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2章初任務②心の中の嵐

 次の日の早朝。ハンターとしてのデビュー戦。引率ハンターのジョウジを先頭に、ルイたちは採掘所に向かって歩き始めた。過ごしやすい気温、心地の良い風。豊かな緑の香りが鼻をくすぐる。透き通った丸目に飛び込んでくる景色はいつもとは異なって見えた。


 ジョウジは常に地図を確認し、自分たちのいる位置が目的地への最適な道から離れていないか。それをルイたちにも見せながら進んでいた。彼の地図には周辺に生えている植物や遭遇しやすい災獣など事細かに記載されている。


 ルイたちはさらに森の中を進んでいく。そして橙色の美しい夕焼けが森に降り注ぐ頃。そびえたつほど高い地層を見上げる場所にジョウジは荷物を置いた。


「よし。今日はここで野営をしよう。この辺には角兎か。三人とも。周辺に角兎の巣がある。初の野外夕食は豪勢に行きたいからね。狩りにいこう。」




 ジョウジの後ろをついていくルイたち。ふと彼が立ち止まり、森の奥を指さす。そこには角の生えた兎型の災獣が十五匹ほど群れを成していた。ルイたちはそれらを囲うようにそれぞれ待機する。そして、ジョウジが閃光弾をその群れの頭上に。夕暮れの森を一瞬の眩い光、そして破裂するような音が響き渡る。


 それが合図となり、ルイたちは一斉に角兎を狩り始めた。角兎たちは混乱し、その場をぐるぐる回っているだけ。角兎を狩っている時、ルイはあることが気がかりだった。


(なんかリュウの動きとルナの動きって独特だな。)


 二人とも地面に足跡が付かない。まるで羽が落ちた時のように音もない。それなのに動きは素早く、流れるような動き。ルイは心の中で呟く。


(ルナが言っていた雨宮流剣体術ってリュウも使えるのかな……。)


 そんなことを考えながら狩りを終えた。結果的にルイは四匹、ルナは三匹、リュウは五匹、ジョウジは二匹の角兎を確保した。


「いや~。みんなすごいな。僕が一番取れなかったみたいだね。先輩として情けないな。ほんと。」

「ジョウジさんのおかげですよ。角兎を外側に移動させないように誘導してくれてたからすごく狩りやすかったです。」


 ルイは朗らかな口調でジョウジに声をかける。ジョウジは頬を掻き、恥ずかしそうに笑みを浮かべた。


 その後野営地に戻り、ジョウジの指示のもと、役割分担で動くことになった。ルイとルナは焚火にくべる木片探し、ジョウジとリュウは角兎の解体だ。




 すでに日は暮れ始め、あたりに夜の帳下りる。ジョウジから渡された小さな灯火器を持ち、ルイとルナは乾燥した木の枝を拾い集めた。


「さっきの狩りで見てたんだけど、ルナって不思議な体の使い方するよね。それも雨宮流剣体術ってやつ?」

「そうかもしれないけど、実際のところわからない。一年だけ教えてもらって……。後は自己流だから……。」

「そうなんだ!自己流でもできちゃうなんてルナは天才かもしれないね。」


 その時、彼女は小さく控えめな唇をキュッと噛みしめる。そして腰の刀を抜き、ルイに突き出して見せた。


「この刀……。どう思う?」


 ルナの刀はルイたちが使う刀とは形が少し異なっていた。通常刀は物を切りやすいように反りがある。ルナの刀にはそれがない。真っすぐな刀身。ルイはそのような刀を見たことがなかった。


「なかなか癖がありそうだけど。慣れればこの刀はいい武器になりそう。突きに特化した攻撃もできるし。」


 まじまじと刀身を観察しているをルナはどこか誇らしげな表情を浮かべた。そしてどこか嬉しそうに剣先でつつく動きを見せる。


「この刀は私に剣術を教えてくれた人が作ってくれたの。その人もこの刀は突く攻撃に適してるって言ってた。」

「そうなんだ。じゃあその刀はルナの宝物だね。」


 ルナはコクッと頷き、刀を鞘に戻した。ルイはあまりその人のことを聞かないでおいた。一年だけ教えてくれたという言葉は裏を返せば、それ以降は教えてくれなかった。もしくは教えることができなかった。ということだからだ。




