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遥か彼方へ続く道 ~AlmeCatolica Online旅日記~  作者: じゅくちょー
5thEp "歩みは止まらず、でもちょっと休憩"
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#62 退場(意味深)

 ここまでくると遠慮はいらんだろうとドストレートに投げた私の言葉に、弟が肩を落とした。

 未だ私を頭から抱えるようしている姉は何も話さないし、なので多分ほぼ決まっている事なのだろうと予測がつくのだけど――曖昧なままでは駄目なのだ。


 ……というか、そろそろ後頭部に当たる柔らかいクッション(比喩)による精神的持続ダメージでライフがゼロになりそうなのですが、いい加減シリアスさせてくれませんかね。あ、まだこのままですかそうですか。


「やっぱり姉ちゃん、大体分かってるか。あ、もしかして先に誰からか聞いてた?」

「うんにゃ。さーすがに聞かなくても分かるでしょ、あれは」


 いや確かにハトコのねーさんとか伯父さんとかが、妙にそわそわしてたってのはあるけどね。

 しかし、そんなことよりも実際問題として、明確に、確実に、完全無欠なまでに、やらかした(・・・・・)のだ。あの人達は。

 覆水盆に返らずとは正にこの事、漏れた言葉も時間も戻らないし戻せない。ちっぽけなプライドでは天秤にすら乗らないだろうに無理やり誤魔化して、挙句の果てには増え続けた負債と共に真っ逆さまだ。


「ま、私が運ばれたすぐ後に、弟がねーさん達に連絡してくれたって言うのは、ベストな行動だったんじゃない? あの人達にとっては最悪だったろうけど」

「いやほんと、連絡してなかったらと思うとゾッとするけどさ」


 往生際が悪いのか、それとも状況を理解すら出来なかったのか。

 私が数々の検査を受けている病院にて。詳細は教えてもらえなかったが、看護師さんたちがやたら気の毒そうな表情で"もう大丈夫ですよ"と声をかけてくる程度には色々とあったとかなんとか。

 ただそれも結局は───


「で。病院側は、いくらなんでも気づくあのオブジェをいつまで放置しておくのか。──あの、六法全書が突き刺さった長椅子を」

「いや、うん、あの時は拍手喝采だったからなぁ……。ウケは良いみたいだし、暫く残るんじゃない?」


 ハトコのねーさんもやりすぎである。

 車椅子で院内を散歩していたときにアレを見た時の衝撃を、お分かりいただけるだろうか。鉄板でも仕込んでたのかアレ。


 ふぅ、と一息つき、注文したウーロン茶っぽいのを一口飲んで端に置く。

 んー……、何か軽いものは……これでいいか。あ、これは弟に食わせてみよう。


「その時のことは白凪さんから聞いたけど、一連の流れがコントか何かか」

「仕方がないよ。あの人たち、姉ちゃんを無理やり退院させようと病院で騒いだ挙句、ねーさんが見舞いに行きたいって連絡したら、よりによって『入院なんてしてない』とか嘘ついたし」

「しかし、その電話が実は真後ろから掛けられてるという恐怖。状況が鬼だ」


 しっかり全ての奇行を録音録画。

 そして万を期して炸裂した六法全書ぼんばーあたっく超物理。


 当然の帰結として、その後に起こった親族会議の有様は筆舌に尽くしがたい程だったとか。

 家に親族がほぼ全員集まり、空気が重苦しすぎて閻魔の御前かと思ったってどんだけですかよ。


「……いや、考えてみれば当然といえば当然だったか」


 何しろ集まった親戚一同は誰も彼もがハイスペックで、弁護士(ハトコ)に大企業の役員(伯父)、自衛官御用達の道場経営者(祖父)等々。しかもその立場をコネとかじゃなくて実力で勝ち取ってきたような連中なのだ。

