#3 迷い迷ったその先で
少し場所を移し、今は大通りを一つずれた道にある公園のベンチ。背の高い木の影に入り、涼しい風が流れていく。
風に潮の匂いが混じっているのは、やはり海が近いからか。リアルでは海に行ったことがないのだけど、実際にこんな空気なのだろうか?
……と、ここには涼みに来たわけではない。方針決定のためだ。
現状金はないものの、時間的余裕は多分にある。
なら今から何をするかと言えば、
「ゲームの定番、情報収集かな」
この種族の事しかり次に向かう場所しかり。あと金策もあればなおよし。
単純なクエストぐらいなら定番の冒険者ギルドに行けば受けられるが、とりあえず自身に何ができるのか把握してからでないと始まらないだろう。
と、いうわけでウィンドウオープン。
まず見るのは自身のステータスだ。さっきは注目度が高かったので早々に逃げたが、ここなら余裕をもって見ることができる。
さてさて、自分の初期ステータスはと、お……?
■ステータス
名前:ハルカカナタ
種族:機人
称号:初心者
ATK:D-
VIT:D-
INT:D-
MND:D-
DEX:D-
AGI:D-
LUK:-
……なんだろう。初期として高いのか低いのか微妙な各種ランクと、もはやランクすらないLUK値。
これ、"運がない"って意味じゃないよね? ……ないよね?
「…………あー」
空が青い。
……とりあえず掲示板見て比較しようか。
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354:名無しの初心者さん
初期ステータスって皆どんなもんよ
ざっくりとしたモンしかなくて高いのか低いのかわかりゃあしねえ
355:名無しの初心者さん
あーそれはおもた
356:名無しの初心者さん
wiki見ろ
357:名無しの剣士さん
356に同意……と言いたいところだが、wikiもたまによく荒れてるから微妙
358:名無しの初心者さん
"たまに"なのか"よく"なのかどっちだよwww
荒れてるってなんなんだ
359:名無しの初心者さん
検証系のギルド連中の抗争みたいなもん?
360:名無しの初心者さん
は?
361:名無しの盗賊さん
あれだ、公式から出てる情報が少なすぎてwikiに情報が集まってるのはいいんだが、それを主に書いてるのが検証系ギルドの連中
362:名無しの初心者さん
ほう
363:名無しの剣士さん
なんだが、当然その手のギルドって結構数あってな
普段からうちの情報の方が正確だ~とかなんとかやってる
364:名無しの初心者さん
要はとばっちりか
はた迷惑だなおい
365:名無しの商人さん
激しく同意
リアルでやるなよGVGでもやってろよ
366:名無しの記者さん
はいこちらギルド《真実の瞳》の記者でござい。
今、平原フィールドにて目の前で検証系ギルドのGVGが行われております。
実力は拮抗しており、一進一退の攻防が、あ、流れ弾がきt
367:名無しの初心者さん
ちょw記者www
368:名無しの初心者さん
つかGVGリアルタイムかーい
武闘派すぎるだろう
368:名無しの剣士さん
あの連中、ドロップの確率計算で同じモンスターにウン百回と挑んでいくからな……
369:名無しの初心者さん
なんというドM
369:名無しの初心者さん
……で、初期ステータスの話は? チラッ
370:名無しの初心者さん
あ
371:名無しの初心者さん
ゴメw忘れてたww
372:名無しの学者さん
よし、教えてやろうではないか
では誰かよろしく頼む
373:名無しの初心者さん
お前じゃねえのかYO!
374:名無しの初心者さん
学者ェ……
375:名無しの助手さん
仕方ねえな
まずは参考ほい
ステータス参考
↑強
S:廃神 未知の領域
A:上級 特化型の先端
B:中級 トッププレイヤーの平均
C:壁 ここから中々上がらない
D:普通 一般プレイヤーの平均
E:初心 初期ステータスは大体コレ
F:ゴミ 種族特性等で素養なし
↓弱
上に+-がついて計21段階
説明よろ
376:名無しの魔法使いさん
まかせろ
初期ステータスはF~Dぐらい。
種族特性が大きく影響していて、Dは素養あり(種族補正+)、Eは普通、Fは素養なし(種族補正-)。
例外としてレア種族ほど尖った性能しているらしく、初っ端から一つだけがBで他はF-とかあったらしい。
377:名無しの初心者さん
あざっす
378:名無しの初心者さん
数値的な何かじゃないんだな
379:名無しの銃士さん
まあな
D、Fならばそこまで差はないが、Cから同じランクであったとしても無視できない程違いが出てくる
380:名無しの拳闘士さん
後は武器防具、取得スキル、称号によって変動するってとこか
381:名無しの騎士さん
正直スキルや称号の影響がいまいちよく分かってないんだよなー
モノによってはマイナス補正もあるだろうが、外すことができんから検証がほぼ無理だし
382:名無しの初心者さん
ところで俺のATKが「-」表記なんだが、なんぞこれ
マイナス?
