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#46 可能性――良い意味、悪い意味

 ――login.



 ログインしたら真っ暗だった。


 起き上がって辺りを見渡すと当然あの山小屋の中――なのだが、今は最小限の光源であるロウソクが灯っているだけだ。小さな火が揺れ、それに引かれて陰影が踊る。窓から見える外の景色はより暗く、今が夜であることを教えてくれていた。

 あれ? と首を傾げて、直ぐにその違和感の正体に気が付く。


「……しまった。ゲーム内時間がリアルの倍速なのを忘れてた」


 リアルがまだ昼前だったからゲームでも同じ時間帯だと勘違いしていたけど、実際のゲーム内時間では夜はまだまだこれからといったところ。

 起き上がった拍子に胸元からころんと転がった姫翠に布団を被せつつ、足元のトリアートを踏まないようにして立ち上がる。起こさないようにそーっと、ね。


 どちらも起きる気配がないし、起こそうとも思えない。やる気が空回った感はあるが、まあそんな日もあるだろうと納得した。

 静かにお茶を入れ、椅子に座って一息。


「静かだな……」


 耳に入る音は翡翠とトリアートの小さな寝息と、外から僅かに聞こえる河の流れのみ。洞窟内に作られた部屋という趣のある空間で、明かりはロウソク一本だけなので、どこか時間が止まったかのようにさえ感じる。


「―――……」


 よし、ここで一句……って出るほど頭良くないな、私。つかなんで詠もうと思った。落語とかにはちょっと憧れるものがあるのだけどなー。


 何だかこのまま夜明けまでまったり出来そうな気がしたけど、一つ丁度良い時間潰しがあるのを思い出した。

 メニューを開き、目当ての項目を選択する。画面が切り替わり、そこに表示されているのは様々な物が整理もされずに入ったアイテムの一覧だった。更に、今は通常のとは別枠で一覧が表示されている。


「アイテムボックスの整理……前からしないと、と思って後回しになってたからね」


 廃都に来るまでに集めた、持っていても仕方がなかったアイテム――鉱石等の素材類はホームに預けてきていた。だけど流石はゲームというべきか、その預けたアイテムはこういった建造物タイプのセーフポイントでは、限定的だが出し入れすることが可能なのである。ゲーム内通貨で有料だけど。


 が!

 こんな時こそ、先日のPVの件で入った金を使わねばどうする。というか他に使い道ないし、十分すぎる額はあるし、遠慮なく使ってしまおう。

 支払う金額によって出し入れできる品物は変わり、私が選択した一番安いのは武器や防具などの重量があるアイテムは不可のタイプ。主に回復アイテムの補充や、回収した素材の収納が主な役割だ。それでも有料だとしても探索中であれば十分すぎるほどだが……いやほんと、なんでセーフポイントだけ仕様が優しいんだろうね? 今度美凪さんに聞いてみよう。


「鉱石系が多めだったけど、ここに来るまでで結構草花が増えたなあ」


 ちなみにその素材類が何かはさっぱりわかりません。

 いやに毒々しい色をしているのに何故かあまーい匂いがする花とか、小粒ほどの大きさなのにかなり重い水晶とか。適当にアイテムボックスに突っ込んだ物も多いから、何があるかぐらいは把握したいところ。うまくいけば鑑定とかその類のスキルを取得できるかもしれないし、やって無駄にはならないだろう。


 後は……そうだ、ついでにステータスも確認しておこうか。

 最後に確認したのはレイドクエスト直前。それ以降は特に何か特別なことをした覚えはないけれど、ずっと歩き続けてきていたから一つぐらいはレベルが上がっているスキルがあると思う。うーん、歌は一応程度で練習しているけどリアルの話だから流石に無理だろうけど、探索とかが上がっていると嬉しいのだが。


 うん、まずは先にステータスを確認しておこう。アイテム整理を始めたらキリがなさそうだし、見るだけなのですぐ終わるはずだ。

 割かし久しぶりにぽちっとな。



■ステータス

 名前:ハルカカナタ

 種族:機人

 称号:祈り捧げる歌巫女


 ATK:D-

 VIT:D

 INT:D+

 MND:D

 DEX:D+

 AGI:D

 LUK:-


■スキル

 ・ラビットジャンプK Lv.2

 ・ウォルフステップ Lv.2

 ・ブースト[種族専用] Lv.1

 ・祈奏術 Lv.16

 ・エナジーリカバリー[パッシブ] Lv.1 new!


 ・釣り Lv.1

 ・細工 Lv.1

 ・探索 Lv.4

 ・親和 Lv.6

 ・料理 Lv.9

 ・持久 Lv.14

 ・歌唱 Lv.28

 ・舞踊 Lv.7

 ・集中 Lv.8

 ・脱兎 Lv.1 new!


■種族特性

 ・視覚拡張 Lv.1

 ・機能拡張"フレンド通信" Lv.MAX



 ……なんか色々増えてる。

 称号はレイドクエストをクリアした時には変わっていたことを知っていたけど、スキルレベルが思いのほか伸びている。親和や歌唱が大きく上がっているのは、レイドクエストのクリア報酬的なところで経験値が大量に入ったから、かな?

