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2章初任務⑤こじ開けられた心の扉

 鐘竜の攻撃を受け、地に伏せていたルイの手に刀が握られる。円形の鍔の内側に時計の針が四本、歪んだような形。刀に思いを込める。そしてルイは唱えた。


「息吹け。天碧の刹那。」


 刀から柔らかな翡翠色の光が。それがルイの身体を包み込んでいく。


 リュウは己の弱さを悔いた。表情を崩し、必死に前に足を進めるが、頭上を覆う影から逃れられない。鐘竜の命を刈る一撃が振り下ろされる。


 咄嗟にジョウジとルナを抱きかかえ、二人を守る姿勢をとる。そして、グッと目を瞑り、全身に力を込めた。


 その時、凄まじい衝撃波があたりの砂を巻き上げる。リュウは不思議に思う。衝撃や痛みが襲ってこない。ゆっくり後ろを振り向いた。


「よかった!間に合った!」


 そこには翡翠色の輝くオーラを纏ったルイがいた。確実に仕留めに来た鐘竜の攻撃。それを大きな鎌のようなもので受け止めている。


 彼の手に握られた大鎌は、鋼の刃の淵から柔らかな翡翠の光を放っていた。刃の表面には幾何学的な模様が刻まれ、その一つ一つが息をするように緑色に淡く発光している。


 ルイは力強く大鎌を振り切った。鐘竜はその衝撃を逃がすように、後ろに後退する。リュウが唖然としていると、ルイは三人を抱えて、軽やかに崖を上る。常人では考えられない動きだ。


「おい。お前それ……。」


リュウは口を開け、唖然としていた。自分とは対照的な自信に満ち溢れたルイをただ眺める。


「行ってくるね。リュウはここで二人を見てて。頼んだよ。」


ルイは小さく口角を上げ、鐘竜の元へ向かった。



 ルイと鐘竜が対峙する。ルイが動けば鐘竜は一歩引く。野生の勘というべきだろう。様子の異なるルイの姿に警戒を強めている。


 突如鐘竜は尾を持ち上げ、激しく振り回した。カンカンと警報のように高い金属音が鳴り響く。その時、大量の岩蜥蜴が押し寄せてくる。その五十匹以上。それらは鐘竜の咆哮でそれらは待機するように動きを止めた。


 突如鐘竜がルイに突進。そして頭突き。ルイは攻撃を躱し、大鎌を振るう。その時、刃に翡翠のオーラが纏う。それを振り下ろすが、鐘竜の硬い頭に弾かれる。ルイの攻撃が当たった鐘竜の頭部。そこにぼんやりとした緑色の光が宿る。鐘竜は頭を何かに捕まれているかのように動かせない。ルイはすかさず柔らかい腹部へ鎌を振るった。


 頭から光が消えた鐘竜は距離を取り、尾で砂を振り上げる。流星のような固い石の群がルイに襲いかかる。必死に鎌を回すように動かし、攻撃を防ぐ。その時、空中で石が静止し、数秒立つと地面に落ちた。ルイは必死に脳を回転させた。


(刃にオーラを纏わせれば、動きを止められる?ただほんの数秒だけ。あの力とは似ているけど使い勝手が難しい。)


 鐘竜が一気に距離を詰める。尾を振り上げ、渾身の力で振り下ろす。地面が割れ、岩が空中に飛び散った。ルイは高く跳躍。そして浮いた岩に鎌を当てる。岩を空中でピタッと静止させた。それを足場にし、渾身の力で蹴る。すさまじい勢いで鐘竜に攻める。鐘竜も負けじと尾を振るった。衝突。激しく交錯し、火花が散る。ルイは力を込め、大鎌を振り切り、鐘竜の尾を切断した。


 崖の上から見ていたリュウはあっけにとられた。自分では全く歯が立たなかった相手を翻弄し、厄介だった尾も切断した。


「あの年でチェインを使えるなんて……。」


 横で見ていたジョウジは驚きで目を見開いていた。



 尾を切られた鐘竜は怒り狂ったように何度も地面を踏みつけた。そして、咆哮を上げる。周りに待機していた岩蜥蜴がなだれ込むようにルイに攻めてくる。大量の岩蜥蜴の攻撃をルイは必死に受け止めるが、あまりに数が多すぎる。防戦一方だ。


