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3章完結 救出任務⑥別れる二つの道

 空が厚い雲で覆われていく。天井から差し込む日の光が遮られ、普通であれば照度が落ち、洞窟内は暗くなるはず。しかし、洞窟内はより明るくなった。リュウの頭上に瑠璃色の輝き放つ龍の姿。洞窟内に突風が吹き荒れ、稲妻そして雨の音が耳に飛び込む。それ見たリョウガは刀身を前腕に乗せる平月の構えを取る。


「ようやく……。俺も楽しめそうだ。」


 リュウは身体の力を抜き、刀をだらりと垂らす。そのまま、ゆっくりと一歩ずつ進む。


「雨宮流剣体術 村雨。」


 リュウは凄まじい速度でリョウガに切り上げる。リョウガの受けた刀が跳ね上がる。リュウの技は一段階進化した。極限まで脱力したことで技の起こりがまるでない。


 二人は激しくぶつかり合う。リュウが透き通る刀身を振るう。その時、刀から零れた水滴がリョウガの下へ。彼はそれをすべて切り落とす。その水滴が地面に触れる。バチッと音を立て、雷が走った。リョウガは淡々と抑揚のない口調で語る。


「いい能力だ。使いこなせれば俺の相手にもなれる。」


「だまれ!それが本当のあんたなのか。今は偽ってないのか!」


 リュウが切り払いをすると、リョウガが後ろへ下がる。そしてリョウガは何も答えず、再び刀を構えた。


「答えろ!くそ野郎!」


 二人の戦いをルイは眉をひそめて見ていた。激しくぶつかり合う二人だが、無表情のリョウガに対し、リュウは感情がまるで嵐のように乱れている。刀から度々飛ぶ水しぶきがリュウを濡らす。


「リュウ……。泣いてる。」ルイにはそう見えた。


「雨宮流剣体術 鬼雨。」


 二人が同じ技を繰り出した。その時、バキンッと音が鳴り響く。リョウガの刀が砕け散った。リュウの呼吸が乱れる。体力の限界が近い。


「流石に借り物の刀だともたないか。イブ。俺の刀を。」


 鳥型の災獣が頭上から刀を落とす。それを掴み、刀を抜いた。刀の鍔には複雑に入り組んだ曼荼羅の模様。リョウガが不穏な空気を漂わせる。極限に張り詰めた空気が洞窟内を冷やしていく。



「はい~!ちょっと待った。選手交代。俺。」


 乱暴そうながなるような声。ルイたちの視線が集まる。そこにはエマたちを救出したタイガとハルの姿が。牢屋の鉄格子がぐにゃんと折れ曲がっている。じっとタイガたちに視線を送るリョウガ。


「ふむ。洗練された氣。ぜひ手合わせを……。」


 その時、入り口から飛んできた鳥型の災獣がリョウガの肩に留まる。足に括り付けられた紙をほどき、内容を確認した。


「セナ。撤退だ。」


 それを聞いたセナは鍔迫り合いをしていたレオを蹴り飛ばす。飛ぶようにしてリョウガの下へ行き、紙に書かれたことを確認する。セナは口を尖らせ、頭を掻いた。


「タクトさんからの指示じゃ従うしかありませんね。イブ~。帰るぞ。」


 そういうとイブはコクリと頷き、穴の開いた天井に手をかざす。四翼雷鷲が舞い降りる。セナとリョウガはそれにまたがり、イブを乗せた翼牙狼が翼を広げた。リュウの瞳はリョウガに向いていた。その時、一瞬だけリョウガの口元が緩んだ気がした。そして彼らは天井の穴から外へ出て行ってしまった。リュウはチェインを解く。何十キロも走ったかのような疲労が襲い掛かり、たまらず膝をついた。空を覆っていた厚い雲は無くなり、洞窟内にまた日の光が差し込んでくる。



 一部始終を見ていたハルは落ち着きのない様子でタイガの背中をバンバン叩いた。


「ねぇ!今あの人タクトって言ったよね。じゃあやっぱりタクト兄は……。」

「いまはそれどころじゃない。ハル。消毒液と包帯貸せ。」


 タイガはフーゴの下へ駆け寄り、慣れた手つきで手当を始めた。


「すまねぇな。タイガ。戦いたかっただろ。せっかくのタクトへの道筋だったのに。」

「いいんですよ。帰り道で死なれても困ります。ちゃんと自分の足で歩いて帰ってください。」

「なに!?お前おぶってくれないの?仕方ねぇな。」


 大けがを負いながらも談笑するフーゴたちを尻目に、膝をついたリュウは必死に肺に空気を取り込み、日の光が照らす天井を見上げた。彼の横にルイが座った。彼の呼吸が落ち着くのを待ち、


「お兄さん行っちゃったね。」と呟いた。

「お前と約束したように話してみたぞ。あいつはゴミ野郎だった。ただ刀を交えて感じた。あいつ何か隠してやがる。おれは強くなって真っ向から叩き潰す。そんで洗いざらいすべて語らせてやる。」


 ルイはリュウとリョウガの戦いを思い出した。チェインを使ったリュウの技。それは強く美しかった。以前のように真似できるものではなくなった。友人が強くなる半面、今のままではいけないと自分に言い聞かせる。ルイは活力を感じさせる表情で日の光を眺めていた。


 そんな二人と対照的にレオは顔を俯かせ、いつになく表情は険しかった。ここに来る道中も、セナとの戦闘でもフーゴ、ルイそしてチェインを発動させたリュウ。彼らに後れを取っている気がしてならない。


