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21
魂の求める救いなど些細なものに過ぎないと傲慢な神は笑うかもしれない。それでも私は祈り続ける。幸せであるように、幸せがあるように。ささやかな救いを求める人達の心をただ静かに祈り続ける。語らぬ言葉の苦しさよ、語れぬ言葉の苦しさよ、どうか祈ることだけは許してください。
22
静かに静かに穏やかに穏やかにただそれだけを望む心を誰がせめられよう? ただただひたすらに平穏に静かに暮していたいのだと願う心を誰がとがめることなどできるのか。その緩やかにささやかな願いすら叶えられぬ哀れな娘のことなど果たしてどれほどの者達が気づいてやれるのだろうか。
23
とろりとした眠りの色は果たして何色なんだろう。けれど緋色の夢を見た日、私は激しい焦燥に襲われる。とろりとした緋色の眠りは、私に何をもたらすのか。わからない。わからないけれど――それは間違い無くなんらかの変化をもたらすのだと、心のどこかではっきりと理解していた。
24
ゆるゆると流れる時の中でうとうと流れる緩やかな怠惰の誘惑はしとしとと降り続ける雨に誘われて延々と眠りにいざなう。眠りよしばしの時をおくれ。今はまだ眠るわけにはゆかない。
25
さあ眠ろう。すべての物から開放されてすべての事から開放されて、穏やかに緩やかに揺蕩う幸せな眠りの中へ、さあ緩やかに落ちてゆこう。柔かに包みこむその褥の心地よさよ、どうか私に幸せな眠りをもたらしたまえ。ああ、眠りよ夢よ、その時だけは私に自由をあたえたまえ。
26
さらさらと風に流れる黒髪の、その揺れに目をとられぼうと見詰めるその視線の先、憧れのあの人はいつも穏やかに微笑んで私をみていた。遠い遠い昔の淡き想い出は、セーラー服の少女のかろやかにかけてゆくその後姿に、ゆれる黒髪に、不意に思い起こされて切なくも愛しい。
27
一人寝の寂しさに耐えかね目覚めた夜の一人の散歩 ふと見上げた空に浮かぶ細い月を眺めながら感じるまだ起きている人の気配 少しぬるむ夜の風を感じながら こんな夜も悪くないと一人呟く そんな七夕の夜明け前。
28
眠れぬ夜の寂しさよ 一人この身の寂しさよ ただただ月が寄り添いて 闇の夜長を照らすのみ 黙して語らず照らすのみ
29
遠き昔の想い出の その懐かしきぬくもりが 時に幽かな痛みとともに 思い出されるその夜の 想いは果たして切ないか 想いは果たして悲しみか 忘れることなきその日々は 苦く甘美な想い出と 心の底で揺蕩うて 私の心を震わせる 私の心を暖める
30
かちかちと時を刻む時計の音を聞きながら、そっと澄ます耳に聞こえるのは、夜の静寂の中に確かに人の生きている気配。静かな街に響くのは、確かに人が存在する、その証たる音。 決して一人ではないのだと、一人になることはないのだと、不意に胸を過ぎる安堵に、ほろ苦く笑みが浮かぶ。