4章ハンター対篝火②託されたもの
フーゴたちの修行は交代制で行われた。
フーゴは筋力訓練。彼が鍛錬で使っている斧でひたすら薪を割り続ける。
アキラは反射速度訓練。投げた石を避けながら距離を詰める。
ダイキは判断力の訓練。彼が問いを出し、その場の戦闘での最適解をルイが答える。
サトシは基礎体力向上訓練。ひたすら彼に触れられるまでひたすらに走り続ける。
寝ること以外すべて修行に費やし、ルイは身体そして心を磨いていった。
幾日に数回、タイガたちと立ち合い稽古を行う。修行内容はチェインの理解、そして強化。タイガ曰く、ルイはまだチェインを使いこなせていない。自分の能力のすべてを把握し、自分だけの技を身に着ける必要がある。チェインを発動させ、ひたすらに実戦形式で戦った。
ある日の夕焼けが差し込む時間帯。タイガがルイに刀を打ち込む。防戦一方のルイ。畳みかけるようにタイガが刀を振るうと、突然前からルイが消えた。その時、背中に違和感を感じる。ルイの大鎌がタイガの背中に触れていたのだ。タイガは鼻から息を抜く。
「面白い。何か掴んだか?」
タイガが真剣な物言いをすると、ルイは張りのある声で「はい!」と返事をした。
「もう一度やって見せろ。」といい、二人は再び刀を交えた。燃えるような夕焼けが二人を照らし続けていた。
そしてその時は来た。一週間前あたりから陽光は陰り、日に日に厚い雲で覆われていく。曇天の下、東の街から人の姿が消えた。國から避難勧告が通達され、ハンター以外は國の中心部へ避難した。強い風が吹く荒れる中、東の郊外にハンターたちが集まる。前線で待機しているルイはちらちらと視線を横に走らす。
(レオはいないか……。)
ハンターたちがざわめく中、雲の中に閃光が走る。まるで生き物でもいるかの如く、ゴロゴロと重低音が空に轟く。
その時、視界の奥に飛行する物体。ルイは力のこもる目つきでそこを見据えていた。
タクトたちが飛行型の災獣に乗り、迫ってくる。翼に稲妻模様を持つ四翼雷鷲、大きな翼を広げた翼牙狼、真っ赤な紅色で三つの尾を持つ紅陽雀。他にも獰猛な災獣を連れている。それに乗っている人たち。表情に殺気が漂っている。彼らは森の入り口に降り立った。
森の奥からもぞろぞろと災獣が顔を出す。タクトは腰に二本の刀を腰に差し、ハンターたちに鋭い眼光を向ける。そして後ろの人間たちが篝火と書かれた旗を揚げる。
彼らはハンターたちに燃え上がるような視線をぶつける。ハンター側も鋭い視線を返し、火花が散るように視線が交錯する。その時、ハンターたちの間からフーゴが前に出て「タクト!」と叫んだ。
「お前がしたかったことはこれか!お前の言っていた最強ってこういうことなのか!」
タクトは何も言葉を発さずただ冷たい眼光を向ける。フーゴは拳を握りしめ、それが大きく震えていた。
「お前は俺たちが止める。お前の思うようにさせてたまるか。やけを起こした友達を救ってやるよ!」
曇天の空に思いの丈が吸い込まれる。突如、肌を切り裂くような空気が漂う。タクトの後ろで待機していた男たちの表情がさらに険しくなる。
タクトはゆっくりと手を挙げる。空に走る稲妻の轟く音だけがこの地に響き渡る。そしてゆっくりと息を吸い、
「俺は絶対許さない。ハンターなんぞ俺が滅ぼしてやる!」
タクトが勢いよく手を振り下ろした。武装した人が災獣と共にルイたちに迫ってくる。
