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1章ハンター試験③差し伸べる手

 一次試験を突破したのはルイたちを含め五十名程度。そして二次試験の説明が始まった。


 二次試験は生存能力そして対人能力を図る試験。二人一組で試験を行い指定の窓口で刀を四本見せたら合格。つまり、相手を倒して刀を奪うということ。ハンターは時として賊を相手にしなくてはならない。対人能力もハンターに欠かせない能力だ。


 試験官の説明が終わると、組み合わせが発表された。続々と発表される中、ルイは真剣な表情で聞いている。それを横目で見ていたレオは、


「なぁ。ルイ。もし俺と鉢合わせたらどうする?」


 ルイは腕を組み、目を瞑ってじっくり考える。そして、


「思いっきり勝ちに行くかな。」


と真っすぐにレオの目を見てそう答えた。レオは嬉しそうに口角を大きく上げた。


「だよな。ここは恨みっこなしだぜ。エマも手を抜くなよ。俺は容赦しないぞ。」

「当たり前でしょ。昔みたいに泣かしてやるわよ。」


 結果的にレオとエマは違う組に。そしてついにルイの名が呼ばれた。


「ルイ。そしてミア。こちらに。」


 試験官の前にルイとミアが並ぶ。全ての組が発表され、明日の朝に再び訓練所の広場に集まり二次試験が行われる。日が少しずつ落ち、ルイたちの影が徐々に色濃く伸びていく。


 ルイはレオとエマと帰ろうとした時、ハンナに呼び止められた。二人には先に帰るように伝え、ハンナの下へ。ハンナの横に白いフードの子、ミアがいた。


「ルイ。よくあれを倒せたな。あれは並みのハンターでは倒せないぞ。」

「ありがとうございます。でも僕一人では無理でした。ここにいるミアのおかげです。」


 ミアは恥ずかしそうにフードを深く被り直す。ハンナは表情を崩し、静かに鼻から息を抜いた。


「そうか。それでもすごいぞ。志願者二人で稀の災獣を倒したことはない。誇っていい。明日は連携も大事になる試験だ。君たちは一度共に戦っているから問題はないだろう。」


 ルイは喜びを噛みしめるように口元に力を入れた。


「それじゃあ。行っていいぞ。」

「わかりました。ミアは帰りどっち?」

「えっと。この先の大通りを抜けて少し西にいったところ……。」

「そっか。じゃあ途中まで一緒に行こう。」


 二人はハンナに一礼し、広場を後にした。




 ルイとミアは燃えるような真っ赤な夕暮れの下を二人で歩いた。相変わらずミアはフードを深く被ったまま。

「ミア。明日どういう作戦でいこうか。」

「……最初はひとまず様子見で、少し時間をおいて動き出すのが吉だと思う。」

「そうだね。最初に動くのはリスク高いもんね。」


そんな会話をしてると街の大通りにでた。街には人が溢れている。ミアは頻りに周囲を見渡すように視線を走らせる。


「あの……。申し訳ないんだけど、端っこ歩いてもいいかな。少し人混みが苦手で。」

「全然構わないよ!ごめんね。気づかなくて。」


 ルイはミアはフードを被っている理由を聞かなかった。恥ずかしがりにしてはちゃんと会話もできるし、なにか事情があるのだろう。


「ミアはどうしてハンターになろうと思ったの?」

「アタシは……。」


 とミアが何かをいいかけた時、後ろからドンと子供がぶつかり、ミアのフードをを掴んだ。そしてミアのフードが外れる。


 そこには赤紅色のショートヘアの女の子がいた。ルイの視線はピョコッと頭に耳が生えている獣のような耳に。それもどことなくよく似合っている。


「ミア!なんだか初めましてみたいな感覚だ!ミア……?」


ルイは顔を覗き込む。ミアは驚いた表情をした後、顔を俯き金眼を激しく揺らす。


「獣じゃ!!なんでこんなとこにいるんじゃ!」


街の年老いた男が声をあげた。街の人々の視線がミアに突き刺さる。


ミアの顔がみるみる青くなり身体が小刻みに震えだした。


「え?なに?なんでみんなそんな目をしてるの。」


ルイは混乱した。街中の人々が彼女に鋭い目つきを突き刺す。昔カルマから聞いたことがあった。獣人という人がこの世界にはいるらしい。すぐにわかった。恐らくミアは獣人だ。耳の位置が違う。ただそれだけなのに。


