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5章獣人の里④平穏の終焉

 ルイたちが畳の上で正座をしながら待っていると、とてつもなく長い机を担いてきて、それを部屋の真ん中に置いた。そして座布団を敷いてくれたので、ルイたちはそこへ座る。オーガはゆっくりと腰を下ろした。


「せっかくお前たちがきてくれたのだからな。何か聞きたいことはあるか?迷惑かけちまったから頼み事でもいいぞ?俺のできる範囲ならな。」


 歳の割に活き活きとした表情を浮かべるオーガ。ルイはエマとミアに視線を送った後、身体をオーガに向けて手を上げた。ルイはオーガという名前がずっと引っかかっていた。カルマが前に獣人の話した時、オーガという名前を口にしていたからだ。


「……オーガさんはカルマという人を知ってますか?」

「カルマか。実に懐かしい名だ。長いこと会っていないが忘れたことは一度もない。向こうは覚えてないかもしれないけどな。まぶだちだよ……。」


 目尻に皺を寄せ、懐かしむように微笑んだ。


「覚えてます!カルマはオーガさんのことを!友だって。また会いたいって言ってました!」


 ルイは手を机に乗せ、身体を前のめりにし、真っ直ぐに熱心な瞳をオーガに向ける。彼は顔に深く皺を寄せ、満足そうに笑みを浮かべた。


「嬉しいなそりゃ。また会えたら酒でも飲もうって伝えてくれ。」


 カルマも全く同じことを言っていたのを思い出し、ルイは口元を緩めた。


「あの。次アタシいいですか。オーガさんにお願いがあります。」


 ミアも身体ごとオーガの方を向き、真剣な眼差しで手を上げた。


「アタシは獣人と人間が手を取り合っていける世の中にするためにハンターになりました。でもこの里の人たちは……、人間を嫌っているみたいです……。オーガさんの力を貸してください!そうすればきっと獣人と人間が分かり合えるって気づくはずです。」


 オーガは目を細めて揺れ動くミアの瞳を見つめた。そして「だめだ。」と言い放つ。ミアは落胆の表情を浮かべ、ペタンと力なく座り込んだ。エマが机をバンッ!と叩き、身を乗り出した。


「ちょっと!無理ってどういうことですか!あなたは人間が好き。ミアは人間と獣人を仲良くさせたい!獣人の長のあなたがやればできるじゃない。」

「……お嬢ちゃん。問題はそう簡単じゃないんだ。そうだ。お前たちの名前を聞いてなかったな。教えてくれ。」


ルイたちはオーガに名を名乗った。ミアは希望が潰えたような小さな声で名乗った。彼女の悲しい声を聞いたエマは再びオーガに強い眼差しを向ける。


「まずはエマ。俺だってひたすらやったさ。でもだめだった。俺には強さがあってもあいつらの心を変えることまではできなかった。」

「次にミアだな。俺が表立って何かをすると反発が大きくなるだろう。さっきのソーマを見ただろ?あいつは実際に手が出ちまったけど、他の奴らだって心の内は似たようなもんだ……。ただし!俺はお前のことを応援する!それだけは約束しよう。」


 オーガはミアに熱心な眼差しを注いだ。ミアは未だ心の整理がつかず、顔を俯かせ、机の下で強く拳を握っていた。


「オーガさん。ここにはたくさんの獣人がいます。オーガさん含め蓮の國に移ることはできないんでしょうか?」


 オーガは「できない。」ときっぱり答えた。ルイが眉をひそめていると、


「物理的というか、なんというか。この里から離れられないんだ。ちょっと待ってろ。特別に見せてやろう。」


 オーガは部屋から急いで出ると、瞬く間に部屋に戻ってきた。そして縦に長い木箱を机の上に置く。


「誰にも言うなよ。他の奴に知られたら長の俺でもめちゃくちゃ怒られるから内緒にしてくれ。」


 箱を開けると綿の上に刀身に一列に沿うように透明な石が埋め込まれた錆びた剣があった。


「俺たち獣人はこの剣を代々守っている。だから里をほかの場所に移すことはできん。」


 ルイはそれを見た瞬間、ドクンと心臓が大きく鼓動した。それを渇望するように勝手に手が伸びる。机の下で拳を握り必死に耐えていた。そんなルイの横に座るエマが首を傾げている。


「それって何か特別なんですか?私にはただの錆びた剣にしか見えないんですけど。」

「…………まぁ国宝ってのはそういうもんだ。ただここにはまだ外を怖がる獣人が大勢いるんだ。そういうやつらが安心して過ごせる場所にしておきたい。だから場所は移せない。」


 ルイは伸びる手を抑えることに必死でオーガの話が頭に入ってこない。オーガが木箱に蓋をすると、その衝動が止まった。自分を落ち着かせるように、誰にもがばれないように、静かに呼吸を繰り返した。


「とりあえず、好きにゆっくり休んでくれ。お前たちに危害を加えないように屋敷のやつらには伝えておくから。」


 そう言い残し、オーガはこの広い部屋から出て行った。




 一晩をオーガの屋敷で過ごした次の日。昨日と同じく澄み渡るような晴れた青空だった。ルイたちがヤヒコに連れられて外に出ると、里の空気が重苦しく感じる。昨夜は獣人たちの表情が夜の暗さでよく見えなかったが今はよく見える。険しく怒りのこもった感情がルイたちにのしかかる。


