36
351
さあさあとふる小雨の
そのあまおとに耳を澄ませば
ひたひたと心に
穏やかな凪が訪れる
梅雨のおわりの夕暮れのこと
352
穏やかであることは
容易いことのようでいて
何故かとても難しい
ただ微笑んでいたいだけなのに
キリキリと痛む胸の切なさよ
353
眠れないと嘯いて
ひたりと寄りそう君
そっと抱きしめて
額に口付けを落として
囁くように唄う子守唄
354
大きな声で
どこまでも響くように
切なる想いをこめて
泣き叫んでみたいと
俯き思う夜
355
愛がどんなものか、なんて
わからないけれど、でも
ほんのりと心温まる
そんな時間が持てる貴方が
愛しいと思うのです
356
幼い感情を
若い義憤を
誰が笑うことが出来ましょう
たとえそれが未熟な感情だとしても
まっすぐな思いを否定することなど
誰にも出来ないことのはずなのです
年を経ていつの日か
ああ、あのころは若かったと
苦く笑う権利は
本人だけのものなのですから
357
親というものは
どんな人間であっても
幼い時分には
絶対的な存在なのだと
自戒をこめて小さく呟いた
358
若き日の私は
どうしてあれほどまでに
警戒心丸出しの猫のように
周囲を威嚇していたのだろう
小さな柔な心を
傷を負わぬよう抱き締めて
ひたすらに内に篭っていたあの頃
もし、あの頃の私に出会えるならば
そっと抱きしめて囁こう
――世の中そんなに悪くないよ、と。
359
あれもこれもといっぱいに
紙に色々かいてみた
可愛い小物に洋服に
欲しい物をかいてみた
だけどあとから眺めたら
欲しいものなどなにもなく
くしゃりと丸めてごみばこへ
みることもなく、ごみばこへ
欲しい欲しいと思ってた
思いも一緒にごみばこへ
360
なにかを始めようとするとき
なぜかとても怖くて
いつも一歩が踏み出せない
何が怖いのかが解らなくて
結局動けないままだったけれど
静かに心の内を見詰めれば
やがてみえてくるものがあって
――結局、人が怖いのだ、と。
一人苦く笑ってみた