両軍が激しく衝突。乱戦に次ぐ乱戦。砂埃が舞い、刀が交錯する金属音が響き渡る。ルイは制圧するために急所ではなく、手首や足首を攻撃。その時、飛行型の災獣に乗ったタクトたちが街に向かうのが見えた。ルイは乱戦を縫って、彼らの後を追いかけた。
ルイは街の中を走り抜けた。街の中でも激しい戦闘が行われる。混戦の中でもルイの瞳はタクトを逃がさなかった。その時、タクトが急に旋回する。ルイが追いかけようとしたとき、上空に気配が。上には刀を大きく振りかぶったセナが。ルイは間一髪その一撃を回避。表情を歪め、地面に擦るように後退した。
(危なかった。前の僕だったら……危なかった。)
ルイはすかさず顔を上げた。軽く笑みを浮かべたセナが得意げにルイを見つめる。前に会ったときと同じように太陽のような黄色い瞳。その瞳は一点の迷いも持ち合わせていない。
「久しぶりだな。少しはマシな動きができるようになったじゃねぇか。雑魚ハンター。」
ルイは刀を抜き、中段で構えた。刀を背負うように峰を肩に当てているセナの表情に鋭さが宿る。
「お前たちにタクトさんの邪魔はさせない。」
セナはそう呟くと、重心を低く構えた。乱戦の中で対峙している二人の間には誰も立ち入れない雰囲気があった。
東の地で乱戦が繰り広げられる中、カルマは古びた闘技場の真ん中にいた。最低限の手入れだけされた壁にひびが入っている年季を感じる場所。しばらく目を閉じて佇んでいた。
そして何かが降り立つ音が聞こえるとゆっくりと目を開く。この地にタクトが降り立った。鋭い眼光の奥に燃えるような決意を感じる。しかし、カルマは瞼をたるませ柔らかい眼差しを向ける。
「手紙は届いたようじゃな。ここは懐かしいじゃろ。元気しておったか?」
ルイたちに話すときと同じような口調。タクトは腰の刀を一本抜き、優しく闘技場の端に立てかけた。羽の形状をした鍔の刀。カルマはその刀を遠い目で眺めた。
「懐かしいの……。手入れが行き届いておる。」
「お前があの時、俺を殺さなかったせいで、この國のハンターは全滅だ。結局お前は肝心な時に何もできない。何もしない!何も言わない!せめて俺が終わらせてやる。」
「そうじゃな。儂はたくさん失敗をした。……ではあの時の過ちを正すとしよう。」
二人が対峙する。凄まじい圧がぶつかり合う。その衝突はまるで天が割れるほど強大だった。
東の街の外側そして街中で篝火とハンターたちが激しい抗争を繰り広げる。しかし、篝火たちのハンターに対する恨み、憎しみの力はそして災獣たちにハンター側が押されてる。これ以上街に入れまいと、ハンターたちは身体に傷を負いながら戦い続ける。
普段は露店を開き、大いににぎわっている大通り。そこでルイとセナは激しく刀を交錯していた。互いに険しい表情で鍔迫り合い。それをルイが力で押し返す。セナは顔を歪め、跳ねるように後退した。ルイの顎から汗が一滴落ちる。まだ軽く息が上がってる程度。
(よし。戦えてる。このままいけば勝てる。)
ルイは長く息を吐き、刀を構え直した。
「もっと楽に倒せると思ってたのにな。……おい。もう一人のやつはどうした。あいつは強くなってるのか?」
「……君に関係ないだろ。」
ルイはすぐに言葉が出てこなかった。微かに瞳が揺れ動く。しかしセナはそれを逃さない。
「なんだ。あいつはだめか。あの中で一番雑魚はあいつだったもんな。」
挑発するように片眉を上げる。ルイは奥歯を噛みしめ、刀を握る力が強くなる。
「レオは雑魚じゃない!ものすごく強い!本当は僕よりもすごいやつなんだ!」
「本当はって……。今は雑魚ってことだろ。お前がそれを認めてるじゃないか。」
