1章ハンター試験⑥新たな力
まるで獣のような勢いでサイモンはルイに襲い掛かる。
「ミア!二人を安全な場所に!」
ルイは振り下ろされた斧を刀で受け止めた。(重い……)。昨日対峙した暴爪熊の一撃並み。いやそれ以上に重い攻撃。ルイは後ろに回避し、衝撃を逃がした。
「リリーだよね。エマをここで守ってあげて。」
項垂れているエマをそっと支えるリリー。ミアは飛ぶようにして、ルイの横で刀を構えた。
サイモンは斧を振り回し、ルイとミアに攻撃を繰り出す。二人はただ力任せの攻撃を素早い身のこなしで避けている。
「いいね!いいね!やっぱりお前たちはいい。余計に連れて行きたくなった!」
サイモンは大きな口をグイッと上げて楽しんでいた。それを見ていたリリーは表情が消えているエマを眺め、
「エマ。ごめんね。僕も戦いに参加してくる。ここで待っててね。」
リリーはそういうと、刀を持ちサイモンに切りかかった。振りかぶった渾身の一撃。
「おぉ!お前体格の割に随分重たい攻撃するじゃないか。勝負しようぜ!」
金属がこすれ合う嫌な音。そして徐々にリリーの刀が押し込まれる。その時、サイモンは力を緩め、リリーの体勢が崩れる。
「押すことだけじゃなく、引くことも覚えないとな!」
リリーの腹部に拳がめり込み、身体が大きく、くの字に折れ曲がり軽い身体が宙を舞う。
すぐさまルイは駆けだし、サイモンに向かって下から切り上げ。しかし、サイモンが片手で斧を振り下ろす。パキン。ルイの刀が折れた。
「重量のある武器を相手にその攻撃はいかんだろ。」
ルイの顔に裏拳がめり込む。ルイは吹き飛ばされ、地面を転がった。頭がくらくらし、力が入らない。ぼやける視界に移るのはミアが必死に戦っている姿。でも明らかに押されている。ミアが足蹴りを躱そうとし、身体を宙に浮かせたとき。サイモンはすでに斧を横に構えていた。
(まずい!やれられる!)
そう思ったとき、サイモンは斧を振るわず、ミアを蹴り飛ばす。ミアは吹き飛び、木に身体を打ち付けられた。
「なんだ。次はお前か?」
サイモンの視界の隅。エマが刀で彼の斧を抑え込んでいた。しかし、サイモンが軽く斧に力を込めると、エマが大きくのけ反る。
「エマ!無理だ!逃げて!」
ルイは必死に声を上げた。心配しているつもりで声をかけたが、その言葉を聞いたエマは奥歯をぎりりと噛みしめた。
エマは必死に刀を振るった。サイモンは受けることもなくひょいっと交す。そして斧を軽く振り下ろすと、それを受けたエマは大きく後ろに後退した。
「いや~。全員連れていくつもりだったんだけど。お前はだめかな~。弱すぎるわ。つまらん。」
「待って。アタシが相手をする。だからその子は逃がしてあげて……。」
ミアはフラフラと腹部を押さえて立ちあがるも、地面に倒れこんだ。そして動かなくなった。
「いい根性だ。その闘志に免じて……こいつは痛くないようにスパッと首を落としてやるよ!」
エマは下から迫ってくる斧に対して攻撃をした。しかし、パキンっと無残にも刀が折れる。まるで彼女の心が折れるかのように。
サイモンが斧を大きく振りかぶる。
(まずいまずいまずい!この前のあれ!あれがなんで発動しないんだ!)