「何辛気臭い顔してんのよ!らしくない。」


 笑みを浮かべたエマがレオの顔を覗き込む。レオは「うるせぇ。」とだけ言い、腕を組んで背を向けた。


「助けに来てくれてありがと!」


 淀みのない透き通る声がレオの背中に突き刺さる。組んでいる腕をさらに固く結び、心の中でもう一度(うるせぇ……。)と呟いた。




 エマ達の救出任務から数日たったころの夕方。ルイはいつもの修行場であの戦いを忘れないように自分の刀を振り続けた。結局彼らには勝てなかった。自分の強さを過信していたかもしれない。チェインを使ってもセナと互角。もっと強くならないと。そう誓い刀を振り続ける。空の日が落ち、ルイの影が色濃くなっていく。


 ルイが刀を振っていると、遠くからよく知った顔が歩いてくる。近づいてくるにつれ、笑みを浮かべていたルイの表情が真顔に戻る。

 

 レオは何も言わず、ルイに鋭い眼光を向け続けていた。


「どうしたの?」


 その表情にルイは少し戸惑った。そしてレオが口を開く。


「俺と戦え。」


 しばらく無言で視線を交える二人。この状態に入ったレオは何を言っても聞かない。ルイはそれをよくわかっている。幼馴染だから。


「わかったよ。今から家に帰って木刀持ってくるから待ってて。」


 ルイが一歩踏み出そうとした時、レオが刀を抜き、切っ先をルイに向けた。夕日に照らされた刃が怪しげに光る。


「今手に持ってるだろ。それを使え。」

「いや。カルマから刀を使った打ち合いはだめだって言われてるでしょ。どうしてもやりたかったら木刀持ってくるから待っててよ。」


 レオは三歩後ろに下がり中段で刀を構えた。切れ長の大きな瞳がルイを捉える。


「俺は殺すつもりで刀を振る。いくぞ。」


 そういうと、レオはルイに飛びかかった。風を切り裂く音と共に刀を振り下ろす。それを回避するルイ。


「ちょっと待って!レオ!」

(くそ。ひとまず距離をとって誰か呼んでくるしか。)


 ルイが街の方を向いていると、レオは下からルイの脇腹を蹴り飛ばす。ルイは脇腹を抑え、一つ咳をこぼした。


「よそ見してんじゃねぇ!お前にとって俺はそんなに余裕のある相手だってのか!」


 荒々しい口調に力がこもる。レオは再びルイに突撃。


「あぁ!もう!どうなっても知らないからね!」


 ルイは刀を抜き、二人は真剣で戦った。それでもルイはどうしても怯んでしまう。相手は敵ではなく親友だから。ただレオの攻撃をいなす時間が続く。しかし、レオの刃が度々ルイの服、そして肌を掠める。


 一瞬気が立ったルイがレオに向けて袈裟斬りを繰り出す。刃先がレオの服を切り裂く。二人は距離を取り、対峙した。


 レオは切られた場所を手で触れると、切れているのは服だけだった。彼は片眉を吊り上げ、ルイを見下すような表情を浮かべる。


「全力で来いって言ったよな。使えよ。チェイン。」


「レオ!どうしちゃったんだ!こんなことして何になるんだ!僕はこんなことしたくない!」


 ルイの胸にやきもきする気持ちが広がっていく。心の重心の置き場がない感覚。それにも関わらず目の前にいる親友は刀を構えた。


「後悔しても知らないからね。息吹け。天碧の刹那」


 レオは長く息を吐いた。対峙しているルイがチェインを発動。体には翡翠色のオーラを纏い、手に握った刀は大鎌へと姿を変える。二人は地面を力強く踏みしめると、互いに雄たけびを上げ衝突した。




 その頃、エマとカルマが街の中を走り抜けていた。たまたま二人で話していた時、修行場から緑色の光が見えた。

「ねぇ!あれってルイのチェインよね?なんで修行場から。」

「儂にもわからぬ。……とにかく急ぐぞ。」



 修行場を照らす夕日が徐々に沈んでいく。レオは激しく息を切らし、地面に膝をつけていた。見上げる先に難しい顔色を浮かべる親友の顔。レオは悔しそうにグッと奥歯を噛みしめ、地面の砂を握りこんだ。


「二人とも何してんの!」


 エマが地面を強く踏みしめ、二人に詰め寄る。ルイそしてレオに平手を打ち込んだ。ルイはチェインを解き、顔を俯いた。涙ぐんでいるもう一人の幼馴染の顔を見れなかった。


「刀を使うなんて。打ち合いなら木刀ってカルマに言われてたよね!取り返しがつかないことが起きたらどうするの!」


 エマの金切るような叫びに対しルイは何も言えなかった。


「うるせぇ。」とレオは小さくつぶやく。


「レオ!この前の傷だってまだ癒えてないのに!大体今のあんたがルイに勝てるわけないでしょ!」


 まくし立てるような口調をレオにぶつけた。


「うるせぇって言ってんだろ!」


 レオの怒号が修行場に轟く。エマはその迫力に押され、表情が固まってしまった。


「二人とも。これはどういうことか説明してくれんか。」


 カルマはルイたちに物憂げな眼差しを送る。その時、レオが立ち上がり、刀を納刀した。パチンという音が三人の耳に飛び込む。


「勝負は俺から仕掛けた。ルイに無理言って刀を握らせた。それだけだ。」


 そう言い放つと、表情の消えたレオは街の方へ歩いていく。次の日レオはルイたちの前から姿を消した。

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