383:名無しの助手さん
お前の種族、神霊型だな?
384:名無しの初心者さん
なぜばれたし
385:名無しの剣士さん
種族説明に書いてあったろ『物理素養なし』って
その影響でATKは「-」ハイフン表記
386:名無しの学者さん
一応武器装備すりゃその分のステータスが加算されるから試してみ
いくらいい武器装備しても攻撃力はカスだがな
387:名無しの初心者さん
マジでか
388:名無しの助手さん
それでも気合で物理極めりゃ、それ相応のスキルと称号はもらえるぞ
ランカーの一人がそれだ
頑 張 れ
389:名無しの初心者さん
やるとは言ってねえよ!?
どう考えても茨の道じゃねえか
390:名無しの助手さん
まあ茨の先には光があるから救いはあるがね
391:名無しの迷子さん
あのー
私のLUKが「-」表記になってるんですが
……これって運がないって意味じゃないですよね?
392:名無しの迷子さん
って迷子って何!?
393:名無しの剣士さん
迷子w
394:名無しの初心者さん
迷子www
395:名無しの学者さん
ああ、ここの掲示板の名前な
開発の遊び心が混ざってるから気をつけろよ
色々と
396:名無しの迷子さん
もう遅いですよ!
ってまた開発ですかよ!
396:名無しの助手さん
またってところが気になるが、LUKについて答えよう
LUKの「-」は運がないという意味ではない
386で言ってるが、ATK等なら装備・スキル・称号を揃えればランクを上げることは可能
が、LUKに関してはいくら装備・スキル・称号を揃えても「-」のまま
397:名無しの初心者さん
補正がかからないってことか?
完全リアルラック
398:名無しの冒険者さん
補正で運を上げることは出来ないから、ドロップ集めは苦労するらしいけどな
利点は逆に悪くなることもないことか
デバフとかバッドステータスは無効するし
399:名無しの迷子さん
リアルラック……リアルラック、ですか……
あれ、今まででそんな良いことなかった気が
400:名無しの騎士さん
だいたい把握
乙
401:名無しの神父さん
強く生きてください
402:名無しの商人さん
幸せになれる壺、要ります? げへへ
403:名無しの拳闘士さん
人生の迷子ってやつか
頑 張 れ
404:名無しの剣士さん
お前らw
405:名無しの迷子さん
たびにでます
さがさないでください
406:名無しの初心者さん
ま、迷子ーっ!
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……そらがあおいなあ。
迷子て。
人生の迷子て。
今は迷子じゃないやい!
