表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

チャプター 11:「反攻」

『全員集まったか』

『そのようですね』

 電脳内でイデアに応答しながら、シンは集まったメイジ達を見回した。

 シンを囲むのは、カインも含む学院の講師、レイラを始めとした生徒達。その誰もが、

カニバルスプラウトの出現を知り、恐怖に顔を強張らせている。不安を和らげる為か、突

然人を集めたシンへの不信か。見知った仲間同士で何かを囁き合っており、学院の正門前

広場はざわめいていた。

「それでは、防衛作戦を説明する」

 よく徹るシンの声に、ざわめきが一瞬で収まった。木のさざめきが聞こえるまで静まっ

た広場の中央で、シンがメイジ達をもう一度見回し、口を開く。

「コード・レクター…………カニバルスプラウトの処理には、防衛班と攻撃班に別れて当

たる事が望ましいと判断した。先ずは、ベラドンナ市街及び学院を保護する為、町の北部

に位置する不出の森に接する全ての区画に対し、胞子侵入を防ぐ防壁を構築する。この中

で、最も広い効果範囲を持つ、発熱系及び光学系のメイジは?」

「恐らく…………僕だ」

 緊張した面持ちで静かに挙手したのは、三導師の一人、ギリアンだった。

 ギリアンがシンの前まで歩み寄ると、シンへ期待と諦めの混じる視線を投げかける。

「だが、それは非常に難しい」

「何故だ?」

 シンの問い返しに、ギリアンは己の額へ手を当て、視線を落とした。そして、シンへ向

けられているであろう、嘲笑を零す。

「ベラドンナ北部が、一体どれだけ不出の森と接していると思っているんだ? 頑強な壁

で囲われてはいるものの、空気に舞う胞子までは防げない。山から吹き降ろした風で市街

へ侵入してくる胞子までは防げないんだ。だとしたら」

 顔を上げたギリアンは、魂無き視線をシンへ向ける。

「僕が防がなければならない範囲は、不出の森入り口から、左右にそれぞれ4キロメート

ルだ。とても、メイジ一人で護れる広さじゃない。それに、僕の魔法がどの程度の効果を

上げるかも未知数なんだ。だから――」

 彷徨っていたギリアンの目に映ったのは、未だ表情を変えないシンの姿だった。

「質問を変える。ギリアンの魔法で、太陽光の三倍に相当する強さの、光のカーテンで市

街を覆う事は可能か」

 ギリアンは視線を落とし、数秒静止したかと思うと、相対するシンを見る。

「やはり、無理だ。その程度の強度ならば、僕の精神網でも効果範囲に届く。だが、それ

を持続させるだけのマナ出力が、僕にはないんだ」

 ギリアンの回答に、博士が電脳内で小さく笑む。

『フフッ…………第一段階、クリアと言った所か。シン、次に移れ』

『了解』

 目を瞑り、歯を食いしばるギリアンの肩へ、シンが手を置いた。

「覆う事ができるなら、それで十分だ」

「それはどういう――」

「そして、他者へマナを分け与える魔法はあるか聞きたい」

 集まったメイジ達がざわめいた。それは、生徒や講師がシンへの評価を決定付けた瞬間

だった。

 こいつは駄目だ。

 直接の表現はなくとも、囁かれるいくつかの言葉には、シンを嘲るものや事態に絶望す

るようなものが含まれていた。

 その中で、シンの能力を目の当たりにしたレイラだけが、辛うじて口を動かす力を残し

ていた。

「貴方は魔法を使わないから判らないだろうけど…………マナを他者へ渡すのはとても効

率が悪いの。供給量を調整するのにも綿密な計算が必要よ」

 シンは静かに頷き、完結に質問を返す。

「では。この学院の講師、生徒全員でギリアンにマナを供給した場合、光のカーテンはど

れだけ保てるのか問いたい」

 血の気がないまま、レイラは藁にも縋るような表情で数瞬黙考した後、シンへ視線を戻

す。

「多分、全員でも半日持つかどうか…………とても現実的ではないわ。焼却には最低でも

三日は――」

「十分だ。参加メイジは、全員でベラドンナの防疫を頼む」

 あまりに現実離れした言葉を当たり前のように発したシンに、全員が口を噤んだ。確た

る自信は生徒達に奇跡を信じさせるに足る可能性を感じさせる力があった。

 しかし、尚も冷静な思考力を持ち続けていたレイラだけが、シンに激しく反論する。

「あ、貴方! 出鱈目な事を言わないで?! カニバルスプラウト処理にどれだけの時間

が――」

「五分だ」

 レイラの言葉を遮ったシンが、パンの焼き上がりを報告するかのような口ぶりで答える。

『シン、一つ忘れているぞ』

『はい。そちらも』

 全員が呆然とする中、シンがレイラに一歩歩み寄り、真剣な眼差しを向けた。

「レイラ。俺と一緒に、カニバルスプラウトを」

 手を差し出したシンに、レイラは恐怖に顔を引き攣らせながら後ずさる。

「ど、どうして私を? 私一人ではどうにも…………」

「火力の心配ならばしなくてもいい。それより、カニバルスプラウトの正確な位置を把握

できるよう、測位盤を使ったナビゲートを頼みたい。俺にはマナがないのでね」

 暫く俯いていたレイラだが、口をきつく結び、シンと目を合わせないよう、激しく首を

振った。

「やっぱり、無理よ! 見つけられたって、私と貴方じゃ――」

「陳腐な言葉だが…………俺を信じて欲しい」

 真剣な眼差し。レイラがシンの視線に射抜かれたように身を強張らせた。

 その様に、電脳内のイデアはいやらしく笑った。

『ククク…………歯の浮くような台詞だな』

『実績の無い俺には、これ以外に言葉がありません』

 イデアは皮肉にまるで動じないシンに不満げな呟きを漏らすが、それが言葉として認識

できるようになる前に、レイラがシンを見つめ返した。

「……その言葉信じていいの?」

 極限状態のレイラには、最早シンに縋る他なかった。詐欺師の手口に似たそれは、この

場においては都合の良い方向へ事態を動かしていた。

「ああ。確実、とまでは言えないが、可能性は十分ある」

 絶対と言わないシンの生真面目な応答だが、それがかえって、レイラに対しては現実味

を与える効果を発揮する。

 全員が大人しく死ぬか。

 突拍子のないアイデアに乗り、最後まで足掻いて死ぬか。

「そ、それなら…………貴方の言葉。信じ、ます」

 シンが頷くと、話の区切りを読んだベルタとカインが近づいてくる。

 先に口を開いたのはベルタ。

「お前が言うんだ。本当にできるんだろうな」

「無論だ。百パーセントではないが」

 ベルタに続き、カインが一歩近づく。そして、血の気を取り戻した妹の顔に、苦笑した

ままシンを見た。

「どうやら、妹も覚悟を決めたようだな。頼んで、いいか」

「はい」

 シンは機械的に応答すると、レイラへ目配せした。そして、ギリアンや講師達へ歩み寄

ると、手短に言葉をまとめ音声にした。

「作戦を整理する。ギリアンの魔法で街の保護を。先生方は、そのギリアンに適切なマナ

供給が行える魔法、または刻印を持って防壁の維持を。その間に、俺とレイラがカニバル

スプラウトを焼失させます」

 事態の進行についていけなかったギリアン達だが、その作戦を理解したらしい素振りを

見せると、大きく二度頷く。

 シンが踵を返し、レイラを見た。

「さて。始めようか」

 まるで、夕食を作るかのような口ぶりで歩き始めたシンへ、レイラは戸惑いながら続い

た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