ニ話 守るべきもの
「ただいまー」
時計の短針が7を過ぎた頃ようやく僕はじいちゃんちに帰って来た。
「お帰りなさい」
そう言って出迎えてくれたのはばあちゃんだった。何故か玄関で正座していたが。
「ただいまばあちゃん。待っててくれたのは嬉しいけど、体冷やすよ」
「そうかい。さあそんな所でっつたってないで早くお入り。風呂はわいてるからはやくおはいんなさいな」
「うん、ありがとう」
「あ、千歳。おかえり。お仕事お疲れ様」
僕が風呂の前に荷物を置き
に二階にいこうとすると下から声がかかった。
茅ヶ崎 相模、ちがさきさがみ通称相模にい。僕の母親の姉の子供。所詮従兄弟だ。
「相模にいも受験勉強お疲れ様」
「ありがとう。まあ、話は後にして早く風呂はいって来なよ。汗臭いよ」
「うん、そうする。じゃあまた後で」
風呂に入ったあとすぐに夕食になった。
「相模にいはこの夏はずっと勉強?」
何と無く聞いてみると相模にいは少しばつが悪そうな顔で
「ははっ僕はそんなに真面目じゃないよ。それに実はもうとある大学から招待が来ているんだ。勉強は一応してるだけ」
「すごいじゃん!やっぱバイオリンで食っていくつもりなの?」
そう、相模にいは小さい時からバイオリンを習い、国内外でいくつもの賞をとっている。
「はは、音楽で飯を食って行くのは理想だけどそんなに簡単にはいかないからね。見聞を広げ今後の道を、音楽をやっていくか諦めるかを決めに行くんだよ」
相模にいに声をかけたのはアメリカのなんちゃらつう大学らしくしばらく向こうで生活するらしい。準備もあるので10月には日本を出るそうだ。
「あれ?そういえば相模にいって彼女いなかったっけ?」
去年の夏は彼女さんと旅行で会えなかったのを思い出した。
「あいたた。気づかれたか。うんいるよ。というより今はいたよかな。彼女は一人っ子で家の仕事を継がなくちゃいけないからついてきてとは言えないよ。だから別れた」
相模にいはそう言った。
「えー勿体無いな。一緒に旅行行くぐらいラブラブなのに別れちゃうなんて」
「まあ、恋愛よりも生活の方が大切だからね。千歳も覚えておくといいよ。自分がってに好きな人を振りまわすと相手の生活を、将来を崩す原因になることもあるからね」
ここまで相模にいが言ったところで黙って聞いていたおばあちゃんが口を開いた。
「かっ。ただ好きな女一人養って行く自信がなくて逃げただけなんだろ。べつについてこれなくっても一生ここに帰ってこないわけじゃなかろう。待っていての一言すら言えんヘタレだよ。そんな志じやどこ行ってもうまく行きっこないよ。自分勝手な理由で別れた彼女さんがかわいそうだ」
「ばあちゃん!」
「いいよ千歳。でも、ねばあちゃん。待っていての一言はひどく残酷なんだよ。これからの生活であの子に僕以外の好きになる人が現れるかもしれない。そんな人がいたらあの子は僕という『鎖』のせいで罪悪感を抱くかもしれない。僕はそんな不快感をあの子に感じて欲しくない。僕は自由に動き回るあの子が好きなんだよ」
相模にぃ‥なんだか言い訳しているみたいだよ。
「ふんっ。こういうところだけあいつににるんだから。頑固もんめ。置いていかれる女の気持ちも考えっ」
そう言ってばあちゃんは食器を持って出て行った。