……ふう。
うん、気を取り直していこう。
ステータスの話だ。
見る限り初期値としては平均より高めなんだろう。となると、やはりネックになるのはLUKかな。
「ゲーム的な補正が一切かからない、か」
魔人と似た様なステータスだがあちらはLUKがF-で、装備やスキル等で上げるそうだ。むしろ少し弱くともLUKが上がるものを装備推奨ってどんなんだ。
対してこちらは下がることはないが上げることも出来ないので、確率コンマ以下のレアドロップは諦めた方が良さそうである。確率の問題だから地味に良いのか悪いのか実感しにくい話ではあるけども。
「お宝目当てのトレジャーハンターっていうのも面白そうだったんだけどねー」
LUKの影響範囲はドロップ以外にも罠の解除や宝箱の有無にも影響するだろう。
これだけファンタジーなら某アメリカンな冒険者的な遺跡とかもあっただろうけど、そこは無い物強請りをしてもしょうがない。せっかくステータスが全般的に高いのだから他にも出来ることは多いはずだ。
「と、言っても何しようかなあ……」
クエストを受けて討伐・採取〜はソロでは厳しそうだと思い知った。かと言って生産も特にコレだというものはない。考え無しにあれこれ手を出しても器用貧乏になるだけなのは目に見えている。
……どーしよーか。
まいった。
まさかゲーム開始初日で無計画さが仇になるとは思わなかった。ヒントは貰っているからそれを指針に行動するだけなんだけど、せめてもう一つ具体的な何かがあれば良いんだけど――
「ねえ君、ちょっといいかな」
「……はぇ?」
思わず変な声が出たが、それが自分の口から出たものだと気づくのに時間がかかった。
いつの間にそこにいたのだろう。
俯きがちになっていた顔を上げると、目の前には虹色の髪を靡かせた女の人が立っていた。
「ごめんごめん。驚かせちゃった?」
女の人はどこか困ったように笑みを浮かべながら、座っていたこちらに視線を合わせる。柔らかな表情に同性ではあるけどドキリとした。
(おおう。ゲームとはいえ、なんという美人さんですか)
GMの美凪さんとは方向性が違う綺麗な人だ。虹色の髪を大きなリボンで一つに纏め、快活そうな瞳と……やたらと存在を主張している巨乳が強く印象に残る。なんというか、面倒見のいい部活の先輩というのがぴったりと合いそうな人だった。
……屈んだ為に谷間が強調されているのだけど、狙ってやってるのだろうか。そこの紳士が回れ右していったじゃないか。
少し呆然としていたが、そこでようやく自分が話しかけられていることに辿り着き、慌てて言葉を紡ぐ。
ええい、我がことながらこの人見知りはどうにかならないのかなー。……そういやあの狐店主は普通に話せたけど、職業的なものだろうか?
それはともかく。
「あ、ええ、はい。……大丈夫、です」
しどろもどろになりながら答えてしまった――と思ったのだけど、このアバターの特性か感情があまり乗っていないので、何ともぼーっとした言葉になってしまっていた。うーん、ありがたいようなそうでないような。
が、女の人はそんな私の内心を気にすることなく空いた隣に座る。動作の一つ一つにこう動物的なしなやかさがあるけれど、何かスポーツでもやっている人だろうか。
「ありがと。あはは、さっき向こうで見かけてから気になっちゃって、つい話しかけちゃった」
「……はあ。そう、でしたか」
どうやらお目当てはレア種族のようだ。なるほど、確かに女の人の視線は目立つ両手足と頭部のアンテナを行ったり来たりしている。
う……こう、じっくりと見れられると嫌な感じはしないけど非常に恥ずかしい。相手が気後れするほどの美人ならなおさらだ。
「あ、自己紹介がまだだったね。私はギルド『レインボーカーテン』の七色夢見。みんなは夢見って呼ぶかな」
「……私はハルカカナタ。ギルドはまだ、です。呼び方はご自由で」
「うん、じゃあカナタちゃんって呼んでもいいかな?」
「どうぞ」
真正面から見つめられてつい視線を外してしまうが、女の人――夢見さんは気を悪くした様子もなくニコニコとしている。
それから直ぐに種族の話が来るのかと思ったけど、しかしそれとは関係のない他愛もない話が続く。それが向こうなりの気遣いだったのだろうけど……
「……私の種族の話聞きます?」
「いいの?」
「全身から”聞きたい”ってオーラが出てるのは気のせいですかね」
「うあ」
指摘されたことに顔を染めてはにかむ。うわあ、外見は美人で中身は可愛いとかどんだけー。
いきなり種族を聞くのは抑えてはいたのだろうけど、あまりにもそわそわしすぎて隠しきれていない。や、これで全部計算尽くだったらとんだ悪女だな。
「あ、それなら……」
と、何か思いついたのか夢見さんはウィンドウをさっと表示させて操作する。その手慣れた様子で、それなりに長い時間プレイしている人だろうかと当たりを付けた。
容姿ばかりに目がいっていたが、見れば装備も良さそうなものばかり。軽く丈夫そうだがデザインも凝った服とか繊細な装飾の大弓とか、ワンポイントでセンスが光るアクセサリとか。……いかん、女子力高すぎて勝てる気がしない。
そんな抜けたことを考えていると、私の前にもウィンドウが自動で展開された。反射的に内容を見ればフレンド登録の文字が躍っている。
……なぜにフレンド申請?