 ヤヒコに連れられて里の中を歩いていると、後ろから聞き覚えのある怒号が聞こえた。


「おいそこの人間!俺と勝負しろ!俺が勝ったら今すぐにここから出ていけ!」


 その人物は力強くルイたちを指さし、凄まじい気迫でルイたちを睨みつける。ヤヒコが呆れて困ったように頭を抱えた。


「ソーマさん。昨日里長にあれだけやられてまだやるんですか?私はもうこりごりですよ。」

「黙れ。俺が気に食わん。特にお前だ!なぜ獣人なのに人間の國に住んでいる!」


 ヤヒコが小さくため息をつき、ソーマに聞こえないように口元に手を当て、


「ミアさん。すみません。私が言っておきます。」と小さな声で言った。ミアは左右に首を振った後、ソーマをじっと見つめる。

「大丈夫。あなたも無理してるでしょ。」


 そういうとミアは鋭い表情をするソーマの前に立った。


「……人間に何かされたの?」

「は?ここにいる奴らを見てみろ!みんな逃げてきたんだ!親父だって昔人間に迫害されていた。人間はクズでゴミだ!」


 ミアは彼の鋭くとがった目をただ見ている。拳をグッと握り、身体を震わせる。


「それで。あなたは人間に何かをされたことあるの?」

「俺がどうかは関係ない。この里に住む奴らにひどいことをした、人間というものを俺は許せない。」

「ルイとエマはこの里の人たちに何かしたの?」

「うるさいな!さっきから!どうせこいつらも同じだろ。」


 ミアはキッと睨みつけるように大きな目を鋭くした。


「同じなわけないでしょ!アタシがどれだけあの二人に救われたと思ってるの!知ったような口を叩かないで!」


 声を荒げてソーマに詰め寄る。その凄まじい気迫にソーマは大きく後ずさてしまった。


「ミア。僕たちのために怒ってくれてありがとう。」


 ルイが怒りで身体を震わすミアの肩に手を置く。ミアは俯きながら首を振った。そしてルイはミアの気迫に気圧され、のけ反るように身体を引いているヤヒコを見た。


「ヤヒコさん。やっぱり人間が嫌いですか?」

「私にそれ……。聞きます?」


 ヤヒコの糸のような瞳が揺れる。どこか口にするのをためらっているかのように。


「嫌いです。」と答えた。ルイはどこかすっきりした面もちになった。

「わかりました。僕たちは明日ここを立ちます。僕たちがこれ以上ここにいると嫌な思いをする獣人の方もいると思うので、今日は大人しくオーガさんのお屋敷にいようと思います。」

「あなたは怒らないんですか?」

「獣人の里に入ったのは僕たちの方です。怒るなんておこがましい。それにあなた方の気持ちが少しわかるような気がします。常にジロジロと敵意のある視線が突き刺さる。気持ちのいいものではありませんね。だからこそ僕たちはミアのすごさを感じました。」


 ルイは柔らかくたるませた目をミアに向けた。ルイはこの獣人の里にきて、ミアの辛さを思い知った。ハンターになるまではずっと一人で世の中と戦ってきた彼女に改めて尊敬の念を抱いた。


「……なるほど。人間は嫌いです。きっとそれが変わることはないかもしれません。ただ……、あなた達のことは普通ぐらいになりました。」


 ヤヒコはそう言うと恥ずかしそうにそっぽを向いた。ルイは口元に笑みを浮かべ、エマがミアのそばに寄った。


「少し前に進めたんじゃない?まだ希望はあるでしょ。」


 ミアは思い悩む表情を見せ、エマの服の裾をきゅっと摘まんだ。



 その時、ルイたちの視線の奥から刀や斧を握った獣人が何人か歩いてくる。首が折れるように顔が下を向き、一歩また一歩とぎこちない歩き方で迫ってくる。ヤヒコがソーマに目を合わせる。


「ソーマさん。あれは……。」

「おれは指示なんて出してないぞ。なんだあいつら。」


 ソーマが「止まれ!」と声を荒げてもただ不気味に近づいてくる。


「里長から人間に手を出す行為は禁止されています。武器を捨てて止まりなさい!」

「いい加減にしろって。こいつらは明日には帰るってからもうちょっと待って……。」


 ソーマが彼らに駆け寄ると、獣人の一人が刀を振り下ろした。彼は瞬時に飛ぶように後ろに回避するも刀が彼の腕をかすめる。

「ソーマさん!お前たち!気でも狂ったか!」

「かすり傷だ。それよりも……。」


 ルイたちの耳に「助けて……。逃げて……。」とかすれて振り絞る声が聞こえた。獣人たちが顔を上げると彼らは涙を流し、ただ刀を振り回している。その時、里の至る所で悲鳴が上がった。獣人が獣人を切りつけている。


「なんなんだ。これは……。」


 ルイが目の前の光景が信じられず、目を見開き瞳を大きく震わせた。


「あら~。やっと入れたと思ったらかわいい子たちがいるじゃない。あなた達も一緒に遊ぶ?」


 背中から聞こえる妖艶な声の方を振り向く。そこには鮮緑色の長い髪をした豊満な体の女性がいた。そして彼女は後ろに大量の災獣を連れていた。

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