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#17 増えた縁

「――面白いものも見れたし。そろそろ帰るわ」


 出会いが突然ならば別れも唐突だった。

 彼女たちとは暫く雑談――主に私に関する質問の受け答えだが――をした後に出た言葉がそれである。


 ここからそう簡単に街まで戻れるのかと思ったけど、少し高価だが近くの街まで戻れる転移系の消耗品があった事を思い出す。


 なんでも私が話した川の渡り方を同じギルドの仲間に話し、更に別のギルドも合同で検証を行うつもりらしい。まずは水晶狼がいるポイントを中心に具体的には何時頃なのか何秒水が引いているのか、そも場所は他にないのか等々。

 それを複数のギルド総出でやる理由は、調べることは沢山あるので盾や囮は幾らいても足りないから、だろうだ。……いや、これもある種の人海戦術、かな?


「出来れば水晶狼が案内してくれたって言う地底湖も調べたいところだけど……ワタシ達じゃ襲ってくるから無理ね。うーん、誰かテイマーに伝手ないかしら?」


 既に女性の中では探索計画が頭の中で組み上がっているらしい。もう街に戻った後の先の先まで予定を考えている。

 ずいぶんアッサリとしたものだったけど、森で他プレイヤーとの初遭遇はこれで終わりのようだ。


 と、若干蚊帳の外だった微妙な顔をしている男が自分の上を指差して口を開いた。


「……ところで、僕の頭に住み着いた鳥はどうすればいいのかな?」

「ぜひ持って帰ってください」


 うん、返されても困るので。

 そんな内心が伝わったのか、妖精がこくこくと頷いている。帰れ帰れ! と顔に書いてあるな。


「勝手に装備されるMobとか初めて見たわ。ネタになるし、いいんじゃないかしら」

「他人事だと思ってない? 顔がニヤついてるよ……」


 確かに鳥球を触る女性の顔には笑みが浮かんでいる。鳥が好きなのだろうか?

 男は最初こそ鳥球を外そうとしていたけど、あの装備解除地獄を知ってからは諦めていた。


「頭に何も装備出来なくなるけど、他はメリットの方が大きいと思うわよ」

「メリット? 例えば?」

「そうね。見た目面白いし肌触りも良いし――非常食にもなる事かしら」


・一瞬で鳥球が逃げ出そうとする。

・女性がそれより早く鳥球を鷲掴みにする。

・何時の間にか持っていたロープでぐるぐる巻きにされる鳥球。


 以上、ジャスト1秒。


「ワタシ、鳥って好きなのよ」


 とても良い笑顔で言いますね?