 方向性は違うだろうけど、修羅場の二、三は余裕で潜り抜けてきただけあって貫禄も迫力も違う。


 そんな彼らが激怒し、般若の形相で取り囲んでいるという状況は……私だったらと想像するだけで胃が痛くなった。

 自業自得以外の何物でもないので同情はしないが。


「あとトドメになったのはあれかね? 白凪さんからねーさんに当日の詳細が流れたことか。あの二人が知り合いだったのには驚いたけど」

「先輩と後輩だって言ってっけ。世間って狭いって言葉がよく理解できたよ」


 私と白凪さんがリアルで会ったときも感じたなぁ、それ。

 男勝りなねーさんと天然淑女な白凪さんでは何故か百合ぃなイメージしか湧かないのだが、世間の狭さは一先ずとして。


 白凪さんから伝わったらしい"そんな子供知らねえ"発言によって、親族会議はもはやニトロをブチ込んだような勢いでバァニンィイィイグ──したとまでは聞いていた。どんな状況ならそんな擬音表現になるんだよ。


 そこから先は知らないが、弟に言った通り大方のところは想像がつく。

 残念ながらポリスメンのお世話にはならなかったようだが、こちらには法律の専門家もいるのだ。ねーさんのキレ具合から見ても、かなり容赦ないところまで追い詰めたに違いない。


「とはいえあの二人は異常と言っていいぐらい、見栄というか世間体を気にするからなー。裁判沙汰になったらそれこそ注目の的だし、それを回避する為に出された条件に深く考えず了承とかしたんじゃない?」

「……あー、うん、まあ」


 はははと軽い感じで言ったのに、なして顔を背けられたでござる。

 ……あれ、そんな躊躇するようなの?

 ふむ。


「地下労働施設逝きとか?」

「むしろそれ、ねーさんが悪役ポジにいないかな」


 案外似合ってそうです、なんて本人に言うと凹みながら怒られるという器用なことをされるだろうなー、などと思いつつ。

 ならばあの二人はどうなったのだろうか。状況を鑑みても、ねーさん達が軽い罰で済ませていると到底考えられないのだけど――


「ところで姉ちゃん、親権の放棄とか委譲ってどうやると思う? なるべく穏便な方向で」

「ぬ? えーっと……確かそんなに簡単には出来ないって、ねーさん達が言ってたことがあったかな」


 年末年始に会っている時とかね。

 暴力を受けている訳でも監禁されている訳でもなく、一応学校には通えている。食費の件はあるけど、相談所に連絡するにしては証拠としては難しい。何かあればすぐに裁判に持ち込めるのだが、その場合は私の身になにかあった時だよなあ……とか、そんなことを。


「ま、結局こうなったけど。でも今回のはネグレクトに該当するから()れる……! って息まいてた覚えがあるのだが穏便の定義ってなによ」

「そのままの勢いで迫ってたのは確かだけどね……」


 どんどん弟の目からハイライトが消えていくのだが、一体何があったのさ……。

 ふふふと謎の笑みを浮かべだした弟の口に、運ばれてきたばかりの辛子蓮根っぽいのを突っ込んでおく。辛子は辛子でも唐辛子だから真っ赤なのはキニシナイ。


「うーむ、単純に養子縁組するだけとは思えないし。さっきからの話の流れからすると裁判以外になるだろうけど……?」


 突っ伏して痙攣しているの残念を横目に、リザード軟骨の唐揚げをつまみつつ熟考する。おお、コリコリ加減と塩が絶妙で癖になりそう。


「親権の委譲……つまり子育てができないような状況・状態だと判断されるってことだよね」


 それでいて表面上は穏便、と。うん、豚箱にぶち込む以外に何かあるのかね?

 結局わからず首を傾げていると、弟がその"穏便"な解答を口にしたのだが――


「……わん、もあ、ぷりーず」

「おお、姉ちゃんがこれでもかと動揺している」


 動揺というかそれ以前というか、いや確かに下手に表沙汰にせずに片付けてるけどさ!?

