34
331
気が付けばほろりと
唇から零れ落ちる歌
幼いころ母が歌った
その歌を気が付けば唄う
静かに眠る幼子へと
332
ややこしいことを考えるより
単純に
好きか嫌いかしたいかしたくないか
それだけで生きることができたなら
しがらみにまけずに前に進む力を求めて
333
優しい香が漂い
ふわりとわが身を包む
静かに閉じた瞼に
浮かぶ懐かしい思い出
――遠き夏の日の夢
334
ていねいに綴る手書きの文字の
その柔らかさと暖かさ
ひともじひともじ書き連ねる
そのほのかな楽しさは
意外と癖になるものなのです
335
叩きつけるような風雨の中
一人まっすぐに傘もささず
立ち向かうように空を見上げ
打ちつける雨に負けないように
ただ流れる雲を睨みつけた
――若き日の記憶
336
自らを甘やかしながら
けれどそれを許せずに
揺らぐ心の愚かさよ
自らを甘やかすのならば
そのギリギリを見極めて
揺らがずそのままあればよい
半端でなければよいのだと
静かに心を解放する夜
337
醜いほどの激情を
愚かなほどの情熱を
どうして私が笑えましょう
見えないようにひた隠し
ひっそり内に秘めている
滾る黒き我が熱と
どこが違うというのでしょう
何が違うというのでしょう
338
信じているよと微笑んで
けれど静かにその裏で
疑いさぐる愚かさよ
人は人である限り
疑わずにはいられない
けれどそれでも願うのです
ただひたすらに願うのです
ただ貴方だけを信じたい
ただ貴方だけを愛したい、と
339
揺らぐ心のその奥を
そっと静かに覗いたら
果たして何が見えるでしょう
黒く醜い固まりが
どろりと解けるさまでしょか
それとも小さな幼子の
泣いて乱れるさまでしょか
どちらにしてもその心
そっと静かに抱きしめて
優しく静かに癒しましょう
凪くるときまで癒しましょう
340
笑われることを恐れるな
正しいことなどありはしない
人の言葉を怖がるな
大きな声で笑えばいい
やりたいことをやればいい
焦らずゆっくりすすめばいい
焦らずゆっくり落ち着いて
前へ前へと進めばいい
ほら、顔をあげて
負けるな、負けるな
自分に、負けるな。