1章ハンター試験④君の力に
ルイは看病をするために、ミアを楓の街にある自宅に連れてきた。ミアの手の平にはたくさんの豆や傷。幾日も刀を振っていることがわかる。
「ミアは強いね。」
「そうかな……。」
ルイは「そうだよ。」と言って彼女の手に包帯を巻いてあげた。治療が終わりかけの時、ドアをノックする音が。誰だろう。と思った矢先、警戒を強める。ルイの脳裏に街の人の様子が頭をよぎる。
「おーい。ルイや。カルマじゃよ。そこにいる子について少し話をしようかの。」
ルイは戸惑った。しかし、ミアと目くばせし、彼女がコクンと頷いたのでカルマを家にいれた。
「警戒しなくてもよい。ほれ。わしは何も持っていないぞ。」
カルマはひょいっと両手を上げた。
「あの!初めまして!ミアと言います!よろしくお願いします!」
「うむ。儂はカルマじゃ。よろしく。礼儀正しい子じゃ。ルイや。ちょっとその子の横に座りなさい。」
ルイはミアの横に座り、目の前の椅子にカルマが座る。
「さて。まずは二人とも一次試験合格おめでとう。」
「ありがとう……。ねぇ。カルマ。ミアのことなんだけど……。」
「この街の子供たちには話してないからの。獣人という人について。ミアはこの蓮の國と獣人の関係について知っているか?」
コクン。と頷く。カルマはなんとも悲しげな表情を浮かべた。
「この話を聞くのは酷ではないか?」
髭を撫で、言うべきかを秤にかけている。
「大丈夫です。」
「それじゃあ、話すとしようかの。」
蓮の國の救世主。それはハンターの始まりである者。しかし彼一人で國を救えたわけではない。彼と共に戦い國を救ったのは紛れもない獣人たちである。彼と獣人たちは國の災獣をすべて滅した。彼らが生きている何十年か平穏が保たれた。
しかし事件が起こる。獣人による人間の虐殺事件だ。それが引き金となり人間は獣人たちを迫害するようになった。その後、獣人たちは国を出て、各地へと散っていった。そして、この差別意識は人間たちに深く刻み込まれた。
「ミアの認識も大体同じだろうか?」
「獣人が事件を起こしたのは知っていました。でも最初に國の災獣を倒したのは知らなかったです。」
ミアは少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。獣人が悪だ。という歴史の中に一つ希望を見いだせたのだ。
「実はな。儂にも若い時、獣人の友がいた。名をオーガという。彼とは刀を交え、共に研鑽したものだ。彼らも人間による迫害でこの地を去ってしまったがの。」
カルマの瞳の奥に悲しみが滲む。
「もし会えるならもう一度酒でも飲みたいものだ。」
カルマは昔の友を思う優しい目で天井をただ見つめていた。
「カルマが戦えば……。その人たちの迫害を止められたんじゃないの?戦えば差別もなくなったんじゃないの?」
ルイは拳をぎゅっと握りしめ、唇を噛みしめる。
「力で抑圧してもそれは悲惨な歴史を繰り返すだけ。根本的な解決にはならんのだ。……この村にも獣人をよく思っていない連中がいるかもしれない。その時、ルイならどうする?」
「その時は……僕が頑張るよ。」
ルイは力強くカルマを見つめる。
「違う。そうではない。」
カルマはゆっくり、大きく首を振った。
「一人ですべてやろうと思うな。一人で抱え込めることなどたかがしれている。たまたま上手くいくかもしれない。でも間に合わなかったらそれで終わってしまう。……二人で始めればよいのだ。儂もいるから三人じゃがな。」
カルマは柔らかな表情で腰をかがめ、ルイとミアと目線を合わせた。
「さぁ。そろそろいい時間だ。明日に備えてゆっくりと休みなさい。」
そういうとカルマはルイの家を後にした。短い沈黙の後、ミアが口を開く。
「ルイ。手当てしてくれてありがとう。明日の試験頑張ろうね」
ミアは迷夢が覚めない表情をし、ルイの家を出た。ルイは寝る直前まで、自分がどのようにしたらミアを助けられるかを考え続けていた。
太陽は昇り、世界は穏やかな朝の光に包まれていく頃。ルイ、レオ、エマは訓練所に向かっている。レオとエマはいつものようにたわいもない会話をしているが、ルイは昨日のミアの顔が忘れられずにいた。カルマの「一人ですべてをやろうと思うな。」という言葉が心に纏わりつく。固い表情で歩き進めると、
「ルイ!」
と声がしたので後ろを振り向く。ルイは目をぎょっとさせ、あたふたと慌てた。
目の前から赤い髪を揺らし、ミアがこちらに走ってくる。頭の上の耳も軽快に揺れる。
ミアはルイの前に止まると、膝に手を当て息を切らした。息を大きく吸い、フゥーッっと吐くと、長い間の迷いを降りきるかのように、大きく一歩前にでた。
「ルイ!お願いがあります!」
周り人が皆振り向く様な力強い声。ミアの瞳がきらきらと黄金色に輝いている。
「アタシは獣人です。アタシと一緒にいたらルイに嫌な思いをさせてしまうかもしれない。それでも……。」
ミアは真っ直ぐに力強く手をルイに伸ばした。
「アタシのやること、やりたいこと、そして夢を隣でみていてほしい!」
いままで自分一人で抱え込み、自分だけが世界を変えられると思っていた。ミアはずっと探していたのかもしれない。もうダメでくじけ、倒れたら起き上がれないとき、そばにいてくれる誰かを。
「わかった。僕も君の力になるよ。」
ルイはミアの決意を自らの手に宿した。
空は高く澄み渡り、彼女らの心を新たな旅立ちへと駆り立てる。一陣の風が髪を撫で、未来への一歩を後押しした。




