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お屋敷は、雰囲気としてはヨーロッパの荘園風、とでももうしましょうか。
かなりの広さの敷地に、大きなお屋敷が立ち、広い庭園を抱えております。
素敵な風景に、ほう、と、ため息を漏らしていると、ライさんが先導して客間らしき部屋へと案内してくださいました。
そこには。
白に見える色合いの中に灰褐色の混じった不思議な色の長い髪を持ち、深い色合いの瞳の、背の高い知的にすら見える若い男性が、きらきらとこちらを興味深々に目を輝かせて見詰めていました。
「レヴィアン様、落人であられる、ナナ様をおつれいたしました」
「ご苦労、ライ、ルゥ。ナナ殿、といわれたか。ようこそ、我が領地へ」
きらきらと輝く笑顔のその方は、英国紳士のようなたたずまいでありながら、まるで無邪気な子供のように、両手を広げて、ウェルカム!とでもいいそうな表情でこちらを見ておられます。
その無邪気な愛らしさに、ふわりと笑みがこぼれて、私はゆっくりとお辞儀をいたしました。
「お初にお目に掛かります。私、日本国より参りました、白水なな、ともうします。どうぞ、ななとお呼びくださいませ」
「ああ、そんな風に堅苦しくなさらずに! どうぞこちらへ。色々とお話を聞かせてください」
招かれて、首を傾げます。さらりと、黒髪が滑り落ちるので指先でそれを耳にかけ直し、よいのかしら? と、後ろに立つライさんとルゥをみやります。
ルゥはなにやら複雑そうな表情で。ライさんはどこか苦笑を浮かべておりましたが、ライさんの方がひとつ頷いてくださったので、そっとその方の側へと歩み寄ります。
テーブルの側に立って待っておられたその方は、158程度の身長の私からして、見上げるほどの長身で、体格は幾分、ライさんたちよりは細身ではあるものの、鍛えておられる様子。はたしてこの方は、どんな犬種なのかしら、と、ぶしつけなほどじっくりと眺めておりますと、視線の先でかの人は、どこか照れたように身悶えされております。
「……あら、大丈夫ですか?」
声をかけますと、我に返られたように、再び席を薦めてくださいましたので、とりあえず、そこに腰を下ろし、やっと落ち着くことができたのでした。
ゆっくりと入ってきたメイドさんが用意してくれたお茶を目の前に、そう、レヴィアンさんは口を開きました。
そういえば、あのメイドさん。くりっとした目に、少し怯えたように震える様子――もしかすると、チワワさんでしょうか。
だとしたら、なんと愛らしい――私よりも小さな体に、どちらかというと古典的な丈の長いメイド服を見につけて、とても目の保養でした。
「しかし、日本国、といわれましたね。他の落人の方と同じ所からこられたようだ」
「まぁ――他の4人とも、ですか?」
驚いて聞き返せば、頷くレヴィアンさん。それから、嬉しそうに微笑んで、私をじっと見詰めてこられます。
「他の方の所に落人がこられたと聞いた時から、ずっと、自分の所に何故きてくれないのか、と、思っていたものです。――ですから、こうしてナナ殿がきてくださって、何よりもとても嬉しいのですよ」
満面の笑みでそういわれるのですが――はて、なぜ、落人にそんなに興味をお持ちなのでしょう?
不思議に思って首を傾げると――ああ、視界の隅でまた、ルゥがつられて首を傾げてます、可愛らしいこと――レヴィアンさんは輝く笑顔で、微笑んだのです。
「だって、皆さん、耳も尻尾もないのでしょう? いや、耳はおありだが。変体することもない。それに、小さくて華奢で壊れそうだと――バリアス様やラヴィッシュ様から伺って、一度目にしたときから、なんと落人というのは愛らしいのかと、是非我が側にもいてほしいと、ずっと願っていたのですよ。一度ラヴィッシュ様にもお願いしたのですが、ものすごい目でにらまれてしまいました。ですが――ナナ殿がきてくださって、とても嬉しいです。ナナ殿はとても愛らしい。ありがとうございます」
「え、ええっと、ありがとう、ございま、す?」
疑問系になってしまいますけれど――褒めていただいた、の、ですよね?
そう応えれば、嬉しそうに、レヴィアンさんは、キラキラと輝く笑顔で笑ったのでした。