 でもどうやって想像しろってのさ。その方法がまさかの、


「海外のド僻地送りってもう地下施設と大差なくない?」

「一生という話じゃないかもしれないけど、凄まじく容赦ないことには間違いないなぁ」


 僻地と言っても別にアマゾンの奥深くとか治安何それとか言葉さっぱ分かんねとか、そんな意味ではない。単に、立地条件的にそう簡単には日本へ帰ってこれない場所だというだけだ。


 言語も文化も違い、日本のことすら碌に知られていない地。

 そんなに人目や評判を気にするのならば、お望み通り誰も彼らの事を知らない場所に叩き込んでやろうという事である。文字通りゼロからやり直して来いって訳か。


「なるほど、海外への転勤なら認められることもあると」

「申請が通らない事もあるらしいけど、その場合はバッサリやるってさ」


 その首を横一線にするジェスチャーはやめい。

 しかし、あの人たちが務める会社が外資系で世界各所に拠点はあるが、こうも簡単に海外転勤が決まるものなのかね?

 もしかして前から裏で色々動いてたのか……?


「私個人としては逮捕でもしてほしかったところだけど。後の事とか、万が一を考えてくれた結果かな」

「曰く、あの手の性格だと進退窮まると何をするか――とのことだって」


 ちょっと最悪に結末を想像してしまったけど、ないと言い切れないから困る。


「あと、姉ちゃんが倒れた原因が原因だから、あまり派手にやりすぎるとマスコミとかからの注目を受ける可能性があるとか何とか。姉ちゃん、悲劇のヒロインって報道されたい?」

「全力で御免被る」

「だよねえ」


 誰が好き好んで玩具みたいに扱われたいと思うのか。そんなことになれば外も学校も行き難くなるどころか、現実とほぼ同じ顔のアバターを使っているAlmeCatolicaも似たようなものになってしまうだろう。

 むう、あの人たちにはぜひ檻の中で反省してもらいたかったが仕方がない、それは遠い異国の地でしてもらうとしよう。


「でもそれで済んだらここまで苦労してないんじゃないかな?」

「デスヨネー」


 こんな状況でも全く顧みることが無さそうなのが何とも。

 ま、それでも少なくとも最低私が成人するまではもう顔を合わせることはなさそうだ。もしかすると一生かもだけど……元々ほとんど顔を合わせてなかったからなぁ。


「で、そこまではいいけど、つまるところ誰が親権を持つかってのがまだ決まってないと」

「そゆこと。姉ちゃんだけでなく僕と姉さんの分もだからね。分けるのか一緒にするのか、とか。でも学校もあるから、誰が親権を持っても今の家に住むのは決まってるってさ」


 多分あの人たちの罰の中に私たちの養育費の負担もあるのだろうが、三人分の学費やら生活費となると結構な額になる。なので、親権を持つことになる人もある程度負担することになるらしい。

 うーん、これは親戚一同に足を向けて寝られないな。


「どのみち、どれもこれも暫く時間掛かるだろうしさ。姉ちゃんはそれまでリハビリ頑張っておけばいいんじゃない?」

「暫く、暫くかー……」


 暫くと言っても、私のコレはそう一朝一夕で治るものではないという事が分かっている。脳に関係するリハビリは年は掛かるのが多いのだ。別に障害がある訳ではないので、歩くだけなら一月もあれば十分だろうとの医者の言だが、


「留年かな、こりゃ」

「へ?」


 一月も学校を休めば単位が足りなくなってくるのは目に見えている。

 うわぁ、ただでさえコミュ障なのに年下と一緒のクラス……あ、もしかして最悪では弟と同じクラスという地獄になる可能性も――ってなんだ弟よ、その呆れたような眼は。


「姉ちゃん……なんだか色々忘れてない?」

「忘れてるって、何がさ」

「病院の窓から見える光景を思い出してみるといいよ」


 そんなざっくりとした問いの答えに、ログインする前に見たのを記憶から掘り返す。

 外では広い中庭の噴水で水遊びに興じる子供たちがいて、蝉の声が喧しいぐらいに鳴っていた。ついで、太陽からの日差しが馬鹿みたいに強く降り注いでいるが、そんな空の色は濃く青い色をしていたはずだ。

 うん、典型的な夏真っ盛りの風景である。


「姉ちゃん。今、夏休みだよ?」

「あ」


 私の夏休み、病院生活で消滅決定。


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