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#11 今はそこに縁がなく

 結局昼は冷麺もどきにした。


 キャベツとキュウリを千切りにして、ついでに安かった豚肉をさっと湯に通す。麺はこれまた特売だった春雨を代わりに湯にぶち込み、全部まとめて氷で冷やす。

 後は胡麻油とポン酢にラー油を少々混ぜたものをかければ完成である。所要時間5分少々でお手軽だ。

 んー……。少し色合いが寂しいけど、昼ならこんなものか。


 テレビが連休の天気予報を垂れ流しているのを横目にずるずると麺もとい春雨をすする。連休中はずっと晴れか……ちっ、姉のとこだけでも雨降ればいいのに。

 そのまま本日の事件事故が放送されているが、特段気になることは――お?


「VRの急速な普及に伴い、税金使って専門の病院と研究機関が運営開始、ねえ。その施設前では反VR団体が抗議活動と。活動家がジジババばっかだな」


 病院と言っても主に精神カウンセラーが中心で、プラス脳外科。ちょっと生々しい組み合わせ。

 VR技術は万全を期している筈だが未だに未知の多い脳に関わる技術。何万人に一人の割合でも合わない人が出るのは確実だろうから先手を打ったという所だろう。もし誰かがVRが原因で不調になったとしても、病院を一つでも用意しとけば言い訳にもなる。


「……って存外近いな、ここ」


 なんだか周りがどっかで見た事あるなーとか思っていると、表示されている住所が徒歩十分圏内の場所だった。家から見ると学校やらスーパーやらとは逆だったので、そんなものかとも。

 それより気になるのは、


「VR関係の仕事に付いている人を対象に、緊急時の為の研修施設にもなる……。ってことは、あのGMのお姉さんも来るのかな?」


 仮想空間では精神状態がダイレクトに影響するので、まずは特にVR人口の多いMMO関連の人員が呼ばれるようだ。となれば、あのちょっと天然入った可愛らしいお姉さんと会うかもしれない。


「……と言っても。私自身が向こうに行かないからそれはないか」


 なんとなく仲良くできそうな人だったので少し残念である。まあ相手も覚えてないだろうし、そんなものだろう。


「縁があったら会えるかなー」


 そんな事をだらだらと考えながら、皿に残ったキャベツをかき込んだ。




「んー……。見事に情報がないなあ」


 あの森のことを調べようとwikiや掲示板を流していたのだが思った以上に出ていない。多少兎様関連で盛り上がっていたが、それも私が夢見さんに渡した情報の検証だった。……何か妙に規制入ってBANされたスレが多かったけど、気にしない方がいいんだろうなあ。

 それはともかく、私以外に森へ誰も行ったことがない何てことはないはず。これは情報量が少な過ぎるのか、それても秘匿されているのか。


 ……こりゃ両方かなぁ。


 あの森自体とんでもない気軽さで地雷が仕込まれているために、デスペナルティが厳しいこのゲームでは無理をしてまで突っ込もうとする人が少ないようだ。

 セーフゾーンが極端に少ない上に出会うMobは致死クラス。兎様目当てのように元から死ぬつもりで森に踏み入るのが大半だとか。


 ――なら今のプレイヤー達はどこにいるのか?


 それこそ情報は山のようにあった。

 どうやら今のトレンドは最初の街から三つ目の街にある"飛行船"のようである。街自体には随分前から辿り着いていたが、最近有名なパーティが重要クエストをクリアして飛行船の機能が解放されたのだとか。

 初期のプレイヤーも古参のプレイヤーも皆そこを――いや、正確に言えばその飛行船に乗って行き着いた場所に向かっている。


 飛行船の行き先は二つ。

 一つは今までの街より更に大きい、巨大な城が建つ所謂城下町だそうだ。城には王様もいるので通称"首都"と呼ばれている。

 街は活気に溢れていて武器防具、消耗品、素材の種類は豊富も豊富。安い物から高い物までなんでもござれ。Mobも近場に低レベル帯と高レベル帯が程よく分かれているので初心者にも優しいとか。無理してでもその街に辿り着けばとりあえず安泰らしい。

 特に今はマイホームやギルドホーム、店舗、生産施設などを建てようと土地の争奪戦が激しいとある。


 加えて目玉なのは劇場と闘技場、そして賭博場――カジノだ。


 劇場ではNPCによるコンサートや本物さながらのオペラが公演されていたりするが、なんと上手くいけばプレイヤーが開くことも可能という夢あふれる施設だ。そういえば服を売ってくれた店主の連れがアイドルを目指しているとか言っていたので、それに関連することなんだろう。

 音楽、芸能系のスキルを持つならまず行くべき場所なんだそうだ。


 闘技場はよくある低ランクから始まり、敵を倒してファイトマネーを得てランクを上げていくタイプの施設。戦闘系の腕試しに丁度良く、何気にデスペナルティが参加費用のみとなっているのでスキル上げにもピッタリみたい。

