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#16 鳥と冒険家と、あとUMA

「……ごめんなさい」

「謝らなくていいわよ。貴女がこのド阿呆に一撃入れていないと、どのみちハラスメントで拉致られてたと思うから」


 川を挟んでいるが、水気が多いからか声は良く通った。

 対岸にいるのは冒険家の美女と地面に伏した男の一組。どこか多分に呆れを含んだ声で女性が地面に倒れている男を見下ろしていて、なんともゴミを見るような視線が似合う女性である。


 そんな彼女は大人な女といった風で、大きな胸を強調するような上着を違和感なく着こなしていた。頭の猫耳は艶やかで、ネコ科はネコ科でも間違いなく女豹の類だろう。……ただ何処か苦労人っぽい雰囲気しているので親しみやすさはあるのだけど。


 妖精と子犬はそんな彼女たちに興味津々だが、妖精はさっきの鳥球の件もあったからか私の頭の上より離れる気配はない。子犬も大人しいので今は私の腕の中だ。


「こちらこそ御免なさいねぇ。ワタシも初対面でセクハラ発言飛ばすとは思わなかったわ」

「……それなら、お互いさまという事で」

「ふふ、構わないわよ。面白いものも見れたし、ねぇ?」


 そう微笑する顔がなんとも艶めかしい。

 夢見さんも巨乳で年上だったが天然で、対してこの人は理知的な印象が強く出ている。今着ている冒険家衣装でも十分蠱惑的だが、そっち系統の服を着たら街を歩くだけで男を魅了していくだろう。

 そして右足がしっかりと倒れている男の背に乗っている辺りイメージ通りだ。おお、靴がぐりぐりとねじ込まれる度に残念な悲鳴が聞こえてくるけど、顔色一つ変えないな。


 で、彼女の言う"面白いもの"とは、その踏まれている男――の頭の上。

 今度はそこに鳥球が座り込んでいた。一仕事やったぜ!的な顔していると思うのは気のせいか。



 あの時に何が起こったのかと言えば。

 男の発言に私が思わず持っていた鳥球をぶん投げた瞬間に謎エフェクトが発生。そのまま鳥球は超加速し、正しく弾丸のような目にも止まらぬ速さで男の顔面に直撃した。世界チャンプの右ストレートを喰らったがごとくの勢いで男が吹っ飛んだのには双方驚いたけど、意外とダメージ少なそうではある。起きてこないところを見ると、メインは状態異常:気絶か。……そりゃ川の上でアレが当たったら落ちて死に戻るよねえ。

 頭に鳥、背中に美女の足を乗せて気絶する男……シュールだ。


 しかし男はどうでもいいとして、ゲームを始めてから大和撫子系美人、頼れるお姉さん系美少女、魔性の女系美女と色んなジャンルの女性に出会うなあ。

 それに比べて私は"何かエロいロボっ子"て。泣ける……。


 それは兎も角。


「それにしても驚いたわ。川の渡り方を調べに来たというのに、もう渡っている子がいるとは思わなかったから」

「川の渡り方、ですか」

「そう。ここは出てくるMobが高レベルな上に飛んでも泳いでも船を造っても渡れないから、一種の”見えない壁”と言われてたのだけど。……ねぇ、どうやって渡ったのか、お姉さんに教えてくれない?」


 おおぅ、なんというエロボイス。同性なのに背筋がぞくっとしましたよ。

 そう言えば声も種族に合わせて多少変わるみたいだけど――ちなみに二次元は8ビット音声――この人もまた体型含めてリアルと大して変りはないんじゃないだろうか? 自分の声がどう影響するのかってのを十二分に理解して使ってる気がする。単に廃ゲーマーな可能性もあるが。


 さっきのエロボイスは私が顔も声もフラットなので、こちらがどんな反応を返すのか知りたかったからだろうなあ。川の渡り方は掲示板やwikiには無いのでどうにか情報を引き出したいみたい、なところか。

 と言っても私は空気読まずにGO。


「いいですよ」

「……あら?」


 川の渡り方についてアイテムや金額的な交渉が始まるとばかり思っていたような女性は、予想外とばかりにぽかんとした。その拍子に足が更に下へめり込んだけど、悲鳴は無視した方がいいんだろうねー。


