ。

 さっき、とぉねさんから来ていたメッセージにもあったが――何故二人揃って私のランダムアバターなのかという理由を、大勢の一般プレイヤーが見ている前で答えてもらう必要があった。


(じゃないと、私が運営の回し者とかそんな感じのプレイヤーだと騒ぐ人がいる、か。面倒なのは間違いないなー……)


 実のところ既に掲示板にそんな書き込みがされているらしいが、目に余るのは順次対応されているらしい。酷いのになるとそれすら言論弾圧やら工作なんて言い出す始末らしいが、そもそも勝手な妄想なのに人へ言葉で殴りかかっても良いと考えている時点でアウトだろう。


『そんな小細工をする必要もないほど、順調にユーザ数は増えているのだがな。 by主任』

(……いやなんで皆、私の心を読んでいくのですかね?)


 どこまで効果があるかは不明だが、私自身も気になっているから、さくっと答えてもらいましょうか。

 あとジュンさん、シリアスしたいので人間ロケットになって上空を飛んでいくのは止めてくれませんかね。毎回ポーズ変えてるとか狙ってるでしょコンチクショウ。

 ……人型流れ星は見ないようにして実際の話としては、


「結局のところ、既に"完成している"と呼べる身体データを使って作成されたアバターを借りることが手っ取り早いという事ですわね。故に、ランダム選択で作成されたものの使われることのなかったアバターは、NPC利用されることがあると規約にまで書かれているのですわ」

「そんな規約があったのね……」

「笑えるぐらいの長文ですけど、規約はしっかり読んだ方が身のためですわよ?」


 分かるけど、分かるのだけど、あの読んで理解するまでに丸一週間は掛かりそうな長文の中に仕込むのはマジで勘弁してくださいよ紗々沙さん。

 読んだところで回避できたともい思えないが、次からはちゃんと読むようにしよう……。

 

「そして、今回の人員が足りていない箇所用に開発がランダム選択に専用ロジックを仕掛け――見事、貴女が条件に当てはまってしまったのですわ。"中身"はどうでにもなるので、某担当の趣味もあって即採用、と言う訳ですわね」

「もし私が先に出たアバターを使っていたら?」

「その時は勿論、他のどなたかが引き当て、使用されたなかったアバターが採用されたでしょう」


 今でも新規ユーザは多いし、中にはリアルマネーを使用してキャラの作り直しをする者もいる。最終的には自分で種族を選ぶ人が多いけど、しかしネタでランダム選択を1回、2回してみる人もまた多いのだ。仮定の話だが、私がゲームを始めるのが一日遅ければ、他の誰かが犠牲になっていた可能性が非常に高かったらしい。


「……つまり、そもそもの原因は」

「貴女がランダム選択を3回しなければ良かっただけですわ。いえ、その3連発の全部で厄介なのを引いた貴女の運も大概ですけど」


 ごんっと鈍い音がしたと思ったら、私がテーブルに頭を叩きつけた音だった。

 あ、駄目だこりゃ。ははは、全く体に力が入りませんな! 虚無感というか虚脱感というか、兎にも角にも精神的ダメージが酷すぎる。


「全ての元凶はランダム選択と私自身のリアルラックだったか……」

「もっと言うのなら、少々特殊な嗜好をした担当()がランダム選択ロジックに予定になかった個人趣味満載の仕掛けをしていたというのもありましたけども……ああ、それは知っていましたわね」


 それはよーく知っている。

 何しろそれが美凪さんと初めて会う原因となったのだ。

 最初にランダムを選んだ時点で色々おかしかったからGMコールをしたのだけど、それで美凪さんと知り合えたのだから今となっては文句は強く言えないのだが――と、あれ?