 そう考えると祈奏術のレベルが馬鹿みたいに上がっているのは、クエストクリアの経験値プラス新ダンジョンを解放したからか。……上がっているのはいいんだけど、他に使いどころあるのかは不明というのがなんとも。


 新しく増えているのは水晶竜から貰ったパッシブスキルの『エナジーリカバリー』と、蛇から逃げていた影響だと思われる『脱兎』の二つ。

 『エナジーリカバリー』の効果はMPの自動回復というゲーム的にはかなり重宝する効果だ。伊達にレイドボスからの贈り物じゃない……と言いたいところだが、さっすがレベル1、"120秒で1%回復"ってほぼ意味ないだろうコレ。どーりで蛇から逃げていた時でも全く効果がなかったわけだ。レベルが上がってからの性能強化に期待しよう。

 で、脱兎はそのままか。敵から逃亡する際の移動速度が向上と。地味だけど私には必要だからありがたい。


 回避とかも取れていると思ったけど……なるほど、掲示板曰く戦闘系のスキルはそう簡単に取れないのか。ちょっと残念だけど、その分ジャンプとステップのレベルが上がっているのでよしとしよう。


 そしてステータスを見て出た感想としては、


「最初は一律だったステータスも徐々に差が出てきたなぁ」


 戦うという事を全くしていないから当然で、後衛型というか生産系になってきている。MP自動回復もあるし、回復ないし補助系スキルを取得できれば結構幅が広がりそうだ。


 ……ただし未だに気になっているのが一つ、ある。

 あまり気にしないようにしていたのだけど、目を逸らし続ける訳にもいかなくなってきた。


「種族:機人が、ね」


 今の私の種族。まだ私以外に出現報告のない、正真正銘のレア種族。

 歌とか新マップとかモフモフとかで忘れがちになるけども、もっと早くに気にしておけばと思ったと今更ながらに後悔している。

 その理由としては、


「初期ステータスが高めで種族特性がわりと有用、代わりにLUKに補正なし。ここまでプレイして地雷と呼べるようなのは見当たらない、が……」


 LUKの無補正は、運が良くなることはないが悪くなることもないので、デメリットとは言い難い。機械だから水は、って何回か水に触れたことはあるけど何も無かったな。お風呂にも入ったし。

 表情筋が瀕死なのは……うん、そも顔がないのとかいるから問題なし、と。


 そうなるとこの種族はメリットしかないような種族になる訳だけど――このゲームに限ってそんなご都合主義を信じられるだろうか。否。そんな訳はない。そもそもとして、この種族を考えたのはあの狂人氏である。どこかに絶対に地雷と呼べるようなのが仕込まれているはずなのだ……!

 や、単なる被害妄想なのかもしれないけど、掲示板やらwikiやらを調べている限りほぼ全ての種族に(・・・・・・・・)デメリットは(・・・・・・)存在していた(・・・・・・)。唯一デメリットがないのは種族:人間だが、これは代わりにメリットもないド平均なタイプなので除外する。

 とどのつまり、この機人という種族にも何かしらのデメリットがあって当然のはずなのだ。


 しかし実際に見当たらないとなると……予想として思い当たるのがいくつかある。


「まず一つは……ステータスの成長とかスキル取得に関わる制限、かな」


 例えば後半の成長率が凄まじく悪いとか、上位スキルの多くが取得できないとか。

 具体例を挙げるなら、ステータスを一定以上から上げるには高価なレアアイテムが逐次必要だったり、第六感系や魔術系のスキルが習得できなかったりだろう。機械だし追加パーツとか改造とかでパワーアップはありそうだから、その辺りがネックになっている可能性はありそうだ。


「もう一つは、強くなることでデメリットが顕在化するタイプ」


 高性能な機械でありがちな問題と言えば、エネルギー消費。

 成長するにつれて様々な種族専用スキルや特性を獲得していくが、どれもHPないしMPを大幅に消費するので燃費が洒落にならないレベルで悪いので出来る事が限定されてくる――というのは十分にあり得る話である。


「……で。あまり想像はしたくないけど、死に戻りに関する事っていうのもあるなあ」


 キャラ性能が良い分、死んだ際のデメリットが他の数倍――いや、最悪ロスト(・・・)は覚悟しておいた方がいいかもしれない。

 なにせ機械だ。死ぬ、いや壊れた場合に費用が発生、ステータス大幅ダウンや習得したスキルが消えるなんてこともあると思われる。そして費用が足りなければロストでキャラを一から作り直し……ありそうで怖いわー。

 まあ、流石に、それはゲームとして鬼畜すぎるのでない、とは思いたいのだけど。……うん、美凪さんでなくとも、とりあえずGMにキャラロストがあるかどうかぐらいは聞いておこう。


 キャラのロストは一先ず置いておいて。


「うーん、目下で一番怪しいのはあのインストール中だとかいう新スキルなんだよね……」


 ステータスに記載はないが、ログにはばっちり残っている正体不明のスキル。水晶狼と別れる際から発生している新スキルのインストールだ。

 インストールが進む条件は時間経過ではなく何かしらのイベントやクエストをクリアすることで、100%になればスキルを正式に取得できるらしい、のだけど。


「スキル名が全く表示されていないのが怪しすぎる……」


 スキル名が"****"としか表示されていないから、一体何のスキルか想像もつかない。

 取得した際に何が起こるのか……嫌な予感しかしないのは気のせいか。


 ――これらを一言で表すなら。


「どう考えても前途多難だよねー……」


 ぽつりと呟いた言葉とため息が、静かな部屋の中に溶けて消えた。



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