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#54 この風の行く先は

「アクセサリを返してほしい、ですか?」

「返す、とは聊か異なるで御座る。あの兎様の森で某達が落としてしまった装飾品は、既にカラクリ娘の所有物となっているで御座るからな。当然、対価は支払うで御座るよ」


 実は御座る語尾って意外と大変じゃないかと思う今日この頃。

 いやそうではなく。


 かつて兎様の森で偶然拾ったものの、取扱いに悩んでいたあの男物のアクセサリ3点セット。その元所有者がなんとこの忍者と、その友人らしい。

 しかしまさかあの時、後ろに人がいたとは思わなかった。もふもふを、モフモフするのを見られていたとは……!


 ちょっと内心悶絶して仕切り直し。


 さてそのアクセサリ、いい素材が使われていて高品質であることが確かなのだが、彼らにとって重要なのは性能ではなく品そのもの。なんでも知人にかなり無理を言って作ってもらった物だったそうな。で、作ってもらったはいいものの勢いで兎様に挑み、運悪くばら撒かれてしまったと。

 なので理由としては知人に申し訳ないため、という事なのだとか。


 それは全く持って問題ないというか、むしろあっても困るものだからどうぞと言いたいところではある。が、ストゥーメリアさんもそうだったが、タダより高い物はないという精神なのかトッププレイヤーの矜持なのか、向こうの希望は物々交換だ。

 とはいえ懸念事項としてはいくつかあるのだけど、どうやら私以外にも似たようなことを考えた人がいたらしい。後ろから声が聞こえてきた。ってこれマジカルピンクと現代厨二風少年の声か。


「前持ってた奴の判別ってできたっけか?」

「あら知らないのかしら? 拾った装備品は鑑定で所有者履歴が出てきますし、以前の持ち主とフレンドになればアイテムの所有者履歴に表示されますわよ。その関係でクエストもあるから常識ですわ」

「「「常識知らずで申し訳ない……」」」

「って半数以上とか多いですわね!?」


 何故か息ピッタリな甲板の面々である。

 しかし所有者に関係するクエストとかあるのか。定番どころを考えれば落とし物を見つけるとかかな? 指輪とかネックレスとか、現実では確認に割と手間かかりそうな類で。


「そんなクエストあるのか。例えばどんなのがあるんだ?」

「そうですわねー……。わたくしが体験したもので言えば――呪われたアイテムですわ」

「……なんですと?」

「ほら、小説でもよくありますわよね? 手にした人間は必ず不幸になると言われ、人を転々と渡ってきた曰く付きの品を調査するとか。わたくしの場合は短剣でしたけど」


 おそらくホラー系が苦手なのであろうプレイヤーが若干引いているが、気付いているのかいないのかマジカルピンクは話を続ける。

 見た目にそぐわず意外と説明好きなのか、その顔はどこか得意げだ。


「そのようなクエストは品を鑑定して以前の所有者を調べてヒントを得る、というのが基本となりますわ。間違えると大惨事になりますが」

「……その惨事の内容を詳しく」

「過去の所有者の中に依頼人の名前があり、調査不足でそれを指摘してしまうと襲われるのですわ。馬鹿みたいに強く、倒せたとしてもアイテムは呪われていて外せず捨てられず、クリアするまで毎晩化けて出てくる仕様で」

「相変わらず頭ぶっとんでんなぁ開発は!」


 ログアウト中もセーフポイント以外では容赦なく出てくるので、インしたら複数回死んでいたとかよくある話だそうで。一応程度で救済措置はあるようだけど、ホラー系統が駄目な人にとっては地獄に違いない。


 閑話休題(それはともかく)

 話を戻すと、前所有者の確認は一時フレンドでも問題はないそうだから、知人に云々はともかく真偽は簡単に分かるだろう。


「対価で御座るが……ふむ。ならば同性能の、カラクリ娘でも装備できる装飾品などは如何かな?」


 ああなるほど、それなら等価交換っぽくはなるだろう。

 ただそれはかなりの出費になると思われるが、忍者はそれでいいのだろうか?