「さて僕もいかないと。リュウ。ここでルナを見といてもらえる?目を覚ますかもしれないから。」


 ジョウジは傷だらけで力の入らない身体を無理やり立たせた。背中には血が滲み、額には脂汗がにじみ、浅い呼吸を繰り返す。


「おい!やめろって!無理すんな。」

「ルイを助けに行かないと。倒せなくても、岩蜥蜴の攻撃ぐらいなら僕が防げる。少ししか耐えられないかもしれないけどね。」

「行くだけ無駄だ!やめとけよ!何もできないって!」


 リュウは声を荒げてジョウジの腕を掴む。彼の背中の傷を見るたびに自分の無力さが増していく。これ以上後悔したくなかった。


「何かできるできないは関係ない。ルイの力になりたい。そう思うから行くんだ。人間って言うのは頭でいろいろ考えるより、思った通りに動いた方が後悔しないものさ。」


 リュウはハッと目を見開いた。昔リョウガに言われた言葉をまた思い出した。


「人は心で生きている。心がなくては人ではない。だからそれに従うのだ。」


 拳を握りしめ、奥歯をギリっと鳴らした。


 ルイは何とか岩蜥蜴の攻撃を耐えているが、徐々にそれらの体当たりがルイの身体を掠める。


 (くそ。数が多すぎる。一体ずつなら倒せるのに。攻撃を捌ききれない。)


 左右前後、時折上からも攻撃を仕掛けてくる。ひたすらにこのまま耐えること以外選択肢がない。


「ルイ!三秒後そこからどけ!」


 ルイは岩蜥蜴の攻撃を弾くと、声の指示通り後ろへ後退。


「雨宮流剣体術 肘傘。」


 突如リュウが崖の上から飛び上がり、大地を揺るがすような一撃。衝撃で岩蜥蜴が散り散りに。そして二人は背中を合わせた。


「リュウ!ありがとう。君がいれば僕たち勝てるよ!」


 リュウは舌打ちをした。


 また聞き覚えのある言葉。リョウガと二人で災獣を狩っていた時に言われたことを思い出す。


「お前がいれば、俺は絶対に負けない。」


 思い出したくなくて心の奥にしまい込んだ記憶。それをこの任務で何度も何度もほじくり返された。リュウの空色の瞳に火が灯る。過去に囚われた復讐心に駆られた炎ではなく、今まさに前を向いて進む意思が灯る。


「あぁ、うるせぇ、うるせぇ、うるせえ!本当にむかつくんだよ。心の中にずけずけ入りこんできやがって。思い出したくないから奥にしまったのにそれを引っ張り出してきやがる。いいぜ。決めた。洗いざらいすべて吐き出させてやるよ。あいつを殺すのはその後だ。これで満足か?あぁ!?」


ルイはつい笑みがこぼれてしまった。二人は背中を合わせ、力の限り戦った。




 陽が落ち、辺りが濃い橙色に染まる頃。二人はすべての岩蜥蜴を狩りつくした。肩で息をし、大量の汗が髪から滴り落ちている。そして彼らの向かいに鐘竜が待ち構える。二人は構え直した。


「こいつでラストだ。おれの攻撃じゃこいつは切れない。何とか隙をつくるからお前がやれ!」

「あぁ!ちょっと!」


 向かってくるリュウに鐘竜は連続で頭を振り下ろす。それをリュウは流れるような歩様ですべて躱し、足元へ。


「雨宮流剣体術 鬼雨。」


 すさまじい連撃を足に食らわすが、すべて弾かれてしまう。リュウは表情を歪めた。


「くっそ。固いな。切り込める気がしない。」


 その時ルイは気づいた。鐘竜が足を振り、攻撃を嫌がっている素振りを見せる。


「リュウ!そのまま攻撃を続けて!リュウの攻撃なら表面だけじゃなくて中に浸透しているはずだ!」


「雨宮流剣体術 鬼雨。」


 再び連撃を食らわす。鱗の岩石は割れていない。しかし、鐘竜の身体が大きく傾いた。


「ルイ!体勢が崩れた!今……。」


 リュウの表情が緩む。ルイはすでに飛翔。予め投げておいた石。それを空中で静止させ足場に。大鎌を構え、鐘竜に向かって突撃。思いっきり振りかぶり、雄たけびを上げ、渾身の一撃。鐘竜の首を斬。そしてそれの身体はゆっくりと地面に倒れた。


 勢いのつきすぎたルイは着地を失敗し、転がるように岩にぶつかる。逆さまで「いてて。」と頭をさすると、リュウが歩み寄り、手を差し出す。


 夕日が二人を眩しく照らす。リュウの表情は今までの鋭く、何かを憎んだ表情ではなく、晴れやかで、あどけなさの垣間見える表情だ。ルイはその手をしっかり握り、立ち上がった。


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