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方舟  作者: 宮下 弥生
2/4

夕焼け

ハッピーエンド?

教室から見える景色をただながめていた。


「ねぇ、周?

いつまでここにいるの?

しばらく速水くんの所行ってないでしょ?

噂になってるわよ?」

麻実が呆れたように私を見てくる。


「そうだね。ずっと追いかけてたもんね。

一年ついてまわったもんね…。」

外は私の気持ちとは裏腹に澄んだ青空で清々しさがある。


逆に私の心は重りでも沈んでいるように重い。


「で?だれかに何か言われたの?」

麻実は爪を気にしつつあくまで、さりげなく聞いてくる。

本当良くできた親友だ。


「言われたのもあるし、そうでもない。」

そして私は未だに外の景色、今は校庭を眺めている。


「なにそれ?どっち?」


呆れたように笑う彼女。


「空は…、何も言わない。

いつも通り興味ないの。

まわりの反応なんて。

でも絵を見せてくれなくなったの。



空は気になったものや好きになったものしか描かないの。


でもそれがコンクールとかで金賞とかとってくるから凄いよね…。



だけどね最近は絵を見せてくれない。隠すようになっちゃった。


そんなとき、後輩くんに言われたの。


『速水先輩の邪魔しないでくれますか?

先輩描けてないじゃないですか』って。

私がいないときは描いてるらしいんだけどね。

だからちょっと…。空に悪かったかなって反省してるんだ。」

そんな私の話を麻実は静かに聞いてくれた。


でも噂になるくらい私はしつこかったのかとさらにショックをうける。

ごめん。空。


なんてひたっていたら頭を叩かれた。



「痛い!!なに?」


「速水くんの作品がまた金賞とったから観ておいで。

今度は堂々と見えるでしょ?」

「でも麻実。」

「うるさい!!行け。」

笑顔で笑う麻実はとても怖かった。


そんな彼女に従い1人で作品を見にきた。


******


作品は第二美術室に飾ってあるので、第一美術室で活動している美術部員に会う心配はしていない。


だけど恐かったのだ。

なにがとは言わない。

私にもよくわからないからだ。



美術室に行く途中で初めて空の作品を見つけた事を思いだしていた。



******

学校で時間を潰すのにふらふらしていたあの頃。

本当に見つけたのは偶然だった。

外は大雨で帰るに帰れないでいた。


そんなとき第二美術室から明かりがもれていた。

暇潰しのつもりでふらっとはいったのに私は心を奪われた。


雨が上がりそうな光景で雲から漏れる天使の階段。描かれているいつもの日常。

それなのに私は感動したのだ。

何に感動したのかも、わからない。なのに胸に迫る切なさと暖かさが私に涙を浮かべた。


どれぐらいそこにいたのかわからないけれど、気がついたとき、隣には男の子がいた。

私が見上げるくらいの黒髪が少し焼けたような茶色く見える男の子。

その子は絵を見つめたまま話かけてきた。


「なんでないてるの?こんな絵で何がわかるの?」

冷めた眼で絵を見続けている男の子。

なんでかわからないけど言葉を返さなきゃいけないとおもった。


「わからないよ。でも好きだと思う。

書いた人に会ってみたいな。」

ハンカチを出そうとしたらティッシュをくれた男の子。

遠慮せずにもらった。


「感情のない冷たい人間かもしれないよ。

会って楽しい?そんな人。」


「会ってみたいのは私の勝手。

わからないじゃない。会わなかったら、どんな人かなんて。


どんな人でもいいの。

私はただ貴方の絵が好きですって伝えたい。」

感情をださないようにしている彼を私は見つめた。

知ってか知らずかかれは私に背を向けて

「馬鹿な子だね。」という言葉だけ残して去っていった。



のちに彼が絵の作者、速水 空と知ることになる。


******

それから私は空にくっついて彼が作品を仕上げるまでの過程をいくつも眺めてきた。彼が私に見せてくれなくなるまで、ずっと。



第二美術室のドアまできて懐かしさに笑みがこぼれる。


まるでそこに空がいる気がした。



だけど、そこに空はいなかった。


けれど私は空いた口が塞がらなかった。

「…なに。これっ、だって」


そこには私がいた。


いや、私が描かれた絵がいくつもの絵が飾ってあったのだ。


怒っている私、拗ねてる私、慌ててる私、ほっとしてる私、ー――笑っている私。


好きなもの、気に入ったものしか描かない空。

人なんか風景画の一部でしか見たことがない。


なのに、これじゃあまるで空が…

「あまね。」

呼ばれた方に振り返る。


これじゃあまるで空に、


……告白されてるみたいだよ。



「好きだよ。僕と付き合って。」

柔らかい空の笑顔。

初めて見る空のその顔。


どきどきして顔が赤くなるのが止まらない。



******


どきどきと驚きで仕方なかったけど口からは素直に疑問が溢れた。


「な…んで、だって空急に私を避けだして、絵も見せてくれないし、わ…たしを嫌でしょうがないのかって」


「照れくさかった。

なんだかはずかしくなったり、あまねが僕をどう見るのかも気になったりしたし。


僕は偏屈っいわれているしね。


だけど周が美術室に来てくれなくなって、ここにも来なくなって会いたくて仕方なかった。

だからひたすら周を描いてた。


会いたくて会いたくて仕方なかった。


だから余計な事をしたあいつには叱っておいたよ。


絵を見せるのも恥ずかしかったけど、君しか描いてないし。


だからコンクールに出した。君が欲しくて。」

いつもこんなに話さない空に私は唖然として見つめたていた。



「え?欲しくて、出した?どういうこと…」

空の突然の告白に私はただ彼を見つめていた。


「君は近くに寄ってくれなくなったからね。

賞でも獲らないとここには飾られない。だからコンクールにだした。君を捕まえるために。


あとは他の人へは牽制を込めてね?



知らないかな?君は人気があるんだよ。

だからこそこの絵を出した。これを見たら僕の気持ちが伝わるだろう?


高橋さんはこれをみて僕に手を貸してくれた。

君はだからここに来た。」

回らない頭を叩けばわかるだろうか?


「やめて。あまね?これは現実だよ。君はこんなにもいろんな感情をくれた。今僕にあるのは独占欲というのだろうね。それで周。返事をくれる?」


「麻実が動いたの?」

「そうだよ。安心した?」


「むしろ驚いたかな。」

「周。」

少しむっとしたように空は私を見つめる。


だから私はどきどきしていた。だって真剣に空が見つめているから。


「好きだよ。大好きだよ!!

辛かった。嫌われてるって、避けられてるって思うだけで苦しかった!



だから…空の絵だけ見ていようって、思ってたのに。

なんで笑ってるのっ!!」


なかなか見れない空の笑顔をみると嬉しいような悔しいような気持ちになった。


「嬉しくて。周?離してあげられないから。

…好きだ。」

私を抱えるように抱きしめる空。


夕焼けが目を瞑るまえに映ってそれはそれは綺麗だった。

長年の片想い、気付かないうちに育つ気持ちでした。

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