1章ハンター試験⑤隠しきれない動揺
二次試験に挑む志願者の間でコソコソと声が聞こえる。微かに耳に入ってくるのは獣人という言葉。ルイは視線を走らせ、横にいるミアを見つめる。そんな心配そうなルイを尻目に、
「アタシは大丈夫だから。なんでルイの方が不安がってんの。」
昨日までとは違い、張りの笑顔と芯のある声色。ルイは鼻から息を抜く。
試験官から再度、二次試験の説明がされ、各々準備する時間となった。森の指定の位置に散り散りに待機し、準備ができ次第、試験が始まる。
「ルイ。ちょっと。」と後ろからハンナが声をかけてきた。ルイは彼女を見上げる。
「はい!ハンナさん。どうされました?」
「……どうやら上手くやってくれたみたいだな。」
ルイは屈伸したり、身体を動かくミアを見た後、再び目をハンナに。
「ハンナさんはミアが獣人だって知ってたんですか?」
「……知っていた。私は卑怯者だ。君ならなんとかしてくれる。そう思って……。」
苦虫を嚙みつぶしたような表情が浮かび上がった。
「僕はなにもしてないです。ミアが自分で決意したから、今のミアがいます。僕はただそばにいてあげるだけです。」
「そうか。引き留めて悪かった。二次試験頑張りなさい。」
ルイは背筋を伸ばし、はい!と力強く返事をした。そして楽しそうに会話するルイとミアにハンナは柔らかい眼差しを注いだ。
各志願者たちが指定の位置についた。ルイとミアは森のかなり深いところ。災獣を警戒しつつ、位置についた。
「そろそろ始まるね。ミア。無理だけはしないで。」
「ははっ。それルイが言うこと?」とミアは口元に微笑を見せる。
待機所で試験官が森へ向けて、佇む。大きく息を吸い、身体を逸らす。
「それでは第百二十五期ハンター試験の二次試験を行う。……始め!」
ルイとミアは昨日話したように慎重に他の組と遭遇しないように立ちまわった。
「やっぱり二次試験ともなるとみんなかなり実力があるね。」
「うん。みんな刀がよく振れてる。」
ルイとミアは茂みに隠れ、他の志願者たちの戦いを眺めていた。その時、ルイの左の視界に何かが頻繁に映る。何だろうと思い、それを手でキュッと掴む。
「ひゃんっ!」
ミアが聞いたことのない甲高い声を上げる。戦っていた志願者たちの視線がルイたちが隠れている茂みに集まる。
「ちょっとルイ!尻尾をいきなり掴んじゃだめでしょ!」
ミアが顔を赤らめた。息の混じる声だが、抑えきれない恥ずかしさが滲んでいた。
「ごめん!あの。ごめん!」
ルイは手をあたふたさせ、しどろもどろに。
「もぉ。びっくりして変な声出ちゃったじゃん。……あれ?さっきまで戦ってた人たちいなくなっちゃった。」
「この試験は漁夫の利されるとかなりしんどいからね。僕たちも気を付けよう。」
その後もしばらく慎重に動き、数時間が立った。
「僕たちもそろそろ戦おうか。」
「そうだね。色々作戦も練れたし。次に遭遇した組みと戦おう。」
ルイとミアは木陰に隠れていると、足音が聞こえる。そして、足音が近くに来た時、ルイとミアは刀を抜き、バッと飛び出した。
「エマ!」
ルイの前にはエマ、そして小柄でピンク色の髪の毛の女の子がいた。エマは口元を手で覆い、困惑した表情を見せる。
「ルイ……。」
「まさかエマと戦うなんてね。約束した通り真剣勝負だよ。」
「ねぇ。ねぇ。ルイ。この子ってルイの友達?」
ミアはルイの耳元で小声で話した。
「そうそう。幼馴染ってやつかな。」
「そうなんだ。じゃあ絶対負けるわけにはいかないね。」
エマは距離が近い二人を見て、顔に怒りが沸く。
「あのー。随分仲良さそうじゃない。お二人さん。」
「エマ?なんか怒ってる?」
「へぇ。ルイには私が怒っているように見えるのね。」
エマは刀を抜かず、腕を組み、笑みを浮かべた。
「あの。改めまして。ミアです。よろしくお願いします。」
ミアはペコッと頭を下げた。
「えぇ。よく知ってるわ。朝あんな大胆なこと言ったんだもの。すごいわねぇ。」
