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里犬

作者: 平岡莞爾

 教室を照らす陽の光が一つ一つの机を照らし出し、隼人を舞台の主人公のように演出している。五時間目の授業が終わり、幾ばくかの時間が過ぎた為、他の生徒は部活なり、塾なりと、各々の予定に向かって歩き出し、教室には隼人しかいない。廊下から聞こえてくる笑い声も、複数の話し声も、舞台演出のBGMに他ならなかった。教室には二つ一組になった机が、十組一列として四列ある。窓際の列の五組目が隼人の席だ。机の上には、五時間目の授業道具が片付けられずに放置され、其れを片付ける事無く、肘を置き、頬杖をついている。視線は動かず、黒板の横に張り出されたプリント付近一点を見つめている。瞬きも異常に少なく、上野公園に設置された西郷隆盛が如く、早稲田大学に設置された大隈重信が如く、魂は抜け瞳孔は拡大し、覇気が全く感じられない。


 薄い唇から白い歯を覗かせ、目を細めながら笑っている。手に持った教科書とノートを黒色の肩掛け鞄につめながら、由里は隼人と談笑していた。由里の家にはチョコという雑種の犬がおり、その犬が今日仰向けて寝ていた事を話していたのだ。

「普通、仰向けになるのかなぁ?七年飼っているけれど、初めて見たよ。」

 もう話したくて話したくて仕方が無かった由里は、これは一大事とばかりに、通常業務で疲れた会社員が、残業をこなし、自宅で待っている家族を思い、寄り道をせずに帰宅をし、やっと一杯のビールにありつけた時のように、その時の事を誰にも話さずに我慢して、我慢して、一番心を許せる人間である隼人に対して堰を切ったように話し始めた。

「だってね。だってね。足まで広げちゃって、死んでいるのかと思っちゃった。」

 由里が隼人に対してとる態度、そして隼人がとる由里の態度は、どちらも共に会社の受付にいる受付係の微笑と、親が子供に投げかける微笑が異なるのと同じく、犬が餌を与えられた時の従順な態度と、夕刻帰ってきた飼い主に対する態度が異なるのと同じく、同じ会話に対する対応が、他の友人とはっきりと異なっていた。

「というか犬って仰向けで寝るんだね。犬を飼っている人が見たことないのに、飼っていない俺が分かるわけが無い。」

 隼人の体格は、同級生と比較して肉付きが良く、身長も低くは無い。であるから、初対面の人が想像する笑い声は、大抵が低いものだ。しかしながら、隼人の笑い声は小学生の男の子と似ており、高くて軽い。腹を抱え、涙を浮かべながら笑いつつ、由里にもう少し話すペースを落としてくれと、右手を上下に振った。それを見て見ぬふりをして話を続けた。隼人が笑いすぎて苦しんでいるのが面白いらしく更に苦しめてやろうという魂胆だ。

「だから私、結構強めに顔をペシペシ叩いてみたの。だって本当に死んでいたら嫌じゃない。」

「そうしたら、どうなったの。」

 喘息患者の肩呼吸のように、苦しそうに肩を上下に揺らしながら答えを聞き出そうとする隼人を横目に、その切り替えしを鼻から待っていましたとばかりに、精一杯息を吸いあげ、両手でしっかりとスカートを握り、じっと隼人の事を見つめると少しずつ開口して言った。

「鼻に物凄くシワを作って、人の手に噛み付いてきたの。あの様子だと、お肉か何かを食べている夢を見ていたんだと思う。だって、うちで時々お肉の骨の部分をあげるのだけれども、全く同じ反応を示すもん・・・」

 噛まれて赤くなっている手を見せながら、痛かったと息を吹きかける由里を見て、もう隼人はあの犬に近づくのは止めようと決心した。


 そんな由里がさっき死んだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 先ほどはすみません。携帯からだったので、ぶっきらぼうな書き方になっていますね。 気分を害したわけでは無いのですが、TVを見てたらいきなりの停電で中断してしまったと言う感じです。 最初の描写…
[一言] あまりに唐突すぎるオチに唖然。 何がしたかったのだろうか。わかりません。
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