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#53 祭りの終わり――後夜祭あり

 かつてないほどの嫌な予感に振り向いた目の先、大口を開けた竜が見えた。

 尾から首までを一直線に伸ばしたその姿は、どこか大型砲塔の戦車を連想させる。というかまんまだありゃ。


 そしてその開いた口の前に甲高い音と共に収束するぬるり(・・・)とした光。汚らわしいとさえ思う光束は、一瞬の間を置いて急速に膨張した。


 当然なのかなんなのか……その砲塔の照準はピタリと私に合わされている。

 隣にいた少年は流石というべきだろう、誰かの警告よりも早く私から離れていた。薄情だとは思わない。さっきからのボスの行動パターンからすれば私の周囲が一番の危険領域だから当然の判断だ。いや恨みはするけども!


 対して私は若干慣れ始めていたことに油断した。警告を聞いてから振り向いてしまうという致命的なロスをした以上、他の道に飛び移る時間は、もうない。そうしている間にも光は爆発的に拡大し――突然、それが何百分の一の大きさまで収縮、この空域の音が消失した。


 竜がそれをぶっ放すために身を乗り出し、

 あ、これ死んだ。

 ――なんて思った直後。


「ぬぁ?」

『ふぁ?』


 がちん、と金属的な何かが引っかかる音がしたと思った時にはもう状況は動いていた。

 首筋に感じた衝撃、一瞬真っ暗になった視界、耳を劈くような竜の雄叫び。


 轟音と共に、眩しさのない光線が()を通り過ぎる。

 置いてけぼりになった盾――私がさっきまで使っていた連華の大盾が光に呑まれ、紙細工のように散っていくのが見えた。


 ……え、どういう状況?

 何が何だか分からず、ぽかんとしてしまう私が一人。

 あ、姫翠も似たような顔してる。さっきから微妙に空気なトリアートは……うん、いるね。クラゲ状態は変わってないけど。


 ぽーんと空に跳ね飛ばされたかのような状態になっている私に、答えというか心の叫びが耳に届いた。


「フィィィイイイシュッ!!!」

「え!? もしかして一本釣り!?」


 慌てて後ろの襟元を確認すると、そこにはキラリと輝くやたらデフォルメされた魚っぽいルアーが確かに。

 そしてそのルアーからは頑丈そうな糸が伸びており、その先には甲板に立つ現代風釣り人姿のおっさんが立っていた。

 ……誰?


「あ、アイツは……!」

「知っているのかリーダー!?」


 あれ、なんか小芝居が始まったぞ。


「かつて海の美しい街を恐怖のどん底に叩き落したレイドボスがいた……。巷では突然にゅるっと現れたと言われているが――」

「ま、まさか……!」

「そうさ、実はあのちょい渋めを目指そうとして盛大にしくった風味な中年オヤジがついうっかり釣り上げたのが原因だったのさ!」

「「な、なんだってー!!」」

「オイちょっと待てその紹介はおかしくないか!?」


 ……それはいいのだけど、リアルタイムで思いっきり釣り上げられている私はどうしたらいいのだろう?

 盾はなくなったし、この勢いでは飛行船まで届かないのだけど――


「あゎ?」

『にゃ?』


 そろそろ浮遊から落下へと変わるタイミグで、引っかかっていたルアーが急に外れたかと思うと、今度は先端に鍵爪がついた鎖が体に巻き付いた。

 これは何となく出所がわかったというか、それよりこの後の展開が読めて泣きなくなってきたのだけど、どーしたものか。

 と、言う訳でアゲイン。


「カラクリ娘捕ったで御座るよぉぉぉぉ!!」

「よし通報、通報でいいな」

「おまわりさーん」

「某の扱い酷くないで御座るか!?」


 凧で空飛びながら正確に投擲してくるとはさすが忍者、なんだけど不憫ポジションか。なにゆえジュンさんといい、あの忍者といい、MMOにはイロモノ忍者が多いのだろうね?

 そんなことを再度空にかっ飛ばされながら考えていると、なにやら忍者の方から声が飛んできた。


「戦闘中にすまぬカラクリ娘殿! この(いくさ)が終われば、少々話をよろしいで御座るかな?」

「……? ええ、と。まあ、生き残れたら、いいですが」

「感謝するで御座るよ……!」


 なにやら必死な雰囲気を感じたので大丈夫だと返してしまったけど、一体何の要件だろうか? 男性で忍者の知り合いはいない筈なので、心当たりはないのだけど。

 まあ見たところ変な要件でもなさそうだし、もしアレな内容であったとしても、


「野郎この状況でナンパだと!?」

「よかろう不埒者はこの筋肉で成敗してくれようぞ」

「違うで御座るよ!? ま、待たれい、この状況で筋肉、筋肉は……!」


 うん、大丈夫だろう。色々駄目な気がしなくもないが。

 しっかし二度目の光線ぶっぱが通り過ぎて行ったのに、周りの変人たちは本当に余裕がある。私を囮に使いつつ、的確に翼の付け根を狙ったり、口を開けた際にそこへ魔法を叩き込むなどの芸当をやらかしているのだ。


 チャージから放射までの間隔はかなり短いのに、その間に退避をしたり隙とみて攻撃とか変態なのにプレイヤースキル高すぎやしないだろうか。変態なのに。……変態だから?