「……? そういえばよく思い出したら、先にランダムで出てきたのはリリシアだった筈だけど」

「あら、お姉ちゃんと気軽に呼んでもいいですのよ?」

「呼んでたまるか阿呆。……で、ルヴィの理由は分かったけど、結局リリシアは何故(なにゆえ)?」


 ディーラーが足りていないというのは、カジノが予想外に人気を博して連日24時間大盛況だからだろう。まだ私がゲームを始めた少し前に解放され、初心者も上級者も関係なく利用できる施設が多い事からプレイヤー人口が爆発的に増えたため、急遽増員が必要になったのは理解できる。


 が、リリシアは確かクエストの受付だという話だったはずだ。それも高難易度専門の。

 ここの開発運営が考えた"高難易度"なんてド鬼畜なレベルなのは確定なので、それこそ一日に一パーティぐらいの自殺志願者がいれば良い方だろう。

 そんな所に私のアバターが突っ込まれた理由は、さて。


「そもそも(わたくし)、初期案では受付ではなかったのですもの」

「そうなの?」


 では何をやる予定だったかと言えば、


「元々はこの城の主――ボスを担当するはずだったのですわ」

「なんでやねん」


 すっとフェードアウトしようとした『運営総括』と書かれたウィンドウを鷲掴みにする。

 やたら明滅しながら『無関係! 僕無関係!』と主張しているけど、この期に及んで逃がすわけないでしょうが。


「……ここが解放された時にボスがいたのでは?」

「正確に言えば、裏ボスという扱いですわね。今のボスはノーライフキングと呼ばれる種の、スケルトンなお方なのですけど……ええ、開発内部では少々不評でして」

「不評て。だったら何でそのノーライフキングがボスやってるの。いや、やってていいのだけど」


 思わず手に力が入り、掴んだウィンドウにヒビが入るが、芸が細かいと称するべきか面出せと言うべきかは悩むところだ。

 なお、他の開発担当のウィンドウは既に逃亡済である。……流石は肉壁担当。


「ここのマップ――夕闇城というエリア自体はグランマイスター(狂人氏)が作成なされていたので、後はそこに配置するボスを開発が作成することになったそうですわ。そして今のノーライフキングが組まれたのですが……連日の徹夜などで精神が疲弊し、本性が滲み出てきた後で見直すと、『あまり面白くねぇなあ』となったそうで」

「理由酷くない?」


 あと本性。

 そして現ボスの扱いが哀れである。


「そこで夕闇城に合う種族で、更に開発の趣味全開のキャラクタが組まれるようにランダム選択にロジックが仕込まれたとのことですわ」

「ははは、想像以上に頭オカシイ」

「今更ですわね?」


 先にリリシアが出たという事は、運営の負担軽減のためのルヴィよりも、割と趣味入った裏ボス作成の方が優先度が高く設定されていたという事なのだろう。

 AIにすらディスられる開発陣はもう終わってないかな?

 

「まあ、結局は『未成年のアバターを、プレイヤーに倒されるボスMobに適用するのはどうか』とか『NPC利用することと、ボスMob利用することは違うよね?』という監査からの説教により、なくなったのですわ」

「監査担当さんには何か差し入れとか渡すべきなのだろうか……」


 もういいかなー、もういい加減ログアウトしようかなーと考えてしまうのは疲れているからか。

 色々すっ飛ばして布団に籠りたくなったが、気が付けばこのイベントも終盤に突入していた。あと少しなので、と自分自身を説得して耐えることにする。


 あまりイベントと関係のないことばかり駄弁っていたけど、今はどうなっているのかとイベント状況が表示されたウィンドウを見ようとしたところで、少し離れたところから声が上がった。


「あ」

『お』


 ルヴィと姫翠が揃って上を見上げている。

 つられて私も見上げると、そこには流星の如く降ってくる大馬鹿者が一名。背負っていたブースターを外し、身を丸めて縦回転しながらの落下だ。

 一瞬の間を持って、"彼女"が激音と衝撃波を伴って着地した。


「わたし、参・上!!!」


 ジュンさんだった。

 まるで特撮ヒーローのようなポーズを決めた、華麗な着地だ。ただしHPがごりっと減ったのを見逃しはしなかったが。

 ……そういえばゲーム内で直に対面するのは初めてだな。


 というか。

 なんでここに来たんだこの人?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