閑話 音楽店にて
遅れてすいません
『プハー』
もくもくと男の口からでた煙草の煙が室内を満たす。
ここは町の隅っこに佇む小さな楽器店だ。今はとあるイベントの影響で普段はいる二三の客足もなく店内には煙草を吹かす店主だけだった。
西日が窓から差し込んできた頃その静寂の空間に踏み込む人がいた。
「こんにちは、店長」
一人の青年がドアにつけられたベルを鳴らした。
「おう、坊主。いらしゃい」
入ってきた青年は常連客らしく店主とかるく挨拶を交わした。
「よかった、店長がいて。こいつは店長以外の人にさわって欲しくないからね」
そう言って青年は肩にかけたバックから一挺のバイオリンをとりだした。
「へっ、バイトの連中が出てくタイミングできたくせに」
店主は冷たくいい話したがその声は少しうれしげであった。
パチパチと弦の音が響く。
唐突に店主が青年に問いかけた。
「そういやぼうず。結局ユメちゃんと別れたんだって」
店主はバイオリンを見たままだった。
青年は答える。
「はは…狭い町だなー。うん、別れたよ。その方がお互いのためだと思って」
青年は頬を一度軽く掻いた。
「おりゃただの小さな町の小さなみせの店員にすぎんからぼうずの選択、人生に口出す権利なんてねぇが…。人生の先輩の一人からのちょっとしたアドバイスだ。聞き流してくれてもかまわねぇ」
店主はバイオリンから手を離し青年をまっすぐむかいあった。
「『後悔するような選択をするんしゃねぇ。人生は一廻りだ』」
店主は目を青年から離さなかった。青年が離すまで。