3章救出任務④復讐が復讐を生む
押し寄せる災獣から回避するためにルイとレオ、そしてフーゴとリュウは左右に分かれた。ルイとレオの向かいにはセナが。フーゴとリュウは何匹もの災獣に囲まれた。
ルイとレオが刀を抜く。目の前にいるのは確実に敵。今までは災獣だけを相手にしてきた二人だが、初めて人間と対峙する。心臓が大きく鼓動するのを感じた。
「イブ!そのハゲは殺すなよ。俺がとどめを刺してやる。」
しゃがれているが芯のある声を張り上げる。レオはセナの握っている刀に視線を送る。錆がところどころに付着し、手入れの行き届いていない刀。無性に腹がたった。
「さっきから聞いてりゃピーピーうるせぇんだよ。お前はなんで刀を握ってんだ。何の意味があって刀を振ってやがる。」
何も言わずこちらに敵意を向けるセナにルイが言い放つ。
「きみはなんで僕たちハンターをそんなに憎む。過去に何があったんだ。」
セナは衣服を捲し上げ、腹部を見せた。切り傷、そして肉がえぐれたような傷跡がいくつもある。
「てめぇらハンターは力のないものからすべてを奪っていく。俺は目の前で家族を奪われた。イブだってそうだ。あいつは声を失った。俺たちみたいな生きる希望がない人間をタクトさんは救ってくれた。……なぁ?逆に教えてくれよ。お前たちは何のためにハンターになったんだ?その刀は何のために握ってる?」
セナは恨みや憎しみが浮き出た表情をしながら一歩前へ踏み出す。レオは大きく息を吐いた後、真剣な表情に。
「最強になるためだ。それ以外に理由なんてない。」
「僕は困っている人を、助けを求める人を救えるヒーローになりたい。だからハンターになったんだ。」
レオとルイは刀を構えた。セナはゆっくりと瞬きをした。二人の言葉が自分に届くのを拒むように。
「へぇ。じゃあタクトさんは最強のヒーローだからあの人の方が上だな!雑魚ハンターどもが!」
セナは飛び上がり、レオに切りかかった。レオは刀で受けるが、その攻撃はとてつもなく重い一撃だった。
ルイたちが戦闘を始めている中、フーゴとリュウは必死に災獣を討伐していた。灰狼、斬蛇、跳躍鳥など、多種な災獣が二人に襲い掛かる。
「ルイ!レオ!大丈夫か!」
激しく金属がぶつかり合う音だけが聞こえる。災獣が邪魔をして様子を確認できない。
「リュウ。ここは俺が凌ぐから二人のほう行けるか?」
「厳しいと思う。一人いなくなれば背中からやられる。あの二人には自分たちで何とかしてもらわないと。」
フーゴとリュウはその場から動けずひたすら襲い掛かってくる災獣を切り続けた。
ルイとレオはセナの攻撃に戸惑っていた。身体や刀の使い方が上手い。技もそうだが、なによりも彼の気迫に押されていた。セナは刀の峰で肩を叩きながらルイたちを見下ろし、
「大口叩いた割に大したことないな。」
と吐き捨てるように言い放った。舐められた態度にレオの怒りも限界が迫る。
「レオ!ちょっと行き過ぎだよ!相手の挑発に乗っちゃだめだ!」
「うるせぇ!こいつなんて楽勝に倒せないと俺はだめなんだ!」
ルイが「ちょっと。」と言い、止めようとしたが聞く耳を持たない。
レオは足に力を込め、セナに突撃した。レオとセナの鍔迫り合い。刃が強く擦れる。レオが刀を振り下ろし、セナは後退。レオが追撃しようとした。その時、セナは足元の砂を蹴り上げた。砂がレオの視界を奪う。セナはその隙を見逃さない。連撃でレオの身体が切り刻まれる。ふらつくレオの身体をセナは思いっきり蹴り飛ばした。
レオの身体が宙を舞い、無残にも地面に転がる。ルイは「レオ!」と大きく叫ぶが、彼は身体を震わせるだけで立ち上がれない。セナは首をコキコキと音を鳴らし、地面に這いつくばるレオをあざ笑う。
「汚い手……なんて言うなよな。お前がただ弱いだけだ。」
その後、ルイに切っ先を向けた。燃え上がる炎のように熱を感じる視線をぶつける。
「お前。チェイン使えるんだろ。出し惜しみせずにやれよ。お前が俺に勝たないと、全員死ぬぞ。」
ルイは深呼吸をした。その時でも視界からセナを外さない。そして刀を中段で構え、グッと力を込める。