 子犬は腕の中で丸まって震えてるし、妖精もどん引きして後頭部まで隠れるように下がってきたぞ。


「食料的な意味で?」

「そう、食料的な意味で」

「(((( ;゜θ゜)))ガクガクブルブル」


 何やら鳥球が超振動してるけど、ガッチリ捕まっているので逃げられない。

 うん、なんかゴメンよー。


「そういえばその鳥って一緒に転移できるんですかね」

「そうねぇ、多分無理でしょうから歩いて街まで帰ることにするわ」


 あっけらかんと言う女性。男が!?と驚いているが無視である。

 まあテイムもしてないMobを連れての転移は出来ないと思っていたけど。あの開発だしなー。


「……大丈夫ですか? かなり距離がありそうとか以前に危険地帯ですけど」

「問題ないわ、逃げ切るだけなら何度もやってるわよ。それに丁度いいスローイング武器も手に入ったしね」


 そして掲げるのはロープで捕縛された鳥球。鳥球が!?と驚いているがやはり無視である。


「ロープで固定してあるでしょう? だから投げて使って、また回収して使うの」

「新手の鵜飼(うかい)か」

「(  θ )」


 鳥球が息してない。


 小さくなっている子犬をもふって宥めつつ、心の中で合掌。あの女の人は随分鳥球を気に入ったみたいだし、食われることはないだろう。多分。


「それじゃあ、貴女も――って、あー……」

「どうしました?」


 別れを告げようとして、何かに気がついたらしい女性が苦笑した。


「……そういえばワタシ達、お互いまだ名乗りすらしてなかったわね」

「「あ」」


 出会いが出会いだったのですっかり忘れていた。

 向こうはどうやら掲示板等で私を知ってる雰囲気だし、私もなんとなく美女と変態という認識だったのである。


 アイテム交換には目で見た相手を指定するなんて便利なショートカットもあるから、名乗ったように錯覚してしまっていた。


「んー……、そうね。折角だからフレンド登録とか、どう?」


 なんとなく怪しいお店に誘ってるような言い方はどうか。違和感ないのも凄いけど。


 ま、断る理由はないし、サバイバル的な所では夢見さんより詳しそうである。

 相手を見て、フレンド申請、と。


「ふふ、ありがとう」


 目の前に現れたウィンドウを見て微笑む女性が操作すると、私のウィンドウも更新される。

 さてその内容は、と。



■ステータス

 名前:ストゥーメリア

 種族:猫族

 称号:未知覗く好奇心

 所属:アンティキティラ


 ATK:C+

 VIT:C

 INT:D-

 MND:D

 DEX:B

 AGI:B+

 LUK:B



 ……なるほど、ストゥーメリアさんか。

 種族補正なのか戦闘向きではないが、敏捷・器用・運が高いのでそれを生かして探索を行うスカウトタイプ。いやもうライダースーツとか着れば完全に女スパイが完成するよなあ。

 と言うか種族は豹とかだと思ってたけど普通にネコか。……あれ、豹の耳ってどんなのだっけ。


 そして向こうでは私のステータスを見てストゥーメリアさんが笑っている。


「予想はしていたけど、なかなか面白いステータスねぇ」

「そうですかね?」

「そうよ。LUKは補正がないけど全体的に基礎高めだから万能型……かしら? 育てれば廃スペックになりそうだけど……でもあの狂人が作った種族だから、とんでもない地雷が仕込まれていそうね」


 ふんふん、と軽く分析を聞いていたところで少し疑問に思う事が混じった。気になったのでさくっと聞いてみる。


「狂人氏が作った種族、ですか? 種族関係は今の開発が作ったのでは?」

「あら、あまり知られてないのかしら。大半のレア種族――その中でもランダム選択3回目でしか出ないようなのは、狂人が作ったものらしいわよ? 外宇宙とか案山子とか」


 何か明らかに頭おかしい種族名が聞こえた気がしたけど気にしない。うん、そろそろ慣れてきたな。


 にしても、私の種族である”機人”は狂人氏が作ったものである、か。意外なような、そうでないような。

 ――となると”機人”はこの世界観に合うような種族ということだろうか?


 ……わからん。そもそも外宇宙とか案山子とかが合う世界観ってなんだ。


「ま、その辺はゲーム進めていけば分かりますかねー」

「掲示板に考察系とかあるから、憶測ばかりだけど見ると参考になるわよ」

「憶測ばかりですか……」


 種族に関しては公式から通常選択分しか情報出てないから仕方がないと言えばそうなんだけど。


「なんだか本当に腕飛んだり目からビームでそうな気がしてきました」

「それで済めばいいけど」


 怖いこと言わんで下さい。



「……ところで僕は?」

「貴方はダメ」

「変態はちょっと」

「しょぼーん……」



 閑話休題。


「それじゃあ、また何処かで会いましょう。貴女のフレンド通信、映像もつくのよね? 何かあったら聞いてきなさいな」

「ありがとうございます。また、機会があれば」

「次は、次に会ったらフレンドよろしくね!?」

「( = θ =)」


 そんなこんなでストゥーメリアさん達は来た道を戻って行った。

 彼女達は1度帰った後にここを調査をするみたいだけど、私はこのまま進んで行くつもりなので死に戻らない限り直接会うことはないだろう。

 それでもなんだか好感の持てる人だったし、分からない事があればフレンド通信でもして聞いてみようか。


 あと鳥球が悟り開いたような面してたけど、うん、あれだ。――強く生きろ。



「そろそろ行こうか」


 二人の姿が見えなくなったところで妖精と子犬に声をかけた。

 抱えていた子犬を降ろして歩き始める。妖精は元から頭の上にいるで気にしない。


 メニューで時計を見れば、何だかんだで結構時間が経っている。

 そんなに何してたっけと思ったけど、よくよく考えれば色々していた。湖でのんびりしていたり、鳥球を引きはがそうと頑張っていたり、森に入ってからは初となるプレイヤーとのエンカウントをしたりと中々にイベントが豊富だったのである。

