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ツナガリ  作者: あねもね
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始まりの日

それは俺が高校最後の夏休み。それは幸せの始まりだった。世間の大人たちが必死に働いている中で、学生という身分を有意義に満喫できる期間。それが夏休み。寝て、起きて、遊んでを繰り返す。昼間は両親がいない家でゲームをしたり、漫画を読んだりしてだらだら過ごす…はずだった。


「今日は何しようかなー」


毎日休みというのはいい事なのだが、やる事がなくなってきて暇を持て余すようになっていた。

ゲームでも買いにいこうかと考えていたそのとき。

―ピンポーン―家のチャイムが鳴った。


「はーい。今でまーす」


そういえば、頼んでいたゲームが届くのは今日だったことを思い出した。

宅配便だと思い、何の躊躇もせず玄関の扉を開けた。


「ごくろうさまで・・・」


何かがおかしい。宅配便の人にしては見覚えがありすぎる。そして人数が多すぎる。


「わが弟よ。出迎えご苦労」


そこに立っていたのは宅配便のお兄さんではなく、東京で暮らす実の兄だった。そして、その隣には奥さんと姪っ子がちょこんと立っていた。


「兄さん・・・ついに仕事やめてニートに・・・」

「あぁ・・・ついに俺もお前の同類に・・・」


と冗談を交わす兄とその隣で笑う綾子さんとその横で首を傾げるかわいい姪っ子。


「それで、急にどうしたの?」

「長い話になる。とりあえずあげてくれるか?」


それもそうだと思い、荷物を持ちリビングへ持っていった。

全員でリビングに行き、お茶を出すと、兄は一気に飲み干し口を開いた。


「実はな・・・」


沈黙が走る。しかし、綾子さんだけは笑いを堪えていた。


「1週間休みを貰ったんだ」


話は終わった。そして綾子さんは吹き出していた。本当につぼの浅い人だな。

ただ1週間休みを貰ったので、帰省してきただけという話だった。両親には話をしていたらしいのだが、俺の耳にはまったく入っていなかった。


「じゃあ一週間こっちにいるんだ?」

「こっちでゆっくりすることにするよ」


そして久々に帰ってきた兄夫婦とくだらない話をしていた。そのとき、またチャイムが鳴る。

ついに俺のゲームが届いたか!と走って玄関に向かった。しかし、そこに立っていたのは、またしても宅配のお兄さんではなかった。


「りく兄帰ってきたんだって!?」息を切らして、立っていたのは咲だった。

「なんだよ。お前かよ。いるよ中に」


そう告げると、了解もなしに家に上がってリビングに向かって行く。おじゃましますぐらい言えよ。


「りく兄おかえり!ついに愛想尽かされて帰ってきたの?」

「おぉー咲!ただいま。それじゃそこにいるのはいったい誰になるんだ」

「え?あぁ・・・綾子さんも来てたんだ。こんにちは」


やたらと不機嫌そうな咲を見て、にっこりと笑い挨拶をする綾子さん。大人だ。おそらく咲の気持ちには気づいているのだろう。正直言えば、誰が見てもわかるくらいに咲は俺の兄のことが大好きだ。話をしているときの顔がまったく違うし、兄の前ではやたらと女の子になる。そのことに気づいていなかったのはおそらく惚れられていた張本人だけだろう。


「ねぇ・・・陸。卒アル見せてよー」

「そうだな。空ちょっと持ってきてくれよ」


その綾子さんの一言を聞いたとき明らかに咲の表情が変わった。


「だめ。絶対に見せないで」

俺がアルバムを取りに行くのに付いてくる咲。

咲がやたらと拒むのかわかったのは、俺がすでに持っていた兄の卒アルを見たときに明らかになった。

『陸兄。大好き』小さな文字で書かれたそれは、明らかに咲が書いたものだった。俺は、なるほどねと理解して、咲を見た。もちろん、咲は「見せたら殺す」と目で訴えていた。俺の頭の中で選択が迫られた。ギャルゲをやっている気分だ。


1.このまま卒アルをみんなに見せる

2.見せずになんとかその場をごまかす


ここで前者を選べば、俺は明日には冷たくなっているだろう。しかし、それを覚悟で見せるのも面白いが、もれなくBAD ENDINGが待っているだろう。どうやら選択肢は一つしかなかったようだ。咲は薄っすらと涙を浮かべていた。そんな顔をされたらいくら俺でも悪いことはできない。仕方なく卒アルを隠し、見つからないフリをした。取ってくるのが遅いのに見かねて兄が自分でアルバムを取りに来た。


「兄さんの卒アルどっかいっちまったー」


「あれー。確かにここにしまったはずなんだけどなー」


必死に探す兄の後ろで「これは貸しな」と咲に囁いた。「後で卒アル持ってきて」と不満そうに告げて、足早に帰って行った。そして、結局見つからない兄の卒業アルバム。高校の友達に借りてきてみることになった。「懐かしいなー」「変わってないねー」と楽しそうに卒アルを眺める二人を見ていると本当に幸せそうだった。俺は、姪っ子の面倒を見つつ、1週間はあっという間に過ぎていった。そして、この1週間は夢だったのかと思うくらいその幸せの夏休みは無常にも崩れて去っていった。

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