「息吹け。天碧の刹那」
ルイの刀が眩い翡翠色の光を発する。そしてルイの刀は大鎌へと変わり、身体に翡翠色のオーラを纏う。ルイとセナが衝突する。
ルイは必死にセナを刀を押し込む。上から攻撃を仕掛けたルイが優勢。しかし、セナも必死に対抗。雄たけびを上げ、全身に力を込めてはじき返す。
「お前たちは俺たちから何もかも奪った挙句、タクトさんまで奪おうとした。それだけは絶対させない!」
「君たちに何かをした人はハンターじゃない。そんなのはハンターの皮を被ったただの悪人だ。ハンターはもっと気高く、弱きものを助ける人だ!」
二人は再び衝突し、互いに連撃を繰り返す。ルイは纏うオーラを刃に集める。セナの刀がピタッと動きを止められる。ルイの切り払い。しかし、セナは身体を浮かせ回避。そのまま回し蹴り。ルイは飛ぶように後ろへ回避した。
ルイとセナは再び互いに鋭い視線を飛ばし合った。
「タクトさんの言ってた通りだ。お前も腐ってやがる。同じハンターなのに見て見ぬふり。言うことはだけは一丁前。やられた人の心は!傷は!復讐でしか果たせないんだよ!」
「違う!復讐しても何も変わらない!復讐はかえって大きな復讐を生むだけだ。」
セナが沸騰する怒りを感じた後、ふっと刀を下した。目を細め、ルイを見つめる。
「じゃあ今から牢屋の奴らを全員殺す。お前は復讐なんてするなよ。イブ!牢屋の奴らを殺せ!」
エマ達の悲鳴がルイの耳に飛び込んできた。囚われている牢屋から血しぶきが見えた。突如ルイのチェインが解け、刀を地面に落とした。壊れたブリキ人形のように動きがぴたっと止まった。
「なんだ?いい表情できるじゃないか。結局お前も俺たちと同じなんだよ。」
ルイの瞳が大きく揺れ動く。何も考えられない。そして真っ白だった頭の中が沸騰した怒りで血塗られていく。
ルイは凄まじい速度で接近しセナを殴り飛ばした。若々しい緑色の瞳が徐々に暗くにじんでいく。
地面に倒れこんでいたレオはルイの後ろ姿を見て寒気がした。二次試験でタクトを蹂躙したあの姿を重ねる。しかし、ただ手を伸ばすことしかできなかった。
「待て。ルイ……。そっちに行くな。」
セナは怒りに任せて殴り続けた。凄まじい速さで飛んでくる拳。セナは防戦一方。ルイは下にしゃがみ込み、セナの下から拳を突き上げる。セナの身体が大きく宙に舞う。セナは地面に当たる寸前のところで足から着地した。
セナは口から垂れる血を拳で拭う。彼の目にはルイが腹を空かせた獣のように見えた。それがゆっくりと迫ってくる。ルイの瞳が怪しげに光り始めたその時、エマの声が響き渡る。
「なんで今まで隠してたのよ!」
ルイは我に返った様子で周囲に視線を見渡した。牢屋の中でラズが天井を見つめ、安堵したように息を吹いた。
「いやぁ。危ない危ない。仕込み刀持っててよかったぜ。」
「あんたそんなもん持ってんなら最初から縄切りなさいよ!」
仕事を終えたような表情をしているラズにエマが食って掛かる。
「馬鹿かって。ばれたら奥の手の意味がないだろ。これだから女は。めんどくさい。」
がみがみ文句を言うエマ。ラズは苦虫を嚙み潰したような顔をし、両手で耳をふさいだ。
その声を聞いたルイの表情が和らぐ。その時、レオがルイの背中をポンッと叩き、ルイの刀を差し出した。ルイは自分の刀を受け取ると、眉をしかめた。結局自分も復讐心にかられてしまった。口だけは一丁前。セナの言葉がルイの胸に深く突き刺さる。
「らしくねぇぞ。お前があんなにキレるなんて。お前こそ相手の挑発に乗りすぎだ。」
「ごめん……。」
「間違えたと思ったら、直せばいい。人間なんて初めから正しいことできねぇよ。その後が肝心だ。」
レオの言葉がルイの胸に染みわたる。ルイはこちらを睨むセナを見つめる。そして声を張った。
「ごめん!君の思いを無下にして、無神経な発言をした。結局僕も同じだった。だからと言って復讐が是だと思わない。だからこそ、君の復讐は僕が止めて見せる!」
強く刀を握りしめ、ルイは再び戦うことを決めた。