 木の枝を拾い終えた二人が、野営地に戻ると角兎が綺麗に解体されていた。ルイたちは火を起こし、解体された角兎を調理して食べた。角兎の肉は鶏肉のような食感だが、噛むほどに旨味が口の中に広がっていく。空腹だったこともあり、いつもの食事よりも美味しく感じた。




 食事の後、ルイとリュウはジョウジから周囲の見回りの頼まれた。二人で歩いていると、唐突にリュウが立ち止まる。ルイは「どうしたの?」と聞く。夜風がリュウの銀色の髪を揺らす。切れ長の奥二重の目がルイをとらえる。


「お前はどうやってあのタクトって男を倒した。あの力はなんだ。」


 「えっ。」とルイから笑みが消えた。あの時の姿を知っていたのはレオだけのはず。ルイは口を結んだ。


「俺はあの時見ていた。お前があの男をねじ伏せる姿を。だから教えてほしい。その力をどこでどうやって手に入れたのか。答えてくれればお前の質問にも答えてやる。」


「……そもそもちゃんと覚えてないんだ。本当に僕が戦ったのか。レオは僕じゃないって言ってくれたけど……。申し訳ないけど君の質問に答えるならわからない。としか言えないんだ。」


 見られたくない姿を見られたからなのか。自分が相手の質問に答えらえなかったからなのか。はっきりわからないがルイは肩を落とした。リュウはそんなルイをただ見つめていた。そして、小さくため息をつき、


「わかった。聞かれたくないことを聞いたようだ。すまない。」


 ルイは目を丸くして驚いた。「すまない。」という言葉もそうだが、リュウのバツの悪そうな顔つきを初めて見た。


「なんだよ。俺だって悪いと思ったら謝る。約束だからお前の質問にも答えてやる。何が聞きたい。」

「リュウは何にそんなに生き急いでいるの?」


 さっきまで吹いていた風がぴたりと止む。ルイは微かに緊張感を感じ取った。


「おれはこの手で殺したいやつがいる。殺せるなら俺の命はどうなっても構わない。」


 リュウの目に再び鋭さ、空色の瞳の奥に燃えるような復讐心が宿る。


「その殺さなきゃいけない人って一体誰なの?」

「父のように俺を育ててくれた師範を殺し、道場のすべての人間を殺した男。俺の兄だ。」



 リュウとリュウの兄。彼らは幼い頃、当てもなく彷徨っていた時に雨宮流剣体術道場の師範に拾われたらしい。道場には百人以上の門下生がおり、リュウの兄とリュウも入門した。リュウの兄はそこで剣術、体術共に才能を開花させ、次期師範とまで呼ばれる存在であった。リュウはそんな兄を誇らしく思い、自分もそうなるべく修行に励んでいた。ある夜、リュウが寝ていると物音で目を覚ます。向かうと、道場の師範、門下生が皆死んでいた。そしてその犯人が自分の兄だった。暗闇の中から現れたのは敬愛していた兄の姿ではなく、冷徹で人とは思えない男だった。


 話している最中、リュウの呼吸が乱れる。腹の底から怒り、声が時折震えている。冷静でいられなくなったリュウは深く呼吸を繰り返した。


「あいつは言ってたよ。お前が見ていた兄の姿は虚だと……。俺はあいつを殺さなくてはならない。師範、そしてみんなの無念を晴らすために。」


 ルイは眉をひそめ、肩を落とした。


「でも……。リュウはなんでそんなに辛そうな顔してるの?ひとまず話を聞いてみたらどうかな。殺す殺さないじゃなくて。」

「あんなやつの話なんて聞く意味がない。何人殺したと思ってる。全員だぞ。道場にいた全員を殺したんだぞ。」


 リュウの鋭い刺すような視線がルイに向く。ルイはその圧に負けないように、力のこもる眼差しを返す。


「でも君は殺されてない。」


 はっきりと芯のある声色をぶつける。それを聞いたリュウは一瞬表情が固まった後、「話は終わりだ。」と言い残し、野営地へ。柔らかな草木を強く踏みしめ、彼の拳は震えるほど強く握られていた。

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