6
51
「食べる」という行為は
ごく当たり前で普遍で
面倒くさくもあるけれど
時折どうしようもなく愛しくて
幸せを運ぶものだと知る
52
緩やかな眠りが
静かに誘う
白い世界
揺蕩いて
落ちる
53
ひとときのゆらぎを
永遠と想う
それは過ち
けれど誘惑は
抗い難く押し寄せる
54
夕暮れの街に吹く風は
どこか冷たくて
寂寥を感じさせる
お前は一人だと
思い知らせるように
55
甘いシロップの薬は
子供の頃の想い出と共に
懐かしさと共に切なさを
心の中にわきあがらせる
――まるで魔法のように。
56
愛していました
とてもとても愛していました
貴方はひとつも信じてくれなかったけれど
それでも私は、誰よりもなによりも
貴方を心から愛していたのです
今となってはもう届かぬ想い
57
緩やかに
穏やかに
お湯の中に
静かに
融ける
58
柔かな毛糸に触れながら
一目ひとめ編み進めてゆく
ふわりふわりと編みあがるかたちに
緩やかに流れるときに
いいようもない幸せを覚える夜
59
目覚めた朝の寂しさに
押し寄せる冷たい風の冷たさに
ぎゅっと抱き寄せるわが身
やがて差し込む朝の光に
じわりと心が解けるのを知る
60
ふわり漂う香りは
どこか懐かしく
心の引き出しの奥底に隠した
忘れられない想い出を
そっと誘い出そうとする
お願い 忘れさせて