2
11
目が覚めて見詰めあって微笑んで抱きしめて。言葉になんてしないけれどきっと伝わるこの思い。戯れてじゃれあって語り合って目覚める朝の優しさに、そっと幸せの吐息を漏らす。失えない存在と、心の底から思いながらも、どこかでいつか来る別れを恐れる自分にそっと自嘲を漏らした。
12
泣かないで泣かないで、抱きしめることしか私にはできないから。泣かないで泣かないで、一緒に泣くことしかできないから。――共に泣くことでもし貴方が笑ってくれるのならば、その涙を半分私にください。私は貴方の笑顔がみたいのです。笑っていてほしいのです。だから――泣かないで
13
涙がこぼれる。涙よ止まれ。流れろ涙。止まれ涙。涙、涙、ほろほろと零れ落ちる、その雫、その流れ。ああ。胸のうちの黒いものも醜いものもすべて流れ出してまっさらになってしまえばいいのに。そうすればきっと――きっと、私は何もかもから解放されるに違いないのに。
14
語り尽せぬこの思いをどうやって貴方に伝えよう。口から零れる言葉などほんの僅かしか伝わらぬ。綴り綴って伝えゆく、このとめどない文字の羅列のすべてが、ほんのささやかな願溢れていることなど、きっと貴方には伝わらない。それでも綴ることを止められぬ自らのなんと業の深いことか
15
眠りの狭間で揺蕩う幸せは何物にもかえがたく眠りから覚めるそのひと時を恐れながらもけれどゆっくりと戻ってくる現実の感覚にふわりふわりとそのぬくもりから離れてゆく。目覚めは時折幸せと不幸のどちらかを一気に加速させる不思議なものだと、不意に思った。
16
疲労した脳と体はそれでも私に綴ることをやめさせてくれない。語れ語れ語れ語れ綴れ綴れ綴れ綴れ、あふれる言葉を思いを文字を、外に吐き出せととめどなく溢れる熱が私を支配する。苦しいのか心地よいのかそれすらも解らぬままにただ引きずられるままに私は文字に支配される。
17
果てしない怠惰の果てに果てしない忘却が訪れるのならば私は喜んで怠惰のぬかるみに浸り続けよう。すべてから解き放たれ大空を飛ぶ鳥のように自由に書け巡ることができるのであれば、すべてを忘却することなど恐れるにたりぬ。果てしない怠惰を求める心よどうか今は静まりたまえ
18
唄を忘れたカナリヤは、どうして今を生きるのだろう。生きているからいきるだけ、それ以外は考えまい。唄を忘れたカナリヤは、それでも歌い続けよう。新たな唄を作り出し、新たな思いの続くまま。唄を忘れたカナリヤは、けれどそれでもひたすらに、歌い詠い唄うだろう。
19
一夜の戯れとあわただしく過ごした時を忘れることは可能だろうか。遠い昔の淡い思い出は消えることなく時折思い出す。切なさか愛しさか、ただの寂寥か。解らぬままの心をそっと掌に包んで夜を過ごす。一夜の戯れはあくまで独りよがりの思いにすぎぬというのに。
20
声にならぬ言葉の限りを文字を尽くして語れよか。救いを求めるその声は音にならずに空を舞う。響かぬ音はそのままに誰にも届かず消えてゆく。声を出せるは幸いと、それを知らぬ人々は、助けを求めよと告げ行くけれど、言葉に出せぬ苦しさを抱える人の苦しみを、真に知るのは本人ばかり