「気持ち悪い。」「なんで獣がこの國に。」「ハンターを呼んできた方がいいんじゃない?」


と冷たく心ない声が浴びせられる。


 ルイがミアの方を向くと目があった。しかしすぐに目をそらされた。


「ミア。ひとまずいこう。」


 ミアの手を引き、歩き出そうとした時ルイの足元に石が転がった。ルイは眉をひそめ、ミアを見つめる。


「ごめんね。ルイ。アタシのせいで。」


 ミアは必死に笑顔を取り繕ってみせた。一人が石を投げると続いて他の人も石やゴミを投げてきた。


 投げつけられた硬く鋭い石がミアの手を当たり、そこから血が滲む。

 

 心ない声。尖った視線や罵声が浴びせられる。ルイは体の底から赤黒い感情が沸々と湧き出てきた。


「ふざけるな!」


ルイは声を荒げ、怒号が街に響く。気圧されたように罵声がピタっと鳴りやむ。


「この子があなたたちになにをしたって言うんだ!無抵抗の女の子に向かって冷たい視線や心ない言葉を浴びせ、しまいには物を投げつける!そんなことをしてるやつの方が獣だ!」


 ルイはここまでの人の悪意に触れたことがなかった。自分でも考えるより先に感情が先走った。


 ルイは「行こう。」と言い、ミアの手を引いてこの場所を後にした。




 大通りから少し外れた舗装されただけの道。ルイの頭の中に心無い声が駆け巡る。鼓動は早くなり、胸のあたりに燃えるような熱を感じる。心が真っ赤な憤りで満ちていく。その時、心の奥底で声が聞こえる。


 (殺してやる……。)


 「ルイ。ルイ!」と声が聞こえ、ルイははっと我に返った。胸に手を当て、今まで抱いたことのない感情に戸惑う。声のする方を振り返るとミアが眉をひそめ、心配そうに見つめている。


「あぁ。ごめん。ちょっと考え事をしていて」 


 ミアは惜しむようにゆっくりとルイの手を離し、舞うようにその場でくるりと周って、ふさふさした芝生の上にトンッと膝を抱えて座った。つま先を上下にパタパタと動かし、微笑み、遠くをぼんやりと眺めている。


「ルイはアタシのこと気持ち悪いって思わないの?君たちとは違うんだよ。」


 そういうとミアは頭の上にある赤い毛の耳、そして服に隠してあった同じ色の尻尾をみせた。


「アタシがハンターになろうと思ったのはね。獣人が人間と手を取り合える世の中にしたいからなんだ。空になれば、実力があれば、いつか認めてもらえるかなって。だから我慢するの。」


 ミアは小さく丸めた体にぎゅっと力を入れた。まるで心の声をグッと押し殺すように。


「こういうことも慣れっこだよ!一人でも頑張って生きてこれたし!」

「明日の試験もアタシ頑張って倒すから。それまでは……。」


 ミアは仮面のような笑顔の後、消沈したように地面を見つめた。


 ルイは体を震わせた。全身に力が入る。


「なんで……。なんで……。」

「ルイ?なんでルイが泣いているの?」


 ルイは気がつかなかった。自然と涙が溜まり、雫が草の上を跳ね返る。今自分では何もできない憤り。それを感じていた。


「ルイは優しいね。でもアタシと一緒にいたら、君に迷惑かけちゃう。アタシときみたちは……違うの。」

「違わない!」


 とルイが首を大きく横に振り、声に力が入る。


「ミアだって僕たちと同じ心も持った……人だ!」


 ミアは一瞬面を食らったように驚くも嬉しそうに笑った。嘘偽りなく心から笑えたのはいつぶりだろうとミアは感じていた。


「ありがとう。でもね。アタシといると……。」

「僕が危ない時に助けてくれた!苦しい時は看病をしてくれた。君のおかげで僕は災獣に襲われなかった。」


 ミアは大きな猫のような目を丸くし、キョトンとした顔つき。


「心無い言葉には胸を切り裂かれ、その痛みを一人、心の奥底にしまいこむ。でもいつか壊れてしまう。」


 ルイは胸をぎゅっと掴んだ。そしてミアは唇を震わせ、潤んだ瞳からが涙が一滴ほほをつたった。ルイはミアの肩にポンと手を置いた。そして強くそして優しく彼女を見つめた。


「人は一人では生きられない。だから一人で居ようとしないで。僕は何があっても君のそばにいるから。」


 ミアは涙腺が壊れたかのように、涙が溢れ出た。そばにいてくれる。ここまで心を寄せてくれる人に出会ったことがなかった。空には星が落ち、それが瞬くように光輝いていた。

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