ルイは必死に暴爪熊を倒したとき、あの能力が発動することを願ったが発動しない。
「じゃあな。嬢ちゃん」
サイモンがエマに命を刈る一撃を繰り出そうとしたとき、周囲に熱風が吹き荒れる。土埃が舞い、目をふさぐような眩い光。それがある一点に集中する。
その風、光が空へ駆けだした。それを追って、上を見上げたルイは大きく目を見開いた。
大きな猫型の獣だ。黄金色の光がそれを形づくっている。木々より大きく身の毛のよだつような大きな牙と鋭い爪の獣がいる。そして襲いかかるように降下。ぱぁんっと光が霧散した。
「ミア?」
そこには橙色の輝きをまとったミアがいた。
ミアがサイモンの攻撃で気を失う間際、
(だめ。絶対に……。エマを助けないと……。)
そう思いながらプツンと意識が途切れた。
次の瞬間、真っ暗な空間にいた。周囲をふと見渡すが、何もない。突如、後ろから光を感じ、振り返ると、黄色の輝きを纏う尾が二股に分かれた大きな猫のような獣がいた。ミアは一瞬構えるが、それに敵意を感じない。
「我の問いに答えるがよい。」
と腹に響くような女性の声。ミアはじっと見つめ、コクンと頷く。
「お主はなぜ人間なんかと手を取りたいのだ。人間などただの害悪ではないか。差別され、いじめられ、石を投げられる。無意味だとは思わないのか。」
「えっと……。あなたは……。」
「御託はいい。時間が限られている。我の問いに答えよ。」
「……正直少し前だったらそう聞かれるとぐらついてたかも。でも……今は違う。アタシを助けてくれた人と約束したんだ。だからアタシはいつの日か獣人と人間が手を取り合えるって信じてる。それにアタシがこうしたい。そう思ったアタシを一番信じてる。」
ミアの目の前にいる獣は鼓膜が破れそうなほどの声量で大きく笑った。
「そうか。久しぶりに退屈せずにすみそうだ。お主に力を渡そう。これをどう使うかはお主次第。」
その時、その獣の胸のあたりから鎖が飛び出し、それがミアの胸に吸い込まれた。二人は鎖で繋がれた。その出来事に一瞬驚いたがミアはゆっくりと目を瞑った。心が……暖かい。はっと我に返ったような顔つきで、
「あの!あなた名前は?」
「我は朱梅。お主に生き様。楽しみにしておるぞ。あっちに戻ったらこう唱えよ。」
気を失っていたミアの目がパッと開く。手に持った刀をぎゅっと力強く握る。
「舞い踊れ。朱梅」
とミアが唱えた瞬間、刀が光り輝き、その光がミアを包み込む。力強く、気高い輝き。
光が霧散し、全員の視線はミアに釘付けとなる。ルイはミアの刀が気になった。ミアの両手に金色の刃の短刀が握られている。普通の刀とは違う双剣。刃が獣の爪のように相手の肉を引き裂くようなギザギザとした形状をしている。
「そうなったってことは俺も真剣に戦わないとな。」
サイモンは体勢を低くし、初めて構えをとった。そして地面を強く蹴り、ミアに攻撃を繰り出す。その瞬間、ミアの姿が消えた。ミアは全員を抱え、木のそばにそっと置く。
「ミア……。その姿は……」
「大丈夫。ルイは二人を見ててあげて。」
ルイはミアの戦いに目を奪われた。まるで踊っているかのように軽やかだ。サイモンが必死に斧を振り回すも、まるで当たる気配がない。サイモンが力任せに斧を振り下ろす。鈍い金属音が響き渡る。ミアが一つの刃でそれを受けた。必死の形相でサイモンは斧を押しこむが動かない。ミアが拳で突きを繰り出すとサイモンの腹部にめり込み、彼は初めて顔を歪ませる。
「くそが!」
余裕のなくなったサイモンがミアに飛び掛かるが、彼女は一撃を加える。サイモンは呻くがさらに一撃。また一撃。速度が徐々に早くなる。目にも止まらぬ連撃にとうとうサイモンは叫び、地面に倒れこみ動かなくなった。
それを見下ろすミア。大きく肩で息をしている。彼女が纏う輝きが薄くなり消え、握っていた双剣は刀の形に戻った。しかしミアの握る刀の鍔は三本の爪のような形状に変化している。
ふらっとミアが後ろに倒れそうになった時、ルイは「ミア!」と叫んで駆け出し、彼女を抱えた。額にびっしょりと汗をかき、必死に酸素を取り込んでいる。
「ルイ……。アタシ……。頑張った!」
ピースサインをしたミアが満面の笑みを浮かべた。ルイは安堵し、ミアを休ませた後、これ以上暴れないようサイモンを紐できつく縛り上げた。




