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ツナガリ  作者: あねもね
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プロローグ

8月。大学生の夏休み。夏休みといっても、大学3年にもなると講義も減り、ほとんど学校に行くことはなくなっていたので、本当にいつもと変わらない日常。

朝突然、プールに行きたいとせがむ妹。しかし、プールに連れて行くような元気がなかった俺は、必死に妹をなだめ、一緒に庭で水浴びをしていた。

もうすぐ小学校に上がるというのに、まだまだ子供だなと笑っていた。自分が小学生に上がる頃はなにをしていたか忘れてしまったが、おそらく部屋でゲームでもしていただろうな。昔も今も変わっていない俺のほうが子供か・・・。


「ちゃんと準備体操しろよー」

「えー!大丈夫だよー」


準備運動をサボろうとする妹に準備運動の大切さを説明していると、

聞き覚えのある声が飛び込んできた。


「おーい!そらー!わたしも混ぜてよー」

「混ぜてって子供用のビニールプールだぜ?」

「いいじゃーん!水浴びしたかったんだもん」


突然現れて、一番に入ろうとしているこいつは、隣に住んでいる幼馴染。

小さいくせに、人一倍強がりで、負けず嫌い。昔は男と間違われるくらい元気で活発な子で、常に俺の前を歩いていた。俺よりよほど男らしかったかもしれない。


「いいよねー?」

「いいよー!」


今となっては、そんな男のような咲の面影はどこにもなく、女らしくなっていた。

髪も伸ばして、綺麗な黒髪。客観的に見たら、かわいい部類で、中学の頃からひそかに人気があった。家が隣で、幼馴染というだけで羨ましがる男たちもいた。俺からしたら、ただの幼馴染。好きとかそういった感情はまったく生まれなかった。


「お前もちゃんと準備運動しろよ」

「えー!大丈夫だよー」


妹とまったく同じ反応。俺よりこいつの妹だと言ったほうが正解なんじゃないかというくらい妹は咲に懐いている。ほとんど俺と咲を見て育ってきた妹は、咲の妹と言っても間違いではない。


「ねーまだ入っちゃだめー?」

「あ、いい・・・」


「あっつい!一番のりいいいいい」


真っ先に子供用プールに飛び込んだのは咲だった。そのときの咲は子供の頃に戻ったようだった。

変わってないんだな。と思うとなんだか嬉しくなった。


「咲ちゃん子供みたい」

「そうだな。じゃあお姉ちゃんだな」

「えへへ。あたしおねえちゃーん!」


子供用プールに服のまま浸かって、気持ちよさそうにしている咲を横目に俺たちは笑っていた。

「なに二人でぶつぶつ言ってんのよ」笑う俺たちを見て、咲は、不機嫌そうに頬を膨らました。

「なんでもないよねー」と言うと繰り返すように妹が「ねー!」と相槌をうつ。

それを見てさらに怒ったような顔をして、こちらにホースを向けた。


「隠し事をする奴らにはこうだっ!」


ホースの先を摘み、勢いよく水しぶきが飛んだ。


「うわっ!ちょっとやめろって」

「つめたーい」


なんだか懐かしい気がした。こうして遊ぶのは何年ぶりだろうか。小さい頃からずっと一緒に遊んでいたのに、大人になって行くにつれて近かった距離は、あっという間に遠ざかっていった。別の高校に行って、さらに別の大学に進んだことで、どんどん疎遠になっていった。家が隣だから顔を合わせることはたまにはあったが、遊んだりすることは無くなっていた。少し会話をするだけで、ほとんど言葉を交わすこともなかった。


「咲。透けてんぞ」

「これ水着だから平気」


なんだよ水着かよ。少し悔しい気持ちを抑えた。しかし、なんでこいつはしっかり下に水着を着てるんだろう。


「入る気満々できたのかよ」

「当たり前でしょ。それ以外に水着着るわけないじゃない」


正論だった。聞くまでもなかった。俺たちが庭で遊んでいたのを部屋から見て、着替えてきたようだ。

妹の相手をするのは嫌じゃないが、正直、連日のバイトで疲れていたので来てくれて助かった。


「あー気持ちよかった」

「それはなによりで」


プールを出てタオルで体を拭く咲は、どこか女らしさがあった。女の子なんだから当たり前か。そんなことを思いつつ、二人でプールではしゃぐ妹を眺めながら、椅子に腰掛けた。


「懐かしいね。あのプール」

「あぁ・・・なぜかお前がうちの父さんに頼んで買ってもらったんだよな」


妹が遊んでいるビニールプールは、何故かうちの父親に咲が泣きながら頼んで買ってもらったのだ。

実は、咲のお父さんが買ってうちにもって来てくれたことは、未だに咲は知らない。


「昔はこうやって3人でよく遊んだもんなー」

「そうだね・・・」


咲の表情が微かに曇った気がした。そして立ち上がり、美綾のほうへ走っていった。

もう立ち直っているものだと思っていた。確かに辛い出来事だった。咲にとっては、俺より辛くて、苦しいものだったのだろう。


妹と咲の本当の笑顔が消えたのは、それが起きたときだった――――

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