「先にも言ったで御座るが、知人への詫びの意味合いが強いのでな。それとも別の、武器や防具の方がよかったで御座るか?」

「あー……武器、武器ですか」


 現状を鑑みるに、それが一番いいような気がして仕方がない。

 なにせ私は、


「そういやさっきもロボっ子はボスに攻撃してなかったが……武器は何使ってんだ?」

「あのエリアボスとの戦闘で使っていなかったという事は、重量系なのかしら」


 そりゃいくらターゲットにされていたとはいえ、武器も手にしていなかったら疑問に思うよねぇ……。

 変な勘違いをされても困るので、さっくり答えておくことにする。


「いえ、そもそも武器持ってませんので」

「「「えっ」」」


 一斉にこちらを見られると困るんですが。というかいつの間にかギャラリーが増えていて、やり辛いことこの上ない。

 これが現実での出来事だったら私は一目散に逃げている。


 ……いや、エリアボスに強襲されて混乱していたけど、よく考えたらプレイヤーと直で話すのはストゥーメリアさん以来だ。

 あ、駄目だ、自覚したら人見知りスイッチがががが。


「ちょっと待ち。どっかで壊したとかそーいう話?」

「あ、いえ、壊したとかでもなく、チュートリアルを受けていなかったので初心者装備すら持ってないだけです」

「……なんでそれで兎様に挑もうと思ったの?」

「もふもふ」

「「把握した」」

「え、それで!?」


 何故かマジカルピンクが驚いているけど、モフモフを求めるのにそれ以上の理由がいるだろうか。いや、いらぬ。

 よし、何故か少し落ち着いた。


「ま、まあならばカラクリ娘に合わせた武器が良さそうで御座るな。ところで物は何処(いずこ)に?」

「今はホームに預けていますね。性能は良いのですが、デザイン的に合わなかったので」

「確かにあれは女子には似合わぬで御座るなあ。――ってカラクリ娘殿、もう既にホームを持って……?」


 忍者も、他のプレイヤーも驚いた顔をするが、直ぐにその可能性に思い至ったらしく納得の表情になる。

 こういう頭の回転の速さは純粋に凄いと思うし、羨ましい。


「なるほど、そういえば廃都を発見したのはカラクリ娘で御座ったな。その報酬で御座るか」

「はい。そこで預けましたので、セーフポイントかで取り出すことが出来ればお渡しできるのですが……」


 一番早いのはこの船の中に保管庫(有料)があれば、なんだろうけど。やはりそう簡単にはいかなさそうで。


「あったっけ? いやなかったな」

「船はセーフポイント扱いじゃねえからなあー。じゃあ何かって言えば――ダンジョンだな」

「だ、ダンジョン?」


 聞こえてきた変な単語に思わず反応してしまったが、話していた人たちは特に気にした風もなく教えてくれる。


「おうよ、飛行船ってのは元々古代文明の代物って話でな。大半は整備されているが、後方下部の区画は当時のままって設定になっているのさ」

「だから稀にお宝とか見つかるが……それよりドラム缶みたいな警備ロボットに射殺される割合の方が格段に多いわな。酷いときは集団で上方に出張ってくるが」


 そろそろ諦めたけど鬼畜すぎんよー……。


「まあ、今回はこのまま船に乗っていくのが良いで御座ろう。向こうに着けば専用の施設で取り出すことが出来る故に」

「……向こう?」


 うん、そろそろ私も現実見ないといけないよなー、とは思うのですよ。思うのですけどね?


「無論、この船の行く先――"首都"に御座る」

「"首都"でしたかー……」


 まだ飛行船の行く先は限られているのだけど、その中では、まあマシな所だろうか。中途半端な三つ目の街だとか、"夕闇城"なんてダンジョンに送られてもどう反応するべきかちと困るしね。

 ただ何処にしても、私が今船に乗っているという時点でアウトなのが一番の問題か。


「む? 何か乗り気でないというか、どうにも憂鬱になっているようで御座るが……"首都"になにかあるので?」

「ああ、いえ。……もともとは高原地帯に突き立っていた、あのでっかい塔を目指していたので。どうやってそこまで戻ったものかと思いまして」


 苦笑付きで答えれば、忍者もそれに思い出したらしい。

 それらしい方角に視線を向けるが、見えるのは雲の白と空の青。見てる方向がおかしいのか、噂に聞く塔のバリア的なものが原因なのか、もうあのバベルもどきは見えなかった。


「そうか、カラクリ娘は先ほどの戦で盾を壊してしもうたで御座るな」


 頷き一つ、どうしたものかと内心で頭を抱える。

 単に戻るのであればどこかで盾を入手して、もう一度反対方向へ向かう船に乗ってから途中で降りればいい。だが、事は残念ながらそう甘くはないのが現実だ。


「ただでさえ空では不規則な道を通って、ボス戦中に至っては自動マッピングが動いていなかったと」


 ならばボス戦が終わった今はどうかと探索スキルをチェックしてみるが、


「……飛行船に乗っているので、もう訳わからない描画になっていますねコレ。ここまで来ると、どこで降りればいいのやら」

「探索技能は練度が高ければ非常に使い勝手が良いので御座るが。そも降りようにも普段であれば強Mobに襲われるので、策なく挑むのは至難で御座ろう」


 理論上は廃都にさえ行ければそこからもう一度行けなくはないのだろうけど、そもそもここからだと最初の街に戻るまでが大変だ。

 どのみち盾は壊れるどころか粉微塵になってしまってロストしているので、どこかで代替品を調達する必要はあるのは確かなんだけども。

 

「……後で考えるしかない、か」

「なに、"首都"は街としてこの世界では間違いなく最大規模。人や施設も多く、図書館なども無論存在しているで御座る。単なる観光でも飽きはしないであろうし、国としての歴史も長いとのことなので、その塔とやらの情報を探すのも一興かと」