「あ、先に言いますと特にアイテムとかお金とかは要りませんので」

「それはこちらも有難いのだけれど……本当にいいのかしら?」


 どこか困ったように首を傾げる女性。

 うーん、あまりロハで情報のやり取りとかは珍しい部類なのだろうか? だとしても私には私なりの理由があるが故の提示だ。

 理由は単純で、


「正直行き先が不明瞭なのでアイテムボックスに余裕は持たせたいと言うのと、お金こそ先にいるか分からないので」

「それはそうでしょうけど……思い切りがいい子ねぇ」


 なんだか"しょうがない子"と駄目な子供を見るような目で苦笑される。

 あっれそんなに変ですかね。あとそんなに若く、いや幼く見えますかね。泣くぞ。


 そんな精神ダメージは放置して。

 インベントリは現実のバック等のように重さを感じないので忘れがちになるけど、アイテムボックスの容量には制限がある。時間があれば鞄を作るつもりだが、高価なものを貰っても正直使えなければ意味はない。それに死に戻りして落としでもしたら悲惨だ。

 そして金はあって困るものではないのだろうけど……そもそもこんな場所で使う場面があるのかが不明なので要らない。むしろ死亡率激高な場所で大金なんぞ持ちたくないぞ。


 なんて事をつらつらと話していると、あら、と女性が声を上げた。


「それなら鞄と交換にしない? 流石にタダで教えてもらうのは気が引けるわ」


 タダより怖いものはないとは言うが、この女性の場合は借りたものは返す主義なのだろう。妖艶な見た目の割にさっぱりした性格をしているようだ。

 貰えるのなら嬉しいけど、気になることが一つ。


「いいんですか? たぶんそれ余り物とかではない気がするのですが」


 この森に来るには余分なものは持てないと、よく掲示板で書かれていた。ならその中で鞄を交渉材料にすると言えば、もしかすると装備中の物だったりするのでは、と思ったのだ。

 だが女性は心配無用とばかりにウィンクして、インベントリからアイテムを引っ張り出す。


「大丈夫、伊達に冒険家の恰好をしていないわよ? ちゃんとバックパックはインベントリにも予備が入っているもの。こんな場所だからこそどんなお宝に会うか分からないし、準備は怠っていないわ」


 なるほど。見た目の印象と相方で少し疑っていたけど、彼女たちはしっかりとしたプレイをしているようだ。

 鞄は装備していなければインベントリ容量は増えないが、かと言って全部装備していても邪魔なだけ。だから枠が余っている時は外して調節しているらしい。


 と、女性がメニューを操作したかと思うと眼前にウィンドウが表示された。

 突然開かれたそれはアイテム譲渡の機能で、既に彼女からは鞄……ウェストポーチが提示されている。まだ話してもいないのに気前良すぎではなかろうか。

 こちらから渡すのは情報なので何も乗せずにOKボタンをクリックすると、暫くのちに"アイテムを受け取りました"とメッセージが流れた。


「と言うか届くんですね、この距離で。譲渡にも距離制限がなかったでしょうか」

「支援とかで物を投げていると"アイテムスロー"ってスキルが手に入るの。飛距離が伸びるだけと思われがちだけど、アイテム譲渡の距離も伸びるのよ」


 なんとも変な機能である。これを最初に見つけた人も、まさかシステム的なところにまでスキルが影響してくるとは思わなかっただろう。


 それはそれとして、アイテムを受け取ったからには教えなければならない。

 なるべく詳細に思い出しながら話して行く。


 川に辿り着いてオオカミと出会ったことから始まり、日が落ちた辺りで川の水が引き渡れるようになったこと。ただし元に戻るのはかなり早いのも忘れずに。


 内容は言葉にすると単純だが、女性は思いの外真剣に聞いている。何時の間に起きたのか男もメモ帳のようなアイテムを取り出してペンを走らせていた。ただし頭の上に鳥球が乗っているのでシリアス感が全くないけどな。


「なるほどねぇ……。潮の満ち引きのような現象があるかもとは予測されていたけど、まさかそんな短時間だけとは思わなかったわ。流石開発、鬼畜ね」

「夜になると危険度が跳ね上がるからセーフポイントを設置するけど、あれって足場の悪い場所――川辺とかだと設置出来ないんだよねー」

「でも川辺で待機しようにも、その時間帯は水晶狼がうろついているから居られないのよねえ。気が付いたらいなくなってた理由が分かったケド」


 そうだったのかー、と頷く二人。どうやら幾つか持っていた疑問も氷解したようで、非常に満足げな表情だ。


「それにしても、あの水晶狼と仲良くしているなんて驚きだわ。あのオオカミ、基本人を見かけたら襲い掛かってくるのに」

「だよねー。それにフェアリーも一緒にいるし、水晶狼の子供みたいなのもいるし――あとその足元のも」

「足下?」


 さっきまで足元を走り回っていた子犬は今は私に抱えられている。

 じゃあなんぞと思って下を見ると、


「あ」


 と言った時には遅かった。

 私の足を齧っていたラクガキ犬は、突如河口から現れた首長竜的なUMAにぱくっと食われてそのまま湖に沈んでいった。




「で、なんでしたっけ」

「え、今のスルー!?」


 いつもの事ですがなにか。



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