「はーい、ロボっ子からディスられた気がするので派手に行くわよー」

「わひゃぁー……」

『ありゃぁー』


 今度は魔女のおねいさん(変換できない)によって魔法陣から飛び出た鎖でフルスイングされた。魔女らしく心でも読まれたのか、いい感じに遠慮のない勢いである。くっ、これが熟女特有の理不尽な


「あははは――もう一回転行くわよ」

「声が本気(マジ)すぎて怖いんですがぁぁぁぁあぁああ」


 そうこうしている間にも打撃や狙撃、剣撃に爆撃などによって竜への攻撃は続いていた。流石にここまでくると私以外にも光弾で仕掛けてきたが、残念今更である。何度も行われた私への射撃によってパターンを把握した変態達にとっては、もはや簡単な障害物にしかならないらしい。誰一人当たらないし、それどころか打ち返す者まで出てくる始末だ。


 弱い訳ではない。

 弱いはずがないんだけどさ、エリアボスですし。


 加えて足場が悪いとか生易しい物ではなく、高所恐怖症でなくとも躊躇してしまう場所での戦闘だ。ボスである竜もそれを最大限に利用して、プレイヤーを吹っ飛ばす光弾や全方位攻撃、下手すれば船を墜としそうな光線などを撃ってくる。

 生半可な攻撃ではそもそも届かず、よしんば当たったとしても装甲である鱗は硬くダメージはそう簡単に入らないときた。初心者中級者は無論の事、トッププレイヤーでさえ相性次第では瞬殺されてしまうだろう。


 ……それでも、今回ばかりは相手が悪かったのだろう。竜の。

 まさか竜も、武器を持たない小娘を追っていたら、いつの間にか筋肉やら忍者やらピンクやらにボコボコにされる羽目になるとは思わなかったに違いない。


 もう終わりだと見たのだろう、各々が温存していた必殺技と思しき技やら魔法やらを容赦なくぶち込んでいく。かなり派手なのに、フレンドリーファイア(たぶん誤射)がほとんどないのは流石としか言いようがない。避けるし。……偶に味方の攻撃に当たった人がコントのように吹っ飛んでいくけど、妙に楽しそうな表情をしているのは気にしない方がいいのだろうなぁ。


 次第に竜の動きが目に見えて緩慢になり、巨体がゆっくりと空に沈んでいく。

 限界が来たのだ。


 鎧のようであった体は各所がひび割れて無事なところがなく、刃物のようであった六枚翼は内二枚が根元から断ち斬られるなどでボロボロとなっていた。あのまま高度を下げていけば程なく"道"から外れ、もはや羽ばたくことが出来ない竜では地表まで落下することとなるだろう。爛々と輝いていた紅の瞳はもう何も映していないように見えた。


 王者の風格を携えていた竜が墜ちていく様はどこか哀愁を誘う光景だ。

 ……できれば簀巻き状態で甲板から吊り下げられている状態では見たくなかったけど、もはや贅沢は言うまい。


 そして竜の姿が雲の向こうに消えて行ってから暫くして、私含めて周囲のプレイヤーの傍に軽いポップ音と共にウィンドウが出現した。

 内容は当然、


「「っしゃ終わったぁぁぁぁ!!!」」

「「おつかれさまでしたぁー!!!」」


 討伐完了のアナウンスにより、一斉にプレイヤー達が歓声を上げる。

 知り合いだろう抱き合う者や、ガッツポーズをする者、空中で喜びを表現する猛者と表現の仕方は皆様々だ。ただそれもすぐに収まり、今度は報酬をチェックし始める辺りは訓練されているというか何というか。何人かは一応通常Mobを警戒していたけど、エリアボスを倒した影響なのか近づいてくる気配がなかったらしい。


「結局、何もしなかったなー……」


 そう一人呟くと、合わせてため息も出ていった。

 逃げて避けて振り回されて、そんなことをしていたら終わっていたのだ。むしろ貢献度目当てとは言え他の人たちに助けられてばかりだったので、協力して倒したという気分にはならない。なんだか私だけこの場に付いていけていない。

 と、言いますか終わったのならそろそろ解放してほしい今日この頃です。


 それより何だか重大なことを忘れてるってーか、むしろ見て見ぬふりをしてしまっているような気が――


「おお、こんなところにいたで……って何故(なにゆえ)まだ雁字搦めにされておるので御座るか?」


 若干現実逃避気味にしていると、さっき話があるとか言っていた忍者がやってきた。こちらを不思議そうに見ているが、そんな顔をされても私が困る。


 という訳で引き揚げてもらい、用件を聞くことに。

 二人きり、ということはなく、外の人がちらほら見える場所を選んだあたり、この忍者も私が警戒していることは分かっているらしい。戦闘中は忍者らしく隠していた顔も今は被っていた頭巾を外しているので、その素顔が見えていた。

 おや、中々顔面偏差値が高いなこの忍者。まあゲームだから現実ではどうか知らないけど、何人かがわざとらしく舌打ちするのは様式美なのですかね。


 さて一体どんな内容だろうかと身構えつつ話を聞いたのだが――



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