ルイは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
「俺はよ。必死に努力したぜ。タクトさんのために。あの人の刀になれるように。お前あの時言ってたよな。困ってる人を救うために刀を握ってるって。じゃあ救ってくれよ。一緒にハンターたちを倒してくれよ。」
まくし立てるように言葉を連ねた。ルイは深呼吸をし、心を落ち着かせた。そして顔にはゆるぎない決意が浮びあがる。
「僕は君もそしてタクトも救いたい。だからこそ僕はここで君に負けるわけにはいかないんだ。」
真剣な眼差しでセナを見つめる。二人は互いに何も言わず視線だけ交えた。
周りで戦っている人々の雄たけびや刀がぶつかる音だけが聞こえる。するとセナはおもむろに着用していたやや暗めの赤いハンターコートを抜き、それを投げ捨てた。ドンと鈍い音を立てて地面にめり込む。黒いタンクトップ姿の彼の身体は傷だらけだった。過去のトラウマでできた傷ではない。彼の努力、そして意思が身体に刻み込まれているのだ。
「今からはお遊びなしだ。」
セナが地面を強く蹴り、ルイに突進。渾身の力で振り下ろすが、ルイが受け止める。
「俺ごときに苦戦してタクトさんが救えるのか。そんなちっぽけな力で。」
セナが雄たけびを上げ、刀を振り抜く。ルイは弾き飛ばされ、家屋に衝突。壁が崩壊した。
埃が舞い、家の中に泥棒が入ったかのように荒れる。仰向けに倒れるルイはゆっくり身体を起こし、深く息を吐いた。ルイは胸に手を当て、ギュッと握りしめる。
(ここで負けるわけにはいかない。必ず勝つ。)
ルイの瞳に輝きが宿る。そしてルイは唱えた。
「息吹け。天碧の刹那」
壊れた家屋から翡翠色の光が漏れだす。そしてルイは再びセナと対峙する。ルイの纏う翡翠色の輝きはいつにも増して色濃く見えた。
ルイは大鎌を肩越しに構える。強くフッと息を吐いた直後、セナに迫る。幾度か攻撃を交えた後、ルイは彼の背後に回る。「虚空。」と呟き、翡翠色の光を纏った手で軽く彼の背中に触れた。そして跳ねるように大きく後退。二人は目を細めて睨み合う。
そしてルイは「是」と唱える。するとセナの目の前にいたはずのルイの姿が消えた。その時、背後に気配が。振り返ると、そこには大鎌を振りかぶったルイが。顔を歪めセナは必死に刀で防御。ルイは渾身の力で大鎌を振り抜き、セナを吹き飛ばした。
そこからはルイのペースだった。時折、「虚空。」「是。」と唱えるとルイはセナの懐や背後に瞬間的に移動。セナは攻撃を防ぐだけで精一杯だった。そして再びルイが「是。」と唱えるとセナの懐に。渾身の力で彼を蹴り飛ばした。
ぐぅっと呻き、セナは地面を転がった。セナは立ち上がるが、大粒の汗をかき、激しい呼吸を繰り返している。ルイは真っ直ぐにセナを見つめた。
「僕はあんなにすごい人たちから託されたんだ。負けるわけにはいかない。」
断固たる響きでそう言ったとき。突如飛んできた短刀がルイのわき腹に刺さった。ルイは激しく顔を歪め、地面に崩れ落ちる。身体に纏っていた翡翠色の耀きが消える。
四つん這いになり、額から汗が噴き出した。セナは湧き上がる怒りが抑えられない。
「誰だ!横やりをいれたやつは!邪魔すんじゃねぇ!」と叫びをあげた。
ルイは浅い呼吸を繰り返す。腹部が燃えるように熱い。瞳が激しく揺れ動く。ルイは片膝をついたまま立ち上がれない。蹲るルイに影が被さる。
(まずい!やられる!)




