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05 少女は語る

だいぶ長くなってしまいました。少々読むのが面倒かもしれませんが………、

どうか気になる点がありましたら、ご指摘を。

 私、白樺加奈子しらかばかなこのおばあちゃんは占い師だった。


 でも、ただの「占い師」じゃないの。何だと思う?分からないでしょ?


 正解はね、「夢占い師」。


 お客さんから夢の内容を聞いて、それを元に占いをするんだって。

 フロイト先生じゃあるまいし、そんな商売食べていけるの?


 案の条、お客はいっこうに来なかったね。もう、見事なまでに。


 それどころか、両隣の八百屋さんとお魚屋さんに(なぜ、こんなシュールな位置関係が成り立ったのかしら)気味が悪いから何処かに移転してくれ、と言われちゃう始末。

 無理もないわよ、私だって気味悪いもん。

 だけどね、あの人は何を言われても、店を移転しようとはしなかった。

 

 理由は「ここが、自分の生まれ育った家だから」。


 おばあちゃんが生まれるときに建てて、ずっと住んできた家を改造して店舗にしたらしいわ。

 というか、それじゃあ、築90年は経つのね。だいぶボロいとは、思ってたけど。


 ………別に故郷を離れるわけじゃないんだから、とみんな口をそろえていったけど、おばあちゃんにとっては、この家こそが「故郷」。


 「天皇陛下から頂いた土地を捨てるのは、国民としてだけではなく、人間の恥。」


 おばあちゃんの名言その1。

 太平洋戦争当時の過酷な、国家総動員体制の時代に弟達を養いながら生き抜いたおばあちゃんの口から出る言葉だけあって、みんな言い返せない(というか、言い返しても無駄なのよね)。


 そんな頑固な人だったけど、私はあの人が嫌いじゃなかった。

 

 私の両親は、私が1歳にもならないうちに離婚した。両方とも、「もっと好きな人ができた」だって。 

 バッカじゃないの?じゃあ、子供産むなよって話だよ。 


 私の親権は、押し付け合いになった。

 こういうのってさ、「A子の親は俺だ!!」「私よ!!」って感じで、奪い合うもんかと思うんだけど、彼らの言う「新しい生活」には、私は要らないみたいだね。


 でも、おばあちゃんは私を引き取ってくれた。


 バカ親2人に向かってさ、ビシッと「あんたらが喧嘩するのは勝手だけど、それに子供を巻き込むのは間違ってるからね」と言ってやったんだって。すごいなぁ、かっこいいなぁって思った。


 おばあちゃんは私を可愛がってくれた。もちろん厳しい所もあったけど、それ以上に優しかった。


 


 そんなおばあちゃんが死んじゃったのは、2年前。


 いつかは来るだろうなぁ、と思ってたけど案外早かった。心筋梗塞。

 私が高校行ってる間にポックリ行っちゃったんだって。

 おじいちゃん(おばあちゃんの夫)が死んじゃってからだいぶ経つから、長く生きた方だ、て叔父さんは言ってた。

 

 ………お別れぐらいは言いたかったな。


 占い屋(正式には夢占い)もたたむことになるんだろうな。

 

 ………そんなこと考えると、急に涙が出てきた。止まらない。


 

 おばあちゃんに、恩返しがしたい。


 ………そうだ。夢占いだ。

 

 私が、夢占い屋を継ごう。


 



 その日からは、努力の日々だった。


 両隣の八百屋さんとお魚屋さんに、「私が後を継ぐことになりましたので、引き続きよろしくお願いします」と挨拶に行ったら、口には出さないものの、露骨に嫌な顔をされた。今に見てろ。


 まず、この店舗のボロさをどうにかしないといけないよね。お化け屋敷みたいだから。


 ここで私大奮発。リフォームしちゃった。

 費用は賄えるだけ賄ったけど、足りない分は叔父さんが出してくれた。

 叔父さんは応援してくれてる。邪魔そうに見てくる人もいるけど、応援してくれる人もいるんだ。


 おばあちゃんが何年も住んできた家を勝手にリフォームしちゃうのは気後れするけど(反対する人もたくさんいた)できるだけ元の状態を維持したから問題ないよね。日本の技術はすごいなぁ。あんな汚かったのに、こんなに綺麗になるなんて。


 次に経営関係。

 

 そして、このとき私はその事実に驚愕する。

 店名、である。なんとおばあさま、そのまんま「夢占い」という店名で経営を行っていたらしい。

 分かる?店の名前が「夢占い」なの。名無しというか、まんまじゃん!!