「あの……。エマ……。」
「ルイは黙ってなさい!いいわ。仕方ない。私があなたと戦う。本気で行くから覚悟しなさい。」
ミアは腰に構えている刀を勢いよく抜いた。それと同時にエマの横にいた娘が飛び上がり、ルイに向かって刀を振り落とす。それが戦いの合図となった。
「君!僕は君を許しませんよ!エマにあんな顔させるなんて!絶対許しませんから!」
「リリー!ルイは返しが上手だから、攻撃の後気を付けて!」
ルイとミアが少し離れた後、エマはすかさずミアに向かって刀を振り上げた。
ルイはリリーが刀を振り下ろした後を見た。地面が大きくえぐれている。そして彼女とルイの刀が交錯し、火花が散る。
(このリリーって子。小柄なのに凄い力だ。気を抜くと、刀が持ってかれる。)
ルイが彼女の刀を弾き、一度距離を取る。リリーは相変わらずむすっとしている。
「ねぇ!なんで君はエマと組んでないの!」
切っ先をルイに向け、腰に手を当てる。
「え?だってそれは自分で選んだわけじゃないし……。」
「うるさい。うるさーい!だっておかしいでしょ!あんなに可愛い彼女がいるのに!」
「彼女?君は本当に何を言ってるんだ。エマとはただの幼馴染だって。」
「あー。あー!もう!もう!」とリリーは地団太を踏んだ。
「リリー!集中して。それはいいから!お願いだから。」
エマはギュッと刀を強く握り、ミアと戦闘を繰り広げる。
ルイはふぅっと息を吐く。知らない間にペースが乱れていた。今は相手の刀を奪うことだけに集中。リリーの攻撃は重い。でも技自体は大味だ。ルイは彼女の隙を見て、攻撃を仕掛けた。徐々にペースはルイに傾く。そしてルイはリリーに完勝した。
「終わりだね。これ以上は抵抗しないで。」
ルイが切っ先をリリーに向ける。彼女は地面にペタンと座り、砂を握りこんだ。
ミアとエマは未だに戦いを続けていた。ルイは二人を見ているが、エマにいつもの繊細な剣裁きがない。力任せに刀を振っているような。
エマが乱暴に振り落とした刀に合わせて、ミアは下から刀を振り上げる。そしてエマの刀が宙を舞い、地面に突き刺さった。
森に静寂が訪れる。刃先をエマに向けるミアの姿が地面に刺さった刃に映る。エマはぎりっと奥歯を噛みしめた。
「なんでよ。なんで……。あんたなんか……。」
エマはその場に座り込んだ。それをじっと見つめるミアは地面に刺さっているエマの刀を抜き、突如エマに向かって振り下ろした。
「待って!ミア!」
ルイが声を上げる。ミアはエマの目の前に彼女の刀を突き刺した。
「ルイ。行こう。もう一本他の組から刀を取ろう。」
「なに!?情けのつもり。やめてよ。惨めになるだけじゃない。」
「あなたは何のためにハンターになりたいの?」
エマは答えられなかった。そして顔を俯かせ、動かなくなってしまった。沈黙が漂っている中、森の奥からパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
「いやぁ。いいね。いいね!若いな~!おじさん感動しちゃったよ!」
ルイが目を向けると、大きな斧を持った隻眼の男がこちらに向かって歩いてきた。背丈が高く、筋骨隆々でかなり大柄な男性だ。
「あの……。試験官の方ですか?」とルイは戸惑いの声色を浮かべる。
「いーや。違うよ。おれはサイモンってんだ。よろしくな。」
(試験官じゃないならこの人はなんでこんなところにいるんだ。)
と心の中で唱え、腰元の刀にそっと触れた。
「そうだ。お前たちにプレゼントやるよ。ほら。受け取んな。」
目の前に沢山の数の刀の束が置かれた。ミアは飛ぶようにルイに駆け寄る。
「ルイ……。この人から血の匂いがする。」
ルイは鋭い視線を向け、刀を構えた。
「まぁ。そうなるよな。おとなしくしてれば痛くしないけどよ。お前たちを連れていくだけよ。」
「連れていくって。どこに。」
「それは知らなくていい。」
サイモンはルイたちに向かって斧を振りかぶり、飛び掛かってきた。




