悪役令嬢に転生したけどみんな幸せにしちゃ駄目ですか?
公爵令嬢カシャドーナ・ディレクトは完璧な令嬢と評判だった。美しく、賢く、正しい。人々は彼女を素晴らしいと褒め称え、憧れていると語る。
だが誰も知らなかったが、彼女は本当はこの世界の人間ではなかった。肉体はこの世界のものだが、魂は別の世界のものだったのである。
彼女は異世界転生者だった。
「はー、今日も上手くいったわ」
ディレクト家のカシャドーナの私室。そこでカシャドーナは息をつく。
「まさか私がこの乙女ゲームの世界に転生するなんてね…」
カシャドーナは元の世界での記憶を保持したまま、この世界に魂のみやって来た。
彼女からすれば、この世界は前世実況で見た乙女ゲームの世界にそっくりだった。
いきなり別の世界に来た、と思うより知っている世界に来たと思う方がカシャドーナにとっては気が楽で、カシャドーナはそう思うことにしたのだ。実際、カシャドーナがこれまで出会った人々はすべてゲームと同じだった。
カシャドーナの容姿も、ゲームとそっくり。
ゲームでのカシャドーナはいわゆる世間で言う悪役令嬢というポジションだとカシャドーナは理解していた。ヒロインに嫉妬し、いじめ、最後はヒロインと攻略対象に断罪される可哀想な悪役。
だけどヒロイン達も悪いと思う。カシャドーナはいわゆる悪役令嬢小説、というものが好きだった。乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生して、ヒロインに勝利するという、まさに今のカシャドーナと同じ状況のストーリー。自分が同じ状況になって、興奮しなかった、喜ばなかったといえば嘘になる。この世界に似たゲームのストーリーはしっかり覚えてるわけではないけど、悪役令嬢小説を読んでいることは上手くやれるかも、という自信にもなった。
「ここまで上手くいったわ、王太子との関係も良好、他の攻略対象たちとも上手くやってる。あとはヒロインね。」
カシャドーナはヒロインとも仲良くやるつもりだった。みんな幸せがいいもの。ヒロインだけ不幸になんてしないわ、カシャドーナはそう思っていた。
だが、その願いは叶わなかった。
カシャドーナはゲームのストーリー通り、魔法学園に入学した。そこでヒロインを見つけた。
始めは順調だった。ヒロインも自分を慕ってくれているように見えた。
それで、一緒に過ごす事が増えた。攻略対象たちともヒロインは仲良くしていた。それがいけなかった。
乙女ゲームのヒロイン、アーユルリング・コーティ!あの女狐!
いつの間にか攻略対象たちの支持を私から全て奪った!
いつの間にかカシャドーナの影は薄くなり、攻略対象たちとアーユルリングのグループに入れて貰っている状態だ。なぜこうなった?
確かにゲーム通り進めたはずだ。やはり婚約までいけなかったのが駄目だったのか。
だって婚約しているのに他の男たちを傍に置くのは、聞こえが悪いと思ったから!
もしかしたら、ゲームでは誰も婚約していなかったから、これが強制力という物なんだろうか。
だとしたら私はー…始めから幸せになんてなれなかったのだ。
「カシャドーナ様、どうかなさいましたか?」
「なんでもないわ、アーユルリング」
今私は、アーユルリングに髪をいじられている。放課後、二人きりの教室。私はずっと緊張していた。
「アーユルリングはすごいわよね、殿方たちから好かれてて、グループのみんなも、アーユルリングが好きだわ」
「そうでしょうか、でも私が受け入れられたのはカシャドーナ様が口添えしてくださったからです」
そうだ。私が紹介した。今はそれを後悔している。
「できましたよ、カシャドーナ様」
アーユルリングが鏡を見せてくる。
「ええー…」
だけど、そこに映っていたのは、カシャドーナの美しい顔ではなかった。
前世の私の姿だった。
「え…?」
「やっぱりカシャドーナ様、この世界の人じゃないんですね、いえ、本当はカシャドーナでもないんですっけ。本名はなんですか?」
「な、なんの話ー…」
「これは真実の鏡と言うマジックアイテムです。私の家の家宝なんですよ」
アーユルリングは天使のように笑う。
「異世界の方、本物のカシャドーナにその体を返してくださりますか?」
その瞬間、視界が反転した。
気付いたら私は、アーユルリングの手の中にいて、彼女が隠し持っていた宝珠に閉じ込められたのだ。そして、目の前で私がー…、カシャドーナがアーユルリングに抱きついた。
「アーユルリング、ありがとう…!私の体に戻れたわ!」
◇◇◇◇◇◇
カシャドーナに出会ったのは10歳の時だ。私は昔から幽霊とか、人の魂が見えた。カシャドーナは私が王都に遊びに来たときに見つけたのだ。
上等なドレスや、手の込んだ髪型から、貴族のお嬢さんだってことは分かった。私の家も貴族だけど、私の家より少し上の。カシャドーナは言った。自分は体を乗っ取られたんだと。私は彼女の言葉を詳しく聞き、彼女の体を取り戻す手伝いをすることにした。
カシャドーナは、体を乗っ取られてからしばらくは肉体の中に意識だけがある状態だったが、ある日放り出されたらしい。その時に乗っ取った相手の思考をいくらか読み取れたから、犯人が異世界の人間であることが分かったらしい。
私はその記憶によると、なんでも、将来的に複数の男を手玉にとるらしい。
まあそれは今もだからあまり変わらないと思う。
問題は相手がその男たちの情報を正確に持っているということ、私が好かれるのは相手の感情を読むのに長けていて、適切な言葉を選べる能力が高いからだが、それでも情報がないと難しい。
というわけで、私はまず情報集めをした。それから、自分の情報が向こうに渡らないようにした。
そうすれば、実際の私が彼女の想定を越えていても向こうはすぐには対応できない。
異世界人の記憶の中の私は優しくて虫も殺せないような人だったらしい。本来は私はそうだし、その物語の中の私は確かに私なんだろう。
でもその物語の中の私は、私が、身内に手を出されるのを許せない性格であることは描かれていない。
私にとってカシャドーナは友達だった。学園に入学したとき、こっそり真実の鏡でカシャドーナを映した。そこに映っていたのはまったく知らない、外国の人だった。私の傍にいる、カシャドーナの言葉が本当だと理解した。
手の中の宝珠が震えている。異世界人が中で暴れているのだろう。
だけど私はそれに構わず、カシャドーナを抱き締め返した。
男たち全員を落としたのはこのためだ。異世界人に絶望を与え、精神的に揺さぶりを掛けることで魔法への抵抗力を下げる。
私は、カシャドーナがカシャドーナとして生きられる事が本当に嬉しかった。
カシャドーナという名前を思いついたので使いたいなーと思って書きました。連載エタってるのは本当にすみません。
ちなみに転生者が悪役令嬢だと思ってるのは勘違いで、カシャドーナはライバルキャラです。また、転生者が見た実況動画は違法アップロードです。