 何しろ"首都"は城下町、十分に広かった最初の街よりも規模が違うとのことだ。街並みも賑やかで、城そのものもある程度の区画までは見て回ることができ、まるで中世にタイムスリップしたかのような雰囲気を味わえるのだとか。

 確かにそれは楽しみではあるのだけど……なんとなく、もう少し姫翠とトリアートとの3人で、のんびり人目を気にしない旅をしたかったと思ってしまうのは贅沢なのか我儘なのか。


 ……まあ、気分次第で決めればいいか。

 塔を目指すとは漠然と考えていたけど、もともと詳細な予定も計画もないのだ。なにより人込みは苦手なので、さくっと見るところだけ見てぶらっと去るのが一番かもしれない。

 

 と、ふとそこで"首都"というキーワードである人物がそこにいると言っていたことを思い出した。


「そういえば……夢見さんが"首都"にいるとか言ってたっけ」


 少し前の話だが、ダンジョン攻略のために"首都"を拠点にしているとか話していたはずだ。となれば、連絡が取れれば久しぶりに直接会うことができるかもしれない。

 うん、明確な目的が全くないよりかは前向きになれそうだ。


「兎にも角にも交換用の物がなければ話にならぬで御座るな。用意が出来たら一報を入れさせていただきたいので、こちらを渡しておくで御座るよ」


 と言って忍者がウィンドウを操作すると、こちらの眼前にウインドウが出現した。

 一時フレンドの申請かと思ったけど、内容が違う。これはアイテム譲渡の画面だ。ただ、当然お互いのアイテム欄には何もないのだけど……これでどうしろと?


「……?」

「む? おお、すまぬ、カラクリ娘は存じなかったで御座るか。ほれ、画面右下に"取引ID登録"という項目があるで御座ろう?」

「あ、確かにありますね」


 なんだか目立たない配置というかデザインになっていて気付かなかったけど、言われた通り確かにそんな名前の項目が存在する。ぽちっと押すと"取引IDを登録しました"とだけ表示された。

 こちらで登録したことが相手にも伝わったのだろう、かたじけないと頭を下げてくる。


「これは生産系の者がよく使う機能で御座ってな。ほれ、依頼を受けて連絡を取り合うのに、わざわざ……あー……、フレンド登録をすると能力や技能が公開されてしまうで御座ろう? それを回避するための、取引専用の連絡板たと思えば良いで御座るよ」

「ひそひそ……"フレンド登録"は駄目だったか。がっかりだな」

「ひそひそ……まあ"友人登録"とか語呂悪い以前の問題だしな。がっかりだが」

「外野が煩いで御座るよ!?」


 声に出して"ひそひそ"って言っちゃってるし、声も大きめだしね。いやだから何のコントかと。

 まあ、フレンド登録しなくてもいいというのは有り難い。アバターは平静を装ってくれているみたいだけど、どうしても目線は逸れがちになってしまっているのが自覚できる。出会ったばかりの男性と話をするのは嫌でも緊張してしまうのだ。


「然程時間は掛からぬと思われるので、準備ができれば連絡させていただくで御座るよ」


 もし"首都"から離れる場合は出来る限り一報を入れて欲しいとのことだが、見るところは多そうなので早々に離れることはないだろう。盾はもちろん、武器の一つや回復薬、食材やらも購入したいところである。


 夢見さんに会ったり、買い物とか観光とか。

 ちょっと予定が大幅に変わったので混乱してしまったけど、考えてみればやること出来る事は多い。

 なので、特に"首都"に行くのは問題ないはず、なのだけど……。

 なのだけどなー……。


「……なんでか嫌な予感がする」

「突然何事で御座るか」


 "首都"と聞いた時から感じている、この寒気。

 首筋が真綿で絞まっているような息苦しさ。気が付いたら大鎌が薄皮一枚で寸止めされていそうな、そんな感覚がひしひしと。

 正直この類がびびっと来たときは基本手遅れというか、既に鎌が通り過ぎた後と言うか。


 考えられるのは姉と弟が既に"首都"に辿り着いていてバッティングするパターンだろうけど……いや、いくら姉でもそこまで早くないだろう。はず。たぶん。きっと。

 それを除外したとしても不安要素はどこにもないはずなのに、持続ダメージ的な悪寒が止まらない。

 ……せめてトラウマにはならないことを願っておこう。


「ロボっ子が何か受信しましたわよ」

「嫌な予感ねえ……実はロボっ子、リアルタイムで無賃乗車してることとか?」

「「「それか」」」

「……それですの?」

「……切符は後払いでも問題ないで御座るよ。その理由が今よくわかったで御座るが」


 それはちょっと安心した。




 船は進む。

 竜が来ようが嵐が来ようが関係なく。


 進路は"首都"、このゲームの現時点で最大規模の都市。そこに向けて。


 人に物に建造物に、様々な意味で賑やかな場所。

 それはつまり、あまりよろしくない事柄も含まれているのは間違いなく。


 この予感が外れてくれればとは思うが、これが外れた例はない。


 ため息が、広く、どこまでも続く空に流れていった。



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