 PVP(プレイヤー戦)GVG(ギルド戦)もできるので、何か揉め事があればここで一バトルというのも流行りという脳筋仕様である。


 そしてカジノはそのまんま。

 スロットにカード、ルーレットにダーツ、更に別室では麻雀等もあるのだとか。かなり本格的にやっているのはいいが、負けに負けた場合は問答無用で鉱山に叩き込まれるらしい。地味に容赦ねぇ……。

 まあ鉱山では幾つかの専用イベントがあり、それが結構面白いとかでワザとカジノで負けるのもいるという。楽しみ方は人それぞれだなぁ。

 あと何かカジノでは有名なNPCがいて、男は一見の価値ありとかあるが……話題になっているのが(変態)紳士が集う板なので、見ない方がいいな、うん。


 で、街はそんなところなのだが、飛行船のもう一つの行き先も人気がある。


 それが"夕闇城"という厨二溢れた全難易度対応の(・・・・・・・)ダンジョンだ。

 名前の通りと言うか何と言うか出てくるMobは洋風のモンスター。ここも首都と似たように城と街があり、城の頂上にいるボスに向かって難易度が上がっていく仕様となっている。

 街にいるのは非アクティブモンスターが主で、何気に店を開いていたりするので散策するのも楽しいとのこと。まあ当然落とし穴は多分に含まれているそうで、民家に入った瞬間に魔女鍋に突っ込まれて死に戻りってどんなホラーだよ。


 城に近づくにつれて下町、貴族街と変わり、出てくるMobも強力になってくる。そして城に入ればトラップや仕掛けも増えるので難易度が跳ね上がる、と。ただし入口は一か所ではなく、崩れた城壁や地下水路なんかからも侵入でき、中には墓場に秘密の通路なんかも隠されていたそうだ。鬼強いMobが待ち構えていたそうだが。

 そんな感じで広い分隠し要素が多く、なんだかアトラクション的な風味が強いのでこちらも人気のダンジョンとなっている。



 ――とまあ見どころ沢山なので、リスクの高くてリターンも不明瞭な森よりそっちの方に向かう人がほとんどなのである。

 こちらにいるのは、ふと思い出して挑戦してみる人や"秘境の奥で○○を見た!"をやりたい人、またはもふもふを求める人達だ。


「まあ私が向こうに行くのは当分先かな」


 初心者が強行軍で行くとしてもそれは護衛という伝手がある場合の話だ。それを目的としたギルド勧誘もあるのだが、わざわざその為だけに加入するのは気が引ける。何にせよ、そんなものは往々にしてトラブルの種だろう。

 途中の街やダンジョンも見どころはあるので、無理して行く必要がないと言うのが私の認識だった。


「こっちはこっちで十分面白いしねー」


 兎に角、情報は無かったので手探りで進んでいくしかなさそうだ。掲示板やwikiで調べるのはこれぐらいにしておこう。


 ……心に傷も負ったしねぇ。


「ふ、ふふ……なんかエロいロボっ子ってなんやねーん……」


 兎様関連で掲示板が一部騒ぎになっていると夢見さんから聞いていたのでそちらは避けたのだが。いやまさかwikiにまで魔の手が及んでいるとは思わなかった……。

 どうやらまだ"機人"はまだ私一人らしく、種族としての特徴というより"私の特徴"が書き込まれていたのだ。エロゲのロボスーツってなんじゃい!


 なるべく修正して情報を記載しようとしたが、その為にはまず書かれている情報を削除必要がある訳で。

 ……うん、『外宇宙プレイヤーの触手で――』とか書き込まれたのが見えた瞬間諦めた。思わず窓から飛び降りたくなったよオイ。あ、更新したらBANされてる。

 とりあえず『本人降臨マダー?』という書き込みに『変態が減ったらまた来ます』とだけ書くに留めた。

 

「……嫌なことは忘れようそうしよう」


 時計を見れば夕方なのでゲーム内は朝になる頃だ。ならそろそろログインするかな。

 掲示板やwikiの盛り上がりとは離れてのソロプレイだが、わざわざ他に合わせる必要もないだろう。このまま方針通りに行ける所まで行ってみよう。


 また空調を調整して手洗いを済ませ、洗濯や食器洗いなどの片付けもさらっとやっておく。弟はデートで晩も食べてくるとのことだったが、明日から泊りなのでそう遅くはならないだろう。なら服や下着はともかく風邪薬とかポケットティッシュ等は用意しとかないとなぁ。

 なんで学校での外面は良いのに家での内面はズボラなんだろうね。ったく、こりゃ書置きぐらいも用意しとかないと……。旅行用の鞄はクローゼットの上段だったかな?


「よし、これで大丈夫だろう」


 なんでか私が弟の旅行の準備をしてしまったが、部屋に入られてゲームしているのを見られる方が面倒だ。『ちょっと早めに寝るので用があったらメールすること』と書置きしたので、これならゲーム中でもメールに気が付ける。ハードとの連携設定はバッチリである。

 よし、今度こそゲーム再開だ!


 やはりちょっと重いハードを被ってスイッチを押せば、すぐに意識が落ちていく。これももう慣れてきたなあ、とか思考の断片が浮かんだ。


「さーて、今度は何が出てくることやら」




 ――login.


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