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神降ろしのアリス☆  作者: rou
奇跡の村 ~光臨! 旅するお姫様!~
11/60

旅立ち

 アリスが朝の陽射しを感じて目を覚ましたのは、『野生のコカトリス亭』のベッドの中だった。

「あたし、寝ちゃってたんだ」

 そのことに気付いたアリスは、昨日のことを思い出し、喜び半分、悔しさ半分の表情になった。考えが上手くいったのはいいんだけど、せっかくなら最後までお祭りを楽しんでいたかったな、とでも言いたげだった。

 そして、神を憑依させた反動によるものか、はたまた二日酔いか、喉の渇きと軽い頭痛を覚えていたアリスは、水でももらってこようと、朝は食堂として使われている酒場へ足を運んだ。

「よお、おはようアリスちゃん。昨日はおたのしみだったな」

「おはよう。いきなりだけど水ちょうだい」

 カウンター席に腰掛けて、頭を抑えるアリスに、店主は水と手のひらサイズの果実を差し出した。

「水も果物もただにしておくよ。ゴブリンの言い伝えに曰く、怪我も病気も治るってぐらい旨いやつだ」

「あ、ありがと。そういや昨日この木の実、もらってなかったな」

 アリスはそれを一齧りした。みずみずしい口当たりが、喉の渇きを潤し、心なしか頭痛も和らいでいくような感覚があった。

「おいしい! 注文するからもっとちょうだい」

「いや、追加分も御代は結構だ。アリスちゃんのお陰で、そいつがうちのメニューに加わることになったんだから」

 籠に盛られた果物がアリスの前に置かれた。メニューに加わる、ということは、ゴブリンと継続的な商売を続けていけることの証左であった。

「じゃ、遠慮なくいただくわね」

 アリスは宣言どおり、それを黙々と平らげていく。全て食べ終わるころには、すっかり頭痛は抜け落ちていた。

「ごちそうさま」

「さすが良い食べっぷりだな。アリスちゃん。そうだ、頼みたいことがある」

「ん、なに?」

「これ、まだ名前がないみたいなんだ。ゴブリン達は単に木の実って言ってたからな。それで、アリスちゃんに名付け親になって欲しいんだ」

「そうね……」

 言われたものの、アリスでも急にぱっとは浮かんでこなかった。そこで、この村で出会ったものを順々に思い出していき、よさそうな響きの言葉を思いついた。

「……リンゴ」

「リンゴ?」

「そう。ゴブリンのもじりなんだけどね」

「よし、じゃあそれ採用させてもらうぜ」

 店主は早速、メニューの書かれている板に、豪快な時で『リンゴ』と書き足した。その下に『王女様直々に名づけられた一品』と付け加えて。

「なんか、気分がいいわね。自分が名づけたものにそんな堂々と宣伝文句が付けられるなんて」

「そういえば、お忍びの旅じゃなかったんだな。最初は正体を隠してるような感じだったけどな」

「最初から王女なんて名乗ってもつまらないからね。それに、あんな豪快に飲み食いしときながら『あたしが王女です』なんて言ってもまず信じないでしょ?」

「全くだ! 今だって半分信じてないぐらいだ!」

 店主は相手が王女だと知っても気後れした態度をみせずに、悪い悪い、がははと、大きく笑った。

 こうして、奇跡の村クレイグに名物が一つ、増えることになった。それは、人間とゴブリンの、友好の証とも言えた。

 

「さて、置き土産もできたし、そろそろ次、行ってみましょうか!」

 アリスは部屋に戻ると、御供の三人を呼んで、そう宣言した。

「次はどこに行きましょうか」

 ガイツは地図を広げ、周辺の目ぼしい場所をピックアップする。

「どこも捨てがたいな……そうだ」

 アリスは小さな正六面体を取り出した。

「迷ったときはこれで決めましょう」

 それは、何の変哲もない、ただのサイコロだった。1の目が出たらここ、2の目が出たらそこ、という風に、候補地を決めていくアリス。

「それじゃあいくわよ。運命のダイス・チョイス!」

 振る、というより投げるように放られたダイスは、豪快に転がり、そして一つの面を上にして止まる。

「よし、じゃあここに決定!」

 その方角を指差し、アリスはそう宣言した。

「さあ、次の旅が始まるわよ! ワクワクしてきた!」


奇跡の村 クレイグ編 完

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