 空がまだ青いから勘違いしがちだが、リアルでもいい時間なのでログアウトしてもいいかもしれない。


 どーするかなーとか思いながら洞窟へ戻ると、既にそこはオオカミの群れで溢れていた。


「あれ、今日はお早いお帰りで」


 起きた時に比べればまだ少ないが、別の通路から続々と入ってきているのが見える。そのまま寝たり、地底湖で水浴びしたりと割かしフリーダムなオオカミ達だ。


「ああ、川を渡らなければ待つ必要がないから早かったのか」


 私がここに来た時は川を渡る為に日が落ちるまで待っていたけど、それが必要ないのであれば帰って来るのも必然的に早くなるのだろう。

 さて、なら今日は早めにログアウトしようかな、と思っていると――


「お?」


 くいっくいっと服を引っ張られる感覚に振り向けば、私をここに連れてきたボスがそこにいた。

 ぱっと見は鋭く感じるけど、仕草はオオカミと言うよりただの大型犬なので非常に和む。……これがここら一帯を恐怖に陥れる強Mobと言われても、分かるような分からないような。


「どうかした?」


 問いかければ、こっちこっちと言っているような雰囲気でボスが歩いていく。他の個体に動きはないので私個人の案内だろう。

 子犬も急かすように足元をくるくる回っているので、むしろ行かないという選択肢が無いなコレ。


 ……うん、こりゃログアウトと言うか晩御飯は少し遅くなりそうだ。


 ゲーム内で食事をしたからと言っても満腹中枢は刺激されないので、ちゃんとリアルでは腹が減る。あまり長い時間無理すると体調不備を感知した機器か運営によって強制的にログアウトされるので、キリが良い所までと心に決めてボスの後を追いかけていく。

 何よりデート帰りの弟が部屋を覗いてくるかもしれないからログアウトは必須なんだがなあ。が、今は先の興味の方が勝る。


 この地底湖のある空間から伸びている洞窟のうちのどれかを通るのかと思っていたのだが、どうも進む先に道があるようには見えない。あるのは澄んだ水が輝く湖のみだ。

 まさか、と思わず声が漏れる。


「もしかして潜るの?」


 答える声はなく。これ、妖精は目を輝かせない。

 湖面の前まで来たのでそのまま潜り――はせず、ボスは地底湖の端を沿うようにして歩いていく。巣の方は地面がなだらかだったけど、こちら側は凸凹としているので何とも歩き難い。


 足を滑らせそうだった子犬をまた抱えて付いて行くこと半周、丁度巣からは真反対の位置で止まった。湖面から尖鋭的な水晶が突き出ているのが目印だろうか。

 ボスが示したのはやはり湖面ではあるのだが――


「……おぉ!?」


 それは余りにも自然だったので直ぐには反応できなかった。

 なんと突き出ていた水晶が横に動いたかと思うと、一瞬にして地底湖の水位が上昇したのだ。周囲に水があふれて足が水が浸かり、しかし結局止まったのは水が膝上にまで達した時だった。子犬は抱えていてよかったけどボスは――あ、ちゃっかり一段高めの岩に座ってる。

 よくよく見れば巣の位置と今いる場所は高低差があり、こちらの方が低い。巣は地底湖そのものとも離れているし、よく考えて巣が作られている訳か。


「時間からすればちょっと早いけど、川の水位が下がった仕組みの一つかな」


 川を渡った時はもう少し遅い時間だった。だけどここがその一因なのは確かか。

 と、なるとこの後は水位が下がっていくはずだけど……。


「……なるほど。そうきたか」


 確かに水位は早々に下がり始めた。

 ただし。元々の水位以上に、だ。


 水の引いた地底湖から現れたのは、階段。そしてそれを降りた先には、ぽっかりと洞窟が口を開けていた。洞窟の中にまた洞窟があるという、ちょっと混乱しそうな光景だけど、まあ表現すればそんな感じだ。

 これもまた川と同じく限られた時間でしか進むことができない道なのだろう。


 道が開けたことを確認すると、ボスがひょいと階段を下りていくので私もそれに続く。


 頭の上にいた妖精はこの仕掛けに興奮したのか、動いた水晶や地底湖を飛んでみて回っている。

 私も驚いたことは確かなのだけど、それより気になることが一つ。


「階段って……人工物(・・・)だよね」


 危険地帯の森の奥深く、その下にある地底湖に現れた"階段"と言う代物。

 足が踏むそれは自然にそうなったような造形ではなく、一段一段均一に整えられていた。


「先に行くしかないか」


 ここで考えていても仕方がない。あまり時間をかけ過ぎると水位が戻るのは目に見えている。


 まだテンション高めの妖精を呼んで、私は洞窟の中に足を踏み入れた。

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