 そういう趣向もアリかもしれないけど、夢占いなんて商売は別。いっそう気味悪くなるだけだわ。

 

 というわけで、店名を決定することに。


 困った。なんせ商売が商売だから、どんな名前をつけても胡散臭い事この上ない。

 まず最初の案が「夢へと誘う館」。休眠所だと思われるぞ、てか怖いわアホか、と脳内会議で即否決。

 次に「夢物語」。なんか安直というか、面白くない。いや、胡散臭さもまだ十分健在だけど。

 

 マジ、困った。せっかくだからかっこいいのにしたいよね。別に日本語にこだわる必要もないか。英語なら少し変な意味でも響きが良ければいいでしょう(良くないけど)。

 

 ………辞典を片手に、奮闘する私。あぁ、私って頑張り屋さん!!

 

 かっこいい単語、かっこいい単語。

 ………辞典の片隅に目が留まったわ。


 Qualiaクオリア。意味は「感覚」だってさ。


 なんかこう、私に、いや、魂にビビッと来るものがあったね。惚れちゃったよ。

 脳内会議でも文句なしの満場一致、みんなスタンデイングオーベーションだよ。イカしてる、うん。

 君たちもそう思うでしょ?


 店名も決まった、でも見た目だけじゃダメよね。


 私自身、夢占いのことなんてまったく無知だから、猛勉強した。教えてくれる人なんてもちろんいない。でも、資料とか入門書ならおばあちゃんの書斎に溢れるほどあったから、独学でなんとかなった。

 

 その他諸々の努力、紆余曲折を積み重ねて、早1年。


 お店も綺麗。店名もかっこいい。なのに………

 お客が来ないのは、何故?



 

 店の横、リフォームした時に日本庭園を作ったのだけど、後悔してます。

 雪国だということを頭に入れてなかった。

 夏ならいいが、冬は積雪で一面真っ白。銀世界ってやつ。白いのに。


 ここで嘆くだけなら、商売人失格ね。


 せっかくの庭園。増設するだけでナンボかかったと思ってるのよ。おまけに植物やら花やら植えたのよ。栽培費でどれだけ出費してるのよ………とにかく、雪をどけなければ。雪が止んでいるいまがチャンスよ、加奈子。


 マフラー、そしてスカートという現代っ子な服装で表に出た私は、嘲笑うかのように空を覆う黒雲を、キリっと睨み付ける。スコップを片手に攻撃態勢に入った私の先制攻撃!!


 「うおおおおおおおおぉおおぉおぉぉぉぉぉりゃあああぁぁああぁあああぁあああっっ!!!」


 我ながらなんと名状しがたい早業!!みるみるうちに雪がなくなって…………


 いく、というところで私は見事に頭から転倒した。ズザーッと、効果音が聞こえてきそう。


 く、悔しい………。雪なんて嫌いだ………。


 ……おや?


 なにか、音が聞こえる。シン……シン……、そんな感じの音。


 私がそれを雪の音だと気付くのに、何秒かかっただろう。

 いつの間にか降り出した雪が、積もっている雪とぶつかり合って。

 小さいけど、どこか暖かい、そんな音。


 へぇ、雪が降る音なんてあるんだ。始めて知った。


 私は起き上がらず、その音を聞き続けた。何分も。

 心が休まる。こんな細かい事にイライラしていた自分がバカらしく思えてくる。

 雪はすぐに止んだ。

 音もなくなった。


  

 もう、いいかな。店に戻ろう。


 私が顔を上げると。


 1人の青年の顔がそこにあった。


 私より、3、4歳年上か、それぐらい。イケメンって程じゃないけど、顔つきも悪くない。

 

 数秒の間だった。私たちは動かなかった、結果的に、双方の顔を見つめ合うことになった。


 そして、私の口が開かれる。


 「きっ………」


 「きゃああぁあぁあああああぁあああぁあああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 私が叫ぶと、彼も、


 「わっわわぁああぁぁああぁあああぁあああぁああぁああぁああぁぁぁぁあぁ!!!!」


 響き渡る2人の叫び。



 あぁ、近所の方々から(特に八百屋と魚屋)苦情が来ませんように………。

 

 結局、そんな私の願いは届かなかったわけで、苦情はいけしゃあしゃあと殺到するんだけど、それはまた別のお